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第五話 いざ、初陣! G

 黒地に白線が二本描かれた250kg爆弾は大気を切り裂きながら、吸い込まれるように真紅のゴールに向って落下していく。そしてほどなく眩い閃光が走った。


『!!』


 やがて炸裂の衝撃波が機体に追いつき、かすかな衝撃で機体を揺らして追い越していく。爆弾は大地に衝突し、炸裂したのだ。


「どうなりましたか?!」


 機首に座る紗菜には真後ろの様子は全く見ることが出来ない。結果は後方に座る面々に聞くしかないのだ。


「外れちゃったよぉ!!」


 カエデの報告は悲痛だった。投下した爆弾は目標をわずかに飛び越して着弾したというのだ。


『そんなぁ!!』


 ユーライアスの赤いゴールの立方体には爆風で受けた損傷、即ち壁面の凹みと熱での焦げがついていたが、近距離ではあったが直撃ではないので破壊できていなかったのだ。


 練習であっても初めての試合で、それも初心者にしてはかなり精度の高い爆撃だったが、外れは外れである。


 初体験の試合、初めての対空砲火の洗礼、敵の戦闘機の迎撃と緊張に緊張を強いる展開の連続で、照準はともかく機体の操縦や投下のタイミングに影響がでてしまったのは否めなかった。


「ベースに戻ってもう一度ここに来ましょう!まだ試合は終わっていません!」


『は、はいぃっ!!』


 紗菜は消沈しかけた三人を鼓舞すると、進路をベースに向けさせた。対空砲火は再び激しくなったが、爆弾を捨てて身軽になった彼女たちに命中させることは叶わない。


「戦闘機はどうなってるお?!」


「敵戦闘機……、追撃してきません!」


 カトレアは安堵したように報告する。彼女の視線のはるか先でハリケーン戦闘機は弧を描いてゴールを周回し始めていた。


 ゴール上空で待機する戦闘機の仕事は当然ゴールの死守である。敵の撃墜はあくまで結果であり、敵のアタッカーを排除できれば仕事を果たした事になるのだ。


「ゴールを守れたから、無駄弾を撃ちたくなかったんでしょうか……?」


 そういえば相手は一発も機銃を発射してこなかった事に疑問に感じた紗菜だったが、今は深く考える時ではないと、その疑問を押し込める。


「とにかく今は三十六計逃げるにしかずだお!」


 九九式双発軽爆撃機は相手ゴールのエリアから無事に離脱した。そこに隊長からの通信が入る。


『双軽爆のみんなお疲れ様!残念だったけどまだチャンスは十分ある!とにかく戻って補給を受けてくれ!』


『了解!!』


 攻撃失敗の報告を聞いた隼人からは、真っ先に労いの言葉が来た。確かに攻撃は失敗に終わったが、初手から相手を威圧し、自分たちの能力が侮れないと相手にも自分たちに示すことができたのは大きな収穫だったからだ。それに何より、試合はまだ始まったばかりなのだ。


「補給したら、またあそこに行くの?」


 カトレアが不安そうに呟く。あの対空砲火は健在で、それに今度はもっと多くの戦闘機が護衛しているには間違いないからだ。


「確かに戦闘機は増えていると思います。でも相手の対空砲の位置は全部分かりましたし、写真も撮影しておきましたから」


『紗菜ちゃんすごい!!』


 その手際のよさに驚く園芸部の面々。紗菜は事前に相手ゴール周辺の対空砲の設置状況を、攻撃の際に必ず把握しておくように頼まれていたからだ。


「対空車両以外は試合中に配置転換することが認められていません。ですから次に来る時は手薄なところから侵入できます」


 すでに紗菜は再攻撃の青写真が出来上がっているようだった。恐らく隼人にはそれ以上の構想が浮かんでいる事だろう。


「よっし!とにかく基地に戻るお!」


 ほどなく自陣が見えてきた。後方を確認しても追跡されている様子は無い。


「基地に着陸したら一服させてよ常識的に……」


「そうそう。基地に着陸している間は、絶対に攻撃されないんだから」


「冷えたサイダーでも飲みたいお!」


 基地が見えると緊張がほぐれる機内。本当の戦争ならば相手の基地への攻撃は当然の行為だが、この競技ではゴールと対空火器以外の地上施設への攻撃は禁止されているからだ。


「それじゃあまずきちんと着陸ですね」


『おおー!』


 地上ではメカニックたちが再度装着する為の爆弾に機銃弾の箱と、休憩用に冷えたサイダーを用意してくれているのだ。


 双軽爆は意気揚々と車輪を出して滑走路に着陸したのだった。


 一方のユーライアスの猛者たち。雁の巣の手際は試合に参加している面々だけでなく、見学していた一軍の面々をも驚きうならせていた。


「そうか、敵はやはり爆弾を搭載していたか……」


 報告を受けた野分は珍しく安堵の表情を浮かべていた。


「流石の私も肝が冷えたぞ!」


 それは本気の安堵から来る笑顔。いくら一軍を出さなかったとはいえ、初心者集団に初手で破られてしまっては、ユーライアスの看板に拭いがたい汚名が塗られることになるからだ。


「よし!やられた分はきっちりやり返せ!初心者集団相手に面子を潰されるような事は許されんぞ!」


 ユーライアス側にも一瞬の安堵と、叱咤激励が飛ぶ。そう、試合はまだ始まったばかりなのだ……。

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