魔法と少女
「ちょっと、君大丈夫?やっぱり気を失ってるのかなー、私もまだまだ未熟か」
そんな、問いかけと独り言が交じった、少女の声が聞こえてきた。
どうやら彼女曰く、俺は気絶したらしい。
多分、原因はさっきの爆風だろう。
さすがにこのまま寝ているわけにはいかないから、さっさと起きるとしますか。
そう思い目を開くと、顔をのぞかせている金髪の美少女がいた。
「わっ!じゃなくて、君、起きるの遅すぎ。あと10分で入学式が始まっちゃうんですけど。遅刻したら反省文書かないといけないの分かってるでしょ」
彼女は、俺がいきなり目を開けたことに対し、少し驚いたようだ。
驚いたその姿はとても可愛く、できれば今のシーンだけずっと見ていたいぐらいだったが、それよりも驚くべきことがあった。
それは、彼女が発した〔あと10分で入学式が始まっちゃうんですけど〕というところだ。
俺が今日から通うことになっている魔道学園は、山の上に建っている。
そのため、学園に向かうには麓から坂を上る必要がある。
さっきの光と爆風を受けたのが、学園に向かう坂の中腹辺りだったはず。
山の麓からここまで30分かけて歩いて来たから、今から全力で走って入学式に間に合うかどうか。
しかも、新入生は入学式の10分前には集まらないといけないから、遅刻は確定した。
彼女が言ってたように、遅刻したら反省文を書かないといけなくなる。
実にめんどくさい。
といっても、さすがに入学式には参加しないとまずいし、とりあえず身体を起こそうとする。
「痛っ」
少し動いただけで、身体に激痛が走った。
「そんな全身傷だらけの身体なんだから、起きないほうがいいよ。さっきの爆風に、風属性の魔法が混ざってたみたいだから」
彼女にそう言われ、俺は自分の身体を確認してみて見ると、本当に全身傷だらけだった。
服や皮膚が引き裂かれていて、そこから少量の血が流れ出していた。
「そうだったのか。どうりで身体が思うように動かないのか。さて、どうしたものか」
「ごめんね。私、水属性の魔法はあんまり得意じゃないの。とりあえず、私の浮遊魔法と加速魔法を使って学園までいって、その後保健室で治療してもらおうか」
浮遊魔法と加速魔法は、どちらも聞いたことがある魔法だ。
魔法というのは、大きく分けると2つある。
1つは、浮遊魔法や加速魔法といった無属性魔法。
もう一つは、さっきも出てきたような水属性や風属性などの、有属性魔法。
有属性魔法は、さらに細かく分けると6つになる。
まあ、その6つについて詳しく学ぶのが、この学園なんだけど。
そんなこんなで、彼女の準備が終わったらしい。
「じゃあまずは、あなたに浮遊魔法をかけるわね」
【フローリング】
そう短く唱えられた直後に、俺の身体が浮いた。
まさに浮遊魔法だった。
「バランス大丈夫?何か問題があったらすぐに言ってね、修正するから」
「いや、特に問題はないな。すまんな、俺なんかのためにマナを使ってもらって」
マナというのは、魔法を使うための対価のようなもの。
マナの量には個人差があり、強力な魔法ほど使う量も増えてくる。
さらに1日に使えるマナの量にも〔マナの最大量の3分の1〕という決まりがある。
この決まりを破ったり、マナを使い切ってしまうと、次の日は動けなくなってしまうため、注意する必要がある。
「いいよ、気にしなくて。浮遊魔法と加速魔法は、そこまでマナを使うわけでもないし。じゃあ、次は加速魔法をかけるね」
そう言いながら、加速魔法の準備を始める。
加速魔法は、その名の通り自分の足の速さの最大値を上げる魔法だ。
そのため、足が速くなる。
最大値の調節は、使うマナの量で決まってくる。
そうこうしているうちに、準備が整ったようだ。
そして、彼女はこう唱えた。
【アクセラレーション】
そして、彼女は魔法を唱えると同時に走り出した。
「うわっ、はやっ!」
彼女は、俺が想像していたよりも何倍も速く、坂を駆け上がっていく。
彼女の元の足の速さはどのくらいかは知らないが、俺を浮遊させながらこれほどの速さで走るとなると、相当のマナが必要になるはずだ。
普通、魔法は1度に1つ使うの基本だ。
2つ同時に使うこともできるが、その場合はマナの使用量は通常の2倍以上になってしまうため、かなり効率が悪くなってしまう。
そのため、いくらマナの使用量が少ない魔法同士とはいえ、2つ同時に魔法を発動させ続けている彼女はかなりの量のマナを保有しているはずだ。
そのことに対し驚いているうちに、いつの間にか校門の前まで来ていた。
「よし、着いた。とりあえず君を、保健室まで連れて行かないとね」
彼女はそう言うと、加速魔法を解除する。
その後、俺を浮遊させながら、校舎内を進んでいく。
廊下を進んでいくと、何人かの生徒とすれ違った。
そのたびに、彼女に対する驚きと、浮遊している俺に対する笑いの声が聞こえてきた。
俺が少し恥ずかしがっている内に、保健室に着いた。
「失礼します。ナイル先生はいらっしゃいますか?」
そう言いながら、彼女は扉を開く。
保健室の中からは、彼女の言葉に対する返事が返ってきた。
「はいはーい。私に何のよう?エイゼちゃん」
その声の正体は、保健室の中にある椅子に座っている、見た目20代後半ぐらいの女性のものだった。
おそらく、彼女は保健室の先生である〔ナイル先生〕だろう。
ナイル先生の雰囲気は軽そうだが、とんでもない魔力が感じられた。
「あ、ごめんね放ったらかしにしちゃって。この人はナイル先生。この学園の保健室の先生で、物凄く水属性の魔法を使うのが上手いんだ。でも、他はまったくダメな極端な人なんだ」
「ちょっとー、エイゼちゃん。さすがにその説明はひどくない?さすがに私も傷つくよ。それで、今浮いているその子は誰なの?」
そんなことを言いながら、こちらを見てくるナイル先生。
このままだと、ただ浮いているおかしな奴になってしまうので、自己紹介をしておこう。
「あ、僕は新入生のラクト・ベルメスといいます。今朝起きた爆発に巻き込まれて今はこんな姿になっていますが、どうぞよろしくお願いします」
と、俺はこの状況の説明を軽くする。
「私の魔法が間に合わなくてこうなってしまいました。ということで、彼を治療してあげてください」
なぜか、彼女には何の責任もないのに謝る。
それだけ、責任感が強いのだろう。
「そんなに気にしないの。まあ、彼の件については了解したわ。とりあえず彼をベットに移動してあげて。その間、治療の準備をしとくから」
そう言った後、ナイル先生は部屋の置くに行ってしまった。
「じゃあ、ベットに移すから。乱暴にはしないよう努力するけど、痛かったら言ってね」
彼女はゆっくりとマナを調節しながら、俺をベットに移していく。
「大丈夫?痛くなかった?」
俺の傷を気にしながら、様子を伺ってくる。
「うん、大丈夫だ。ありがとな、いろいろと。それと、一ついいかな?」
「うん、いいけど。どうしたの?」
彼女がそう返してくれてくれた後、会ったときからずっと気になってたことを聞いてみた。
「君の名前を教えてくれないか?」
「エイゼ・クラリス。私の名前はエイゼ・クラリスよ。よろしくね、ラクト君」
「こちらこそよろしく、エイゼ」
俺がエイゼの名前を呼ぶと、彼女の頬が少し赤くなったのが分かった。
その後、エイゼは入学式の会場となっている第1体育館に向かっていった。
エイゼが出て行って少しした後、ナイル先生が戻ってきた。
「あら?エイゼちゃん、もう行っちゃったの?まぁ仕方ないか、代表挨拶あるからね。じゃあラクト君、治療を始めるね」
【ヒール】
ナイル先生は、少し残念そうにしながら俺の治療を始めた。
どうもMontyです。
今回も、最後まで読んでいただきありがとうございました。
また、誤字脱字等ありましたらご連絡ください。




