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第五話 いざ、初陣! B

 航空戦競技の場合、試合開始72時間前から開催12時間前までの諜報活動が公式に認められており、この期間であれば学生による諸々の法や条例に反しない手段での諜報活動が認められていた。


 具体的には公開情報の分析はもちろん、相手校への潜入や飲食店での立ち聞き、機材の撮影などである。


 なお相手のスパイを捕縛した場合は、相手への暴行や尋問は一切認められず、直ちに審判団に通報し、その監視下で試合終了までの身柄の拘束が許可されている。


 ともあれ今回、隼人は忍術部を使ってのユーライアスへの情報収集は、ゴールの設置箇所の絞込みを最優先にしていた。


「で、肝心の精度はどんなところなの?」


「オレは忍術部のみんなを信じてる」


 純の当然といえば当然の質問に泰然と答える隼人。隼人に言わせれば、これまでも競技を想定した諜報の演習を行っていたが、かなり正確だったこともあって信頼しているというのだ。


「何より、オレ以外に忍術部の部員の正体分かってるのは居る?」


 その問いに誰もが首を振るか沈黙で答えた。忍術部のメンバー三人、と隼人は言うが、時折唐突に出てくる密書でのアピール以外に忍術部は同じ学校の生徒たちにさえ存在を明かしていないのだ。


「味方にさえ正体をバラしてない忍術部だから、オレは信用してるんだよ」


「それとこれとは別の話だと思うけど……。まあ、今回の結果次第ね」


 ともあれ競技の解説に戻ると、自分たちのゴールの場所は事前に審判団が指定した候補の中から自分たちが選択することになっており、その場所を競技開始24時間前に審判団に申請せねばならない(申請後の変更は不可)。


 その候補地はあらかじめ双方に開示されているが、事前の情報収集は許されていても競技開始の6時間前(ゴールの敷設が許可される時間でもある)からは選手及び関係者に対して審査団を通さない連絡が許されなくなる(大会では極めて厳格になる)。


 そのため、敷設されてからの通報は厳禁なので、事前に仕入れられる相手ゴール情報は複数個所になってしまうが、事前通知の候補地を全て虱潰しにしていくよりは遥かに勝利に近づけるのだ。


「見敵必殺だねお兄ちゃん!」


「そういうことだ!」


 すると発言を求める挙手が上がった。それは紗菜からだった。


「あの、隼人くん。質問いい?」


「ああもちろん」


「ゴールを先に特定するのはわかったけど、だったら偵察に出る飛行機に最初から爆弾を積んでおいて、見つけたらすぐに攻撃させたほうがいいんじゃないかって思ったんだけど……」


 紗菜の日頃の姿勢からは考え難い攻撃的な意見に場がどよめく。ともあれ確かに素早く敵ゴールを発見したなら、敵の護衛が来る前に爆撃して撃破してしまうのは道理だからだ。


「うん。確かにその戦法は有効だ」


 隼人の返答のように、敵ゴールの位置を事前に絞り込みできていれば、最初から足の速い爆撃機を送り込んで妨害される前に破壊してしまうのは極めて有効な戦法であった。


「じゃあその役目、双軽爆の園芸部と紗菜に任せる」


 さらに場がどよめいた。それを少し宥めて隼人は続ける。


「言うまでも無いけどこれは賭けだ。確かに明日の試合ではユーライアスの選手が全員一軍とは思えない。だけど戦闘機は腕が立つ選手を投入してくるだろうし、何より……」


「相手のメカニックは試合慣れしている、ってことですよね」


 発言したのは整備課の生徒の赤司。隼人たちと同じ二年生だ。


「ああ。ユーライアスの、いや、航空戦競技の上位校のメカニックはみんな試合に慣れているから、弾薬の補充や爆弾の装備も手早い」


 隼人は他校と雁の巣の整備担当者の作業速度の差をはっきり認識していた。雁の巣のメカニックは整備の腕は間違いないが、速度を要求される競技から離れて久しく、整備速度では明確に見劣りしているのだ。


「こちらは相手ゴール候補を絞り込み済みだけど、相手は自分たちのゴールの場所は当然承知しているから真っ先に戦闘機を向かわせてガードしてくるはずだ。だけどこちらが手早く爆装を済ませて迷い無く突っ込めば先手必勝、チャンスがある」


「でも隼人、相手は全部ハリケーンなのよね?」


 純の懸念は最もだった。特に今回のユーライアスは全機が戦闘機としても爆撃機としても運用できるホーカー・ハリケーンで統一されているので、相手が一度ベースに到着して装備を施し姿を見せるまでは、全て戦闘機と見なして対応するしかないからだ。


「ああ。だから時間との勝負になるわけだ」


 今回の作戦に備えて、事前にメカニック担当は九九式双発軽爆撃機への爆装の猛特訓を積んでいたのだ。その結果、この機体に対してのみだが、大幅にタイムの短縮に成功したという。


「だから真っ先に九九式双発軽爆撃機を、次に一〇〇式司令部偵察機に出てもらう。一〇〇式はそもそも純粋な偵察機だからタッチアンドゴーで偵察に出て欲しい」


「八機のうち二機を偵察に出して次にオレと純。そして天山で鉄也と尚江、最後に水偵の順番でいく。敵ゴールを発見したら、オレと鉄也が攻撃隊の護衛をやって、純と尚江はゴールの守備を頼む」


 このように雁の巣は最初から相手ゴールを強襲する作戦を立てていたのだ。


「とにかくみんなで相手のゴールを見つけるんだお!」


『はいっ!!』

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