第五話 いざ、初陣! C
離陸した紗菜たちは規程の航路を通って自陣に向う。開会の滑走路からおよそ10分少々で再度着陸態勢に入る。
「着陸と同時に250kg(爆弾)を積み込む!(機銃の)弾薬箱は考えるな!」
『はい!』
九九式双軽爆が着陸すると、すぐに滑走路の脇に誘導される。ほどなく、後ろから一〇〇式司令部偵察機が姿を現した。
「私たちはタッチアンドゴーで離陸だからね!」
「分かってる!」
一〇〇式は車輪を下ろして滑走路にタイヤを接触。自陣で一定距離滑走を行わないとタッチアンドゴーが認めてもらえず、許可がでないまま規程時間以上飛行していると失格になってしまうのだ。
「着地!」
「点灯確認!」
一定距離滑走してランプが光ったのを確認すると、一〇〇式は再び加速して離陸した。
「よーし!そのまま一番遠いA地点を確認してくれ!」
『了解!!』
三番目に離陸する隼人の一式戦闘機。隼人は愛機を基地に向けながら指示を下していた。
「よし、ただちに爆装始め!!」
双軽爆の爆弾槽ハッチが開かれ、250kg爆弾の装着作業が始まった。この機体は通常仕様でも最大500kg分の爆弾の搭載が可能だが、それは本来の開発目的が敵の飛行場への攻撃用の小型爆弾を複数搭載するもので、この競技で主流である250kg以上の爆弾を搭載するものではなかった。しかしこの機体は団体総合競技に用いられる前提なので、250kg~500kgまでの爆弾も搭載できるように爆弾槽は改装済みである。
ともあれメカニック担当の訓練の成果が遺憾なく発揮されて九九式軽双爆の爆弾の装備が完了。ベースを隼人が目視したところで連絡が入った。
「双軽爆の爆装完了!どっちを優先する?!」
「そっちの離陸を優先だ!」
『りょ、了解!』
こうして慌しく九九式双軽爆は離陸した。250kg爆弾一発と、皆の期待が積み込まれた分の重みを感じるボタンたち。
「それじゃあまずはC地点に向うお!」
機首をC地点側に向け、双軽爆は最大戦速で目標地点に急ぐのだった。
同時刻。開式の飛行場では雁の巣の6機目となる天山が離陸の時を待っていた。その前方を離陸許可が出たユーライアスのハリケーンが滑走している。
「それにしても相手って、本当にみんな同じ飛行機使ってるよね。うちはみんなバラバラだけど」
事前に相手の使用機体については教えられていたが、改めて眼前で同じ機体だけで構成されているのを見て、率直な感想を口にしていた。
「向こうは全部エンジン一つで一人乗りだよね」
「ええっと、全部戦闘機とか全部爆撃機にするのってルール違反じゃなかったっけ?」
「隊長は“飛行機が全部同じでもいいけど、役割分担は事前に決めたのを動かしちゃダメだ”って言ってたよ」
今回、ユーライアスが使用しているホーカー・ハリケーンのように、戦闘機としても爆撃機としても使用できる戦闘爆撃機で揃えた学校も数多い。
具体例として挙げるとF4Uコルセアの岩国航空高校、P-47サンダーボルトの厚木航空高校、そしてFw 190 ヴュルガーの鵙航空高校が特に有名であった。さらにそれ以外の学校でも団体総合用の爆撃機として戦闘爆撃機を採用している学校は多かった。
戦闘爆撃機は速度や運動性は本職の急降下爆撃機に勝る。しかしほとんどが単座、すなわち一人乗りのためパイロットが操縦と天測航法を行わねばならないので長距離飛行が厳しくなることと、戦闘機乗りからの転換が多い事もあって爆撃の命中率が低いという問題を抱えていた。
「隊長がうちに転校してきたのも、戦闘機の人と爆撃機の人が仲悪くなりすぎたからって言ってたし、大変なんだろうね」
団体総合に出ても戦闘機系はスコアを稼ぐ事ができる(相手が爆撃機なら戦闘機相手より稼ぎやすい)ので転入は容易である。しかし爆撃機系は慣れぬ長距離、集団飛行をやらされる上に、戦闘機からの妨害まで受けてしまい、スコアも稼ぎ難い。
隼人が秋津洲から離れた理由でもあるが、現在の団体総合競技では専門の爆撃機乗りが団体総合への参加を避ける傾向が年々強まっていることもあって、止む無く戦闘爆撃機が相手ゴールの攻撃を行うアタッカーの主流になっているのだ。
ともあれ団体総合競技においては戦闘機のみあるいは爆撃機のみといった機種統一は禁じられている。そのため戦闘機は必ず試合開始前に審判団に対して戦闘爆撃機として爆装する機体を事前に報告し、自陣に着陸した際に爆弾の搭載の有無に関わらず、専用の爆装用ラックとウエイトの装着が義務付けられていたのだ。
「モタモタするな!初心者相手に遅れを取って我が校に恥をかかせるな!」
ユーライアスの基地では着陸した何番目かの機体への爆装が行われているが、ラックの装着から行わねばならない事もあって本職の爆撃機に爆弾を搭載するより遥かに時間が掛かっていたのだ。




