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第二話 若雁たちの集い H


 隼人の隼も鉄也の零戦も旋回性能に優れた機体なのでたちまち飛燕の背後を確保。照準を合わせると機銃の発射ボタンを押した。


「背後を……取らせてもらう!」


 しかし相手もさる者で、その対策をすぐに繰り出してきた。


「やはり急降下か」


 隼も零戦も旋回性能には優れていたが、機体が軽い分だけ強度には劣るので、直進性能と特に急降下速度が他の戦闘機に劣っていた。そのため両者に食いつかれた場合は、急降下して振り切るのが定石なのだ。


 大刀洗の飛燕二機は、雁の巣の隼と零戦の追撃を何とか振り切って態勢を整える。


「来るぞ」


「分かってる!」


 態勢を整えた飛燕は空戦の定石、一撃離脱戦法を仕掛けてきた。しかし隼人たちもこれは予測済みであり、双方横旋回をかけて飛燕の攻撃を華麗に回避してみせた。


「いけー!撃ち落せぇ!」


「やっちゃえー!」


 隼人たちの空中戦を見ながら歓声をあげる雁の巣の面々。


 雁の巣が空戦部を本格的に立ち上げて半年弱。その間の活動の大半は集団飛行が大半で、隼人と純が練習を先導していたので、学校周辺で戦闘機同士の空中戦の訓練を見せる事はあまり無かった。


 そのため本格的な、それも他校との試合を見るのは初めてという部員が大半だったのだ。


 互いに隙を見て仕掛け、それを巧みに機体を左右に傾けて回避したり、ループ旋回のような大技を織り交ぜて回避して逆襲を仕掛けることを何度も繰り返しているのだが、素人目にもそれがとんでもない高度な技術で行われているのがわかる。


「あんなに凄い動きしてたら重力がすごいことになってるお!」



「この感じ……、やっぱり似てる……」


 紗菜の脳裏に甲冑をまとった騎士たちの戦いの情景が浮かんでいた。


 双方長い槍を持って勢い良く正面から交差。一撃が当たらなければすぐに態勢を立て直して、先に仕掛けた方が圧倒的優位に立って勝利する。


 しかしそれは欧州の騎士のそれではなく、どことなく現代化された強化プラスチック製の鎧であったが、これは紗菜の脳裏に浮かぶ光景である。


 ともあれ大空を舞台にした双方の激突は続く。丁々発止のやり取りが繰り返されるが、双方隙を見せずにもつれにもつれていた。


「残り三分だお!」


 その時、隼人が相手の僚機に背後を取られてしまった。


『ああっ!』


 その状況を把握できた雁の巣の若干名から悲鳴に似た叫びが上がった。しかし紗菜は状況を把握してはいたが、危機感は感じていなかった。


「みんな大丈夫。あれは隼人くんが仕掛けた罠です!」


 紗菜の声を聞いた純と尚江は驚いていた。戦闘機の空中戦はもちろん航空戦競技の素人の彼女が、戦闘機乗りの自分たちと同様に状況を把握していたからだ。


「引っかかったな!」


 相手は隼人の背後を取った事に集中しすぎて周囲の確認を怠ったまま追撃を続けていたのだ。そして。


「……」


 隼人の背後に食いついていた飛燕を、鉄也の零戦が射線に捕らえて短く機銃を叩き込む。すると相手の飛燕の風防の後ろから白煙が発生。


 撃墜判定が出ると、機内では撃墜判定の表示とアラームが鳴り、機体各所に設置されていた発煙装置から被弾した最寄の箇所から白煙が数秒間放出されて撃墜された事を内外に知らせる。


 撃墜判定が出てしまうと光線銃も実弾も射撃装置にロックが掛かってしまい、試合続行は不可能になってしまうので、速やかに試合空域から離脱しなければならなくなる。


 なお、この時にルールに従わずに他の機体への意図的な妨害を行った場合は反則が取られ、特に悪質な場合はその選手の公式戦出場禁止処分が下されるのだ。


 しかしこの試合は非公式の野試合とはいえ衆人環視で行われており、近年は地上から動画撮影されている可能性が極めて高い事もあって、野試合であってもルール遵守は徹底されていたので、撃墜判定が出た飛燕は速やかに試合空域から離脱していった。 


『やったー!!』


 歓声があがると同時に時間が切れて試合終了。大刀洗の隊長機は無事だったが、僚機が撃墜されてしまったので隼人たち雁の巣が勝利したのだ。


「やれやれ。これで強制合コンは回避だ」


 安堵の言葉を隼人が漏らすと、純が勝手にそんなことを相手の勝利条件にするなと叱り付けた。


「なんて約束してたのよ!戦闘機の男子なんて偏屈か遊び好きの両極端って、隼人が言ってたじゃないの!まったく!」


「勝ったからいいだろ……。オレだって菊池たちとみんなの合コンなんて見たくないからな」


 これには全員笑うか苦笑いのどちらかに。


「それでこっちが勝ったわけだけど、何してもらえるの?」


「口利きに協力」


「口利き?」


「相手は?」


「まだナイショ」


「はいはい」


 純も尚江もそれ以上は深く問わなかった。幼い頃から知っているだけに、隼人が我欲の為だけに誰かを紹介しろと言い出すことはまず無いと確信していたからだ。


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