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第五話 いざ、初陣! H

『双方、礼!』


『ありがとうございました!!』


 試合開始から二時間後。開会を行った飛行場に、撃墜判定を受けずにここに戻ることができた選手たちが互いに一礼する。


 ユーライアス側のパイロットはそもそも8人だったが、今は減って3人。対する雁の巣は戦闘機の4人と一〇〇式に乗る手芸部の2人と双軽爆に乗る4人がそこに立っていたのだが、双方に笑顔は全く無かった。


「当然の結果だがどう見ても薄皮一枚だ!精進しろ!」


 厳しい顔で野分が残っていた部員たちに言葉を掛ける。勝ったのはユーライアスだったのだが、驚くほど接戦だったのだ。


「ごめんなさいみなさん……。私のミスのせいで……」


 皆に泣きながら詫びていたのは尚江だった。


「悪いのはお前だけじゃない。もう泣くな」


 優しく肩から抱いて頭を撫でる隼人。


 ユーライアスの攻撃を阻止しようとした尚江と純はハリケーンの攻撃を阻止していたのだが、尚江が護衛戦闘機の撃墜を優先してしまい戦闘爆撃機のゴールへの接近を許してしまい、そのまま粉砕されてしまったのだ。


「敗因はオレだ。間違いなく」


 初めての対外試合、相手は一軍ではないとはいえ強豪校を相手に善戦したのは間違いなかったが、負けは負けである。


「負けてヘラヘラ笑う者が居ないのは何よりだ。悔しいと思わなければ成長などないからな」


「野分先輩、ユーライアスのみなさん。本当にありがとうございました」


『……』


 隼人にあわせて改めて一礼する一同。野分は黙って頷く。そして若雁たちの戦いぶりに言及した。


「戦闘機の四人以外は全員今年から始めたばかりの初心者だったというが、各々得手不得手をきちんと把握した上で、最善を尽くしていたのは褒めておく」


 野分が誰かを褒めるのは極めて珍しい事と知っている者たちは、それを聞いて驚いていた。


「実のところ、最初の奇襲が一番危うかった。装備に手間取った挙句、早々とそちらに特定されてしまっていたからな。情報収集能力と偵察の迅速さ、そして爆撃機を躊躇い無く送り込んでくる度胸。とても初心者とは思えなかった。心から賞賛するぞ」


 その言葉を聞いて、手芸部と園芸部の顔が明るくなった。


「当然わかっているだろうが隼人。あの奇襲が失敗したのはお前が半端にやったからだ。博打を打つなら後先考えずに全力を投入すべきなのだ。保険など掛けずにな」


「ええ」


 野分は隼人が最初から双軽爆の護衛に付き添わなかったことを指摘していた。初心者である双軽爆は護衛が一機でもあればそれだけで安心して攻撃に専念できたはずというのだ。


「こちらはキーパーたちの奮闘と、あの一機の投入でしのげた訳だ。いやぁ、あれは博打だった……」


「あの、すみません。それって……」


 そこへ紗菜が思わず口を挟んでいた。あの時の邀撃機の行動に疑問を感じていたからだ。


「おう。あの時向わせた機体には銃弾を積む余裕が無かったから、そのまま丸腰で送ったのだ」


『ま、丸腰っ?!』


 その言葉を聞いてショックを受けて泣き崩れてしまう園芸部の三人。そう、あの時の爆撃が外れてしまったのは、対空砲火と戦闘機に背後から襲撃されているという恐怖が原因だった。


 もし自分たちを狙う戦闘機もまた丸腰でハッタリをかけていると分かっていれば、もっと落ち着いて爆弾投下のボタンを押していたことに疑いは無かった。


「だからあの時、一発も撃ってこなかったんだ……」


 紗菜もまた呆然としていた。今まで彼女が行っていた競技ではそういったハッタリを行う余地はほとんどなかったから、相手は銃弾を積んでいて当然と思い込んでいたのだ。


「そういうわけだ。爆弾と一緒に銃弾を搭載させたり、何よりオレが護衛についていれば勝てた試合だったんだ。だから敗因はオレの甘い判断だったって事だ。みんなは何も悪くない。何も・・・・・・」


 初めての練習試合で雁の巣が劇的な勝利を掴めるとはほとんど誰も考えていなかった。しかし、突きつけられた敗因にしっかり向き合い、それを克服できなければ、何度挑んでも勝つことは出来ないのは誰の目にも明らかとなった。


「そういうことだ雁の巣の諸君!闘志あるならば、是非とも公式戦で相対して借りを返して応くれ!」


 そう言って野分は悠々と自校の方に戻っていった。撃墜判定を受けていた自校の選手たちの出迎えるために。そして雁の巣にも撃墜判定が出された者たちが続々と戻ってきていた。


「みんな!今日は残念だったが、決して無駄じゃない!風呂に入って疲れを流して昼食を取ったら、今日は校舎艦に飛行機を積んで引き上げだ!」


 この日の入浴は天然温泉。美肌効果を謳っているので、いつもの調子なら和気藹々としているところだが、この日は皆一様に静かだった。


 そして昼食は鹿児島名物の鳥飯。これが昨日の昼食だったのなら全員上機嫌で突いていたところだったであろうが、悔しい負け戦の後だっただけに全員が黙々と食す。心底、苦くも無いのに苦い味だった。

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