第五話 いざ、初陣! I
昼食後、集まった雁の巣の各機を校舎艦千歳に搭載していく。この艦は旧日本海軍の千歳型水上機母艦を空母に改装した艦のレプリカで、艦名も福岡県を流れる筑後川の旧名からそのまま取られ、千歳校舎艦と呼ばれていた。なお外観においては伊吹型空母を模した艦橋と傾斜煙突が装備されているのが大きな違いである。
「積み込み、面倒だよね……」
「でもうちの校舎艦の大きさじゃあ単発機しか無理だし、それもすごく大変だよ絶対」
この会話のように、千歳校舎艦のサイズでは単発機しか離着陸不可能なのだ。もっとも、WW2中に竣工した空母で双発機の離着艦が可能な空母は信濃ができるかどうかであろうが。
ともあれ離着艦できなくともクレーンで積み込むことはできるので、航空機の運搬はもっぱら校舎艦の役目となるわけである。
そして機体の搭載を終えた後。すぐに校舎艦の格納庫で反省会が開かれていた。双発機や水上機は飛行甲板上に係留され、戦闘機などの単発機は艦内の格納庫に並ぶなか、競技に参加した全員がそこに集っていた。
「みんな本当に済まなかった!敗因はオレにある!」
その隼人の第一声に誰もが沈黙していた。
「最初の奇襲作戦は、忍術部も手芸部も園芸部も紗菜もメカニックも最善を尽くしてくれた。でもオレの指示で爆弾以外装備させなかった事、なによりオレが直接援護に出ていれば、落ち着いて爆撃できたはずだ。だから最初の最大のチャンスはオレの作戦ミスで不意にしてしまったんだ!」
隼人の言う事を黙々と頷いて聞く鉄也。
「最初の奇襲が失敗した後、敵がゴールを見つけて襲撃してきた時は(戦闘機が)四人揃ってたから撃退できた。その間、みんなは指示通りに退避して損害を出さなかった。ここは問題無かったと思う」
手芸部の一〇〇式、園芸部と紗菜の双軽爆は自陣で補給中。天文部の天山は離陸していたが退避済みで、ボート部の水上偵察機は爆装を済ませて洋上に退避していた。これらは次の反撃への布石だったのだ。
「それから相手が引いてからクロスカウンター狙いで出撃した訳だけど、ボート部はきちんと役目を果たしてくれたし、天文部もそうだ」
双方相手のゴールを把握してからは、クロスカウンター承知で互いに攻撃隊を送り込んだのだ。
雁の巣は一〇〇式の先導と、事前に把握した対空陣地の配置を考慮しつつ、水上機が反対方向から陽動を兼ねて接近して相手の邀撃機を引き付けるなどしてゴールに肉薄していた。途中対空砲火で天山が撃墜判定を受けたが、隼人と鉄也は相手ゴール上空の敵機を完全に排除することに成功し、双軽爆は今度は落ち着いて相手ゴールを狙っていたのだが……。
「私のせいで……、私のせいで!」
またしても大声で泣き崩れてしまう尚江。すぐに周囲が、そして兄が支える。
「確かにお前が撃ち漏らした敵機がトライを決めてしまった。でも、相手を素通りさせたのはうちにゴールキーパーがいなかったせいだ。つまり他ならぬオレの失態だ」
この試合の直接の敗因は雁の巣にゴールキーパーがいなかったことである。
先にも触れたがゴールキーパー、即ち地上配置の対空要員は公式戦においても必須の存在ではないが、皆無の場合はこのように、迎撃を掻い潜られるとされるがままに攻撃されてしまうのだ。
「みんなは持てる力を全て発揮してくれた。それでも勝てたはずの試合に負けてしまったのは、オレの準備不足と何より作戦ミスだ」
航空戦競技部そのものが純と鉄也しか居ない状態から、隼人が転校してきてからおよそ半年。公式戦に出場できる最低限度の戦力を整え、強豪校の準一軍相手に接戦を演じるほど育て上げた手腕は誰もが驚嘆するものだったが、現状では全国制覇はもちろん公式戦での初勝利さえ程遠いのは誰の目にも明らかになったのだ。
「もちろんオレはこんなところで諦めたりしない!不足している個所が明らかになったからには、当然補ってみせる!そして全国大会に出場して優勝を目指す!」
その決意の言葉に冷ややかになる者は、驚くべき事に皆無だった。
「あったりまえだお!こんなところで諦めるなんて嫌だお!」
真っ先に口を開いたのは園芸部のボタンだった。ボタンだけでなく、カエデもカトレアも、あの攻撃であてられた熱で闘志に火がついていたのだ。
「私もそう。だって相手が一軍じゃなかったっていっても、レギュラー狙ってる相手にあれだけできたんだよ。もっときちんと練習して作戦練ったら、公式戦だってきっと!」
手芸部のチャコも同意していた。天文部はあまり活躍できなかったこともあって、この中では冷めている方だが、この場の熱意を否定するほど冷えてはいなかったし、それはボート部も同じだった。
「とにかくあと四機分とゴールキーパーのメンバーを確保すること。でなければどんな大会でも通用しない」
鉄也は珍しく通る声で告げる。それは隼人に対してというよりも、この場に居合わせる全員に向けてのようだった。
「ああ。鉄也の言う通りだ。もっと参加してくれるメンバーを揃えないといけない」
その隼人の言葉に頷く一同。
「だったら決まりね。今まではみんな隼人が声を掛けて集めてくれてたけど、これからはみんなも積極的にメンバー集めに協力して。他の部や愛好会単位でも、個人でも構わないから、一人でも多く来てもらうようにね」
「よっし!やるからにはレギュラー争いできるぐらい集めてみせるんだお!」
『おおー!』




