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第三話 イカロスの子ら A

 急な野試合はあったものの、迷子を出さずにほぼ予定通りのコースと時間で学校上空に帰還した一同。


「みんな!着陸だから注意するんだ!」


『は~い!』


 隼人は着陸前に全員に注意を促す。飛行機が事故を起こしやすいのは離着陸時なのだ。


 着陸時は全ての機体が着陸補助のためのナビを起動させて、操作を確認しながら着陸していく。紗菜たちの乗る九九式双軽爆も着陸態勢に入ろうとしていた。


「よっし!びしっと決めてみせるお!みんな、気楽にしてるんだお!」


 と、ボタンは意気込むのだが……。


「総員、対ショック防御!」


「了解!衝撃に備えます!」


 カエデとカトレアは思い切り身構えて衝撃に備えていた。紗菜は昨日の隼人が操縦した時のような着陸は望めないと判断して、二人に合わせて身構える。そうしている間にも機体はどんどん地表に近づいていく。


「着陸するお!3・2・1!」


 ドスンと音を立てて着陸して校庭を滑るように走るリリー。


「ひゃぁ!」


 思わず可愛らしい声を挙げてしまう紗菜。覚悟はしていたものの、やはりボタンの操縦は隼人のような安心感ある操縦とは程遠かった。


「とまれぇぇーだお!」


「」


 とはいえ校庭を走り抜けて再度離陸とまではなく、なんとか機体は校庭で停止に成功。


「ま、ざっとこんなもんだお!」


「……」


 得意満面のボタンだが、他は全員気が気ではなかった。


 ともあれ全機無事に着陸を終えると、体力を消耗している操縦士以外の部員と整備科の生徒たちが共同で機体を格納庫に運ぶ。


「よし!それじゃ今日はお疲れさま!」


『お疲れ様でした!』


 飛行機を格納庫に収納し終えると、部員たちはコーティングと汗を洗い流す為に再度大浴場に向った。


「どう考えても私たち、飛行機飛ばす事より、運ぶ方で汗かいてるよね……」


「そうですよね……」


 カエデと談笑している紗菜。コーティング剥離用のボディーソープで身体を丁寧に洗い、適温の湯船で身体を癒していた。


「それにしてもすごかったよね、うちの隊長たち!」


 女子の話題は壮烈な空中戦を演じ、打ち勝って見せた隼人と鉄也に集中していた。


「西沢くん、確か去年の全国大会で上位だったよね」


「岩橋隊長も凄く強いし……」


 そして大勢の視線は笠井に向う。


「笠井さんも去年全国大会に出てましたよね?」


「ま、私は予選落ちだったけど」


 自嘲する純だが、周囲は目を輝かせていた。戦闘機の個別競技で、激戦地区と言われる九州地区予選で一定の成績を出さないと全国大会に出場できないのだから、出場できるだけでも十分腕利きなのだ。


「成績なら岩橋さんの方が凄いんじゃないかしら。中学生の戦闘機部門で準々決勝まで残ってたんだし」


『すごーい!』


 今度は尚江の方に視線が集中した。


「でもやっぱり高校はレベルが高いと思います。だってまだ私、純お姉ちゃん、じゃなくって笹井先輩には勝った事ないですから」


 雁の巣に集った戦闘機乗りは全員隼人の昔からの関係者だったが、揃って他校の一線級に太刀打ちできる腕利きばかりだったのだ。


「うちって戦闘機は全国レベルだから……」


「岩橋隊長が団体総合で全国大会出場って言ってるのってそんなに無茶ってわけじゃないってことだお!」


 ボタンは湯船につかりながらニマニマと笑っていた。


「だからアタッカー、爆撃機が整えば行けるかもって、隼人は考えているのよね」


「爆撃機、ですか……」


 湯船で伸びをする純とそれを見つめている紗菜。まだ自分は単に飛行機に乗って遊覧気分で外を眺めているだけだが、自分にできる役割を見つけようという気になっていた。


『お疲れ様でした~~!』


 日が暮れる頃にこの日の活動は終わった。紗菜は掛け持ちではない純粋な部員としての活動を終えてから岩橋兄妹や純たちと帰宅の徒についていた。


「紗菜、今日はどうだった?」


「みんなで空を飛ぶのって、とても楽しいんですね!」


「そっか!だったら良かった」


 隼人は紗菜が喜んでいるのを見て上機嫌の様子。


「紗菜は目がいいんだな」


 隼人は紗菜が自分と同時に大刀洗の編隊を見つけた事に感心していたのだ。


「あ、ありがとう……」


 静かに照れてしまう紗菜。彼女が他人から褒められたのは随分と久しぶりの事だった。


「目が良くて度胸があるなら戦闘機か急降下爆撃機とかいけるかもな」


「まあ、そこはおいおいね」


 純が隼人を宥める。


「でも一人でも多くパイロットが増えてくれたら、その分だけ早く大会にも出られるもんね」


「そうね。その為に隼人はわざわざうちに転校してきたんだから」 


 純の言葉に驚く紗菜。


「は、隼人くん、それって?!」


「あ、そっか。辰星さんは隼人が半年前に転校してきた事情は知らないよね」


 紗菜は新学期からだが、半年前に転校というのは自分以上に何かがあったに違いない。何があったのか知りたいと思うが口に出せずにいると、当の本人があっけらかんと口を開いた。


「俺さ、前の学校と折り合い悪くなったからここに転校してきたんだよ」


「」


 絶句してしまう紗菜。だが、隼人の転校については広く知れたことの上に、本人も全く隠そうともしていなかったのだ。


「紗菜、正規部員の会合ついでに夕食一緒にいいか?」


「う、うん……」

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