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三英雄と圧倒的な差

ヒール、それはその名の通り回復魔法だ。


水属性魔法の一種で、寿命によって倒れたなどのようなこと以外ならたいていの怪我や病気を治すことができる万能魔法。


そんな万能魔法を俺は今、掛けて貰っている。


その万能魔法によって、みるみる内に俺のからだの傷が消えていった。


「さて、こんなもんかな。もう痛まないと思うけど、1時間ぐらいは安静にしててね」


「1時間かー、さてどうしたものか。そういえば先生、入学式って今どうなってるんですか?」


俺はそんなことを言う。


今の治療にかかった時間は約30分ちょっとだったが、さすがにもう入学式の中盤辺りだろう。


「気になるの?なら見に行く?エイゼちゃんは極端な言い方をしたけど、ほかの魔法も多少は使えるからね」


そんなことを言いながら移動する先生。


どうやら、部屋の奥の戸締りをしているらしい。


まだ何もできない俺は、天井を見上げながら先生を待つことにした。


そして5分後、色々と準備を終えた先生が奥から車椅子を押して戻ってきた。


「じゃあ、そろそろ移動しようか。少しは身体を動かせるはずだから、この車椅子に乗って。危ないかもしれないから、一応補助もしてあげるし」


「すいません、色々とご迷惑をおかけしてしまい。このお礼は いつか返しますので」


「そう?じゃあ、その体で払ってもらおうかしら」


そういいながら先生がこちらに近づいてくる先生。


何をしようとしているのか察しがついた俺は、全身に寒気が走った。


そんな俺の行動に対する先生の反応は〔笑い〕だった。


「嘘だよ嘘。生徒を癒してあげるのが私の仕事なんだから、別にお礼とかはいいよ。もし、生徒になんかしたら、その時点でやめないといけなくなっちゃうしね。ほら、茶番はここまでにしておかないと、エイゼちゃんの代表挨拶に間に合わなくなるよ」


「いや、茶番をはじめたのは先生でしょう。勝手に俺が始めたみたいにしないでくださいよ。てか、早く手伝ってくださいよ。1人だと不自由なんですから」


「はいはい。じゃあ、私の手に捕まって。起こしてあげるから」


少し笑いながら、俺に手を差し伸べてくるナイル先生。


「まったく、真面目そうにしてれば良い先生なのに。やかましいとただのオバさ...」


最後まで言いかけたとき、俺はその圧力に気づいた。


その圧力を感じた方向に顔を向けると、笑顔でこちらに圧力をかけてくるナイル先生がいた。


なぜ笑顔で起こっている女性はこうも怖いのだろうか。


とりあえず誤魔化しておこう。


「明るくお姉さんのようなナイル先生。どうか不自由な俺を、車椅子のところまで連れて行ってください。お願いします」


さすがに、こんなことで機嫌は直らないよな。


そんなことを考えながら、俺はナイル先生の様子を伺ってみる。


すると、予想外の答えが返ってきた。


「まったくー、しょうがないなー。このナイルお姉さんに任せなさい!」


そう言いながら上機嫌に俺を移動させる先生。


この人.....ちょろいな。


俺を車椅子に移動させたナイル先生は、入学式の会場となっている体育館に移動するために、とある魔法を唱えた。


【テレポート】


その一言を発した後、謎の光に包まれた。


そして気づいたときには、体育館のギャラリーにいた。


「どう、私の使える数少ない水属性以外の魔法の1つ、【テレポート】は」


テレポートは、その名の通り一瞬にして移動する転移魔法だ。


「ありがとうございます、ナイル先生」


俺はそんなことを言いながら、ナイル先生の方を見る。


するとナイル先生は、『どうだ!すごいだろ!』と言いたげな目でこちらを見つめていた。


さすがにこのまま放って置くとまた機嫌を損ねそうなので、それとなく対応しておこう。


「わー、すごいですねー先生」


「ちょっと、さすがに棒読みは無いでしょ。まったく、可愛くないなー」


2人でこんなやり取りをした後、俺はステージの方を見た。


どうやら、今は学園長の話の終わりの辺りらしい。


「......新入生諸君、これからのこの学園での生活を有意義なものにしてくれ。以上、学園長ロイル・クラリス」


俺は、ロイル学園長の話を聞いていて引っかかる箇所があった。


話してる内容に問題は無いのだが、気になったのは一番最後の部分だ。


『学園長ロイル・クラリス』、そうこの部分だ。


「?!、クラリスって、エイゼと同じ?まさか、そんな偶然あるわけないか。」


「いや、偶然じゃないわよ。実質、エイゼちゃんはロイル学園長の孫だもの。でも、驚くのはこれだけじゃないわよ」


「え?、それってどういうこと何ですか?」


「いいから、いいから。それに関しては少し待ってれば分かることだからあせらないで」


答えを焦らされて少しイライラした俺だったが、ナイル先生が言った通り、エイゼに関しての事実はすぐに分かった。


「続いて、生徒会長挨拶。生徒会長、お願いいたします」


そのアナウンスの直後に、1人の男が階段を上がっていった。


おそらく、あれが生徒会長なのだろう。


生徒会長はステージの中心に立つと、すぐに話を始めた。


「新入生の諸君、入学おめでとう。私はここの生徒会長の、バルク・クラリスだ。私が新入生の諸君に話したいことは1つだけだ。それは.....」


その調子で、生徒会長は淡々と話を進めていく。


バルク・クラリス生徒会長か。


さすがに二度目ともなると、驚かない。


が、一応俺が考えたことが当たっているのか分からないので、聞いてみることにした。


「ナイル先生、確認したいんですけど。バルク生徒会長は、ロイル学園長の孫で、エイゼの兄ってことであってますか?」


「正解よ、ラクト君。で、それを知ったラクト君に教えたいことがあるの」


「何ですか、教えたいことって?」


「バルク君が非常に大量のマナを保有していて、かつあの若さにしてかなり高レベルな魔法を扱えるということよ。しかも、それはエイゼちゃんにも共通していることなの。まあ、それが一般人ならとてもすごいことなのだけど、あの兄妹なら当たり前のことなのよね」


「当たり前ってどういうことなんですか、ナイル先生?」


「知りたいなら教えるけど、後悔しないでね。君みたいな子は、この事実を知った途端この学園を去ろうとするの。まあ、私が何とか食い止めてるのだけど」


俺はそんな事を言われたが、ここまできて聞かないで帰るなど無理な話だ。


俺は、ナイル先生が言おうとしている真実を知りたくなり聞く決意をした。


「俺が今から聞こうとしているのは、それぐらいショックを受ける内容なのかもしれません。でも、それでも知りたいです」


「分かったわ。教えてあげる。でも、約束して。この学園に残り続けて自分のやりたいことを見つけると」


「もちろんです!」


「よし、じゃあまず一つ目は内容が軽い高レベルな魔法を使えるというところからね。あの兄妹のお父さんは、魔法に関する研究を行っている方なの。その研究の成果で、いくつもの強力な魔法を作り出しているの。で、その強力な魔法をあの兄妹に教えて習得させたのだけど、強力な魔法ほど扱う者の腕が試されるの。だから、強力な魔法を習得した兄妹は必然的に魔法を扱う腕が上がって、高レベルな魔法を扱えるの」


「なるほど。でも、それはエイゼのお父さんの努力と、兄妹の努力によって成し得た事ですよね?そのくらいのことで、学園を去ろうとしますか」


「だから、軽い方だって言ったじゃん。あと、いくら魔法を扱う腕があったって、それで高レベルな魔法が使えるようになるわけじゃない。さて、ここで問題です。高レベルな魔法を使うにあたって、必要なものとは何でしょう?はい、ラクト君。答えを」


今の先生の問題は、正直言って簡単すぎる。


別に俺の頭が良い訳じゃなく、ごくごく簡単なことなのだ。


「大量のマナですよね」


「正解!そんなラクト君にはもう一問。魔王が封印された話は知っている?」


「はい、もちろんです。俺はあの話に出てくる三英雄みたいになりたいから、この学園に入ったんですから」


三英雄...それは、魔王封印の話に出てくる英雄たちの通称だ。


絶対に勝てないとされていた魔王に対し、3人の強大な魔力を利用し見事に封印したのだ。


この話は絵本にもなっていて、大人から子供まで知っているぐらい有名だ。


そんな誰でも知っているような話をしてきたナイル先生に疑問を抱いた俺は、逆に質問し返した。


「ナイル先生、なぜそんなことを俺に聞くのですか?質問の意図が分からないのですが」


「まあ、最後まで話を聞きなさいって。で、もう1つ問題ね。アクセクト...この名前に聞き覚えはある?」


もちろん知っている。


アクセクトは、三英雄の内の1人で大量のマナを保有している。


そのことから、通称『魔力貯蔵庫(マナストレージ)』とも呼ばれているくらいだ。


俺がアクセクトについて色々考えていると、ナイル先生は話を進めだした。


「アクセクトはフルネームで、アクセクト・クラリス。そう、あの3人、学園長と生徒会長とエイゼちゃんはアクセクトの血を受け継いでいるの。だから、大量のマナを保有しているわけ」


ナイル先生のその一言は、まるで俺では絶対にあの人たちより上にはいけないと言われているようだった。








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