共同作業と過去の知識
課題試験とは、魔道学園に置ける最も重要なものである。
この試験の結果次第で、成績の約七割が決まるといっても過言ではない。
その試験内容は様々で、課題となっている魔法を使えるようになったかどうかという確認だけのものから、授業で習った魔法を応用して何かするという、正解が分からないものまで様々だ。
今回の課題試験は後者のほうだ。
前者のほうの課題試験は確認がメインなので、確認対象の魔法がある程度使えれば半分以上の点数が貰え、最高点数がそこまで高くないのであまり気にせずやれる。
だが、正解が無いほうは点数の上限がとても高く、最高点数で魔法確認の課題試験の最高点数の倍の点数にもなる。
そのため、今回の課題試験は普通の課題試験よりもかなり重要になってくる試験だ。
今回の課題試験のお題は『エンチャント』。
これから1週間の間1日1時間ずつ授業の時間を使って、課題試験の練習をすることになっている。
この時間以外にも、放課後などには自由に練習していいことになっている。
俺とエイゼは最初の授業の時間をすべて使って、何をやるのかを決めることにした。
「さて、いきなりだけど何やる?私は何でもいいけど、ラクト君もできるやつにしないといけないからね」
「俺が平凡で悪かったな。といっても、全くもってその通りだから仕方ないか。とりあえずは属性を決めるところからだな」
「そうだね。じゃあ、ラクト君はどの属性が得意なの?私はそれに合わせるからさ」
「残念ながら、どの属性も適正度合いは普通くらいだよ。となると、俺がエイゼの得意属性に合わせるしかないよな」
「それなんだけど、私も全部の属性が適正度合いマックスなんだ」
「要するに、2人とも適正度合いのバランスがいいから、逆に難しくなったてことか」
これはかなり困ったことになった。
このままだと高得点どころか、エイゼが目立ちすぎて俺の点数が低くなってしまう。
さすがにそれはまずい。
どうする...どうしたらいい...
...そうだ、『あれ』を使ってみるか。
『あれ』とは、昔本で読んだ『増殖』という無属性魔法だ。
その効果は、流し込んだ魔力の量に応じて、対象となっているものの数を増やすことができるという魔法だ。
ただ、エンチャントする武器を増やしたところでどうにもならないので、俺はもう1つ本で読んだことのある無属性魔法の『融合』も一緒に使うことにした。
エイゼの魔法の才能は素晴らしいものであり、俺が敵うものではない。
だが今回の試験は、『エンチャント』を使って協力しながら進めていくことになる。
となると、魔法の才能が無い俺の存在が目立たなくなる。
最悪、エイゼ1人でもこの試験を乗り切ることができるかもしれない。
だからこそ、俺にしか無い本で得た知識を使って役に立つしか無い!
そのために俺が考えたのは、グロウスを使ってエンチャントの対象とする武器を増やし、その後エイゼがそれぞれの武器にエンチャントし、俺がフュージョンを使って増やした武器を1つにする。
俺の予想だと、1つに武器に様々な効果が付くというかなり強力なものになると思う。
もちろん、うまくいくかは分からないけど。
もちろん無謀なことだとは分かっているが、このまま考えていても仕方ないので俺はこの案をエイゼに提案してみた。
「え、何それ。面白そうだね。他にやることもないし、やってみる価値はあると思うな」
意外とあっさり許可を得ることができた。
その後は流れのまま練習を行った。
最初のほうは俺がグロウスとフュージョンをうまく発動することができずにいた。
失敗するたびにエイゼは、
「私が全部やろうか?」
と言ってきた。
表面では「大丈夫」といったが、内心こんなことを平然と言えるエイゼがうらやましかった。
練習を始めて三日ほどで、俺の魔法が安定して使えるようになった。
俺が魔法を使えない間は、エイゼは四本の剣を用意してエンチャントの練習をしていた。
四本同時に、しかも属性が別々の上級魔法を使ってさらにエンチャントも使うという、人間離れした技をわずか一日で成し遂げてしまったエイゼは二日ほど暇していたようだ。
四日目からは一通りやっていくことにした。
しかし、何度やってもうまくいくことはなかった。
エイゼが四本の剣にエンチャントするところまでは良かったのだが、そこからフュージョンさせるのが難しく、何度やっても1つにならなかったり、うまく1つになってもエンチャントの効果が消えてしまったりと、最終日まで一度も成功することはありませんでした。
課題試験前日の練習最終日になると、俺は焦りが出てきました。
このままだと俺の成績どころか、エイゼの成績まで下げてしまうことになる。
そう思うとこんな提案するべきでなかったと後悔してしまいます。
俺はこれを諦めて、簡単な別のやつにしようと考えそれをエイゼに伝えることにした。
だが、教室にエイゼの姿はなく、先に練習で使っている教室へ行ってしまったようだった。
このまま教室にいてもどうにもできないので、俺は練習用の教室に向かうことにした。
練習用の教室への道のりはそこまで長いものではないが、今日だけはいつも以上に長く感じた。
憂鬱な気分の中歩いていると、いつの間にか教室の扉の前に来ていた。
扉を開けるとそこには、課題試験で実際に使う剣を持っているエイゼの姿があった。
エイゼは俺が入ってきたことに気づくと近寄ってきて、
「遅いよ。明日まであんまり時間ないんだからさっさとはじめよう」
と言ってきた。
「それなんだけど、俺にはもうできなさそうだから別の...」
俺が諦めることを伝えようとすると、それを遮る声が聞こえてきた。
「私、まだ諦めてないよ。まだ終わってない。だから、最後までやってみない?」
それはエイゼの声だった。
その言葉に俺は、自分が考えていたことがバカらしくなった。
俺はエイゼのことを考えたつもりでいたが、実際は何もわかっていなかった。
ただ俺が勝手に諦めようとしていただけだった。
今までの自分に反省し、俺とエイゼは練習を始めた。
だが、結局一度も成功できなかった。
俺の残りのマナ的に、せいぜいできても後一回程度だった。
俺は最後の一回に全力で挑むと、奇跡的に成功することができた。
見事に1つになった剣は様々な光を発していた。
その光景を見てエイゼは、少し涙目になりながらこっちによってくると、
「やっと成功したね、ラクト君。でも油断しないで、明日も頑張ろうね」
そう言ってくれた。
俺とエイゼは、完成した剣をじっと眺めていた。
完成して3分ほど経った頃だろうか、突然剣から放たれた光が消え去った。
どうやら、少しの間しか効果が付いてくれないらしい。
まあ、何がともあれ完成したから良かったけど。
明日はいよいよ試験当日。
「明日は一発で成功してくれると良いなー」
俺は教室の椅子に座りながら、そんな心の一言を漏らした。
どうもMontyです。
今回も、最後まで読んでいただきありがとうございました。
また、誤字脱字等ありましたらご連絡ください。