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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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ご落胤


「……ごめん。ごめんね、ちぃちゃん、僕————っ!」

沖田の頬に伸びた白い腕。それを見て、ビクッと沖田の身体が強張った。


「謝らなくていいよ。総ちゃん、痛かったね。」


「————っ!」


殴られた時に、多分切れてしまった沖田の唇の端を見つめる千夜。斬りつけたのに、そう言った千夜に、沖田は、涙がとまらなかった。赤く染まった千夜の手を沖田は、掴んで謝罪した。


その様子を見つめる、桜色の髪の女の子。


(やっぱり、沖田じゃ、ダメか。————次の手を、考えなきゃな。)


クスクスと笑う彼女は、誰にも、気付かれる事なく、闇に、消えていった————。






「本当アホや。」


私は、何度このセリフを言われるんでしょうか?傷口を見終わった烝のセリフが、これだ。

総ちゃんの様子が可笑しい事には、気づいていた。だから、血のりを懐に隠し持ち、わざと、刺される事で、総ちゃんの目を覚まそうとしたのだが、避けきれず、軽症をおってしまった。

私の失態はこれだけじゃなく、刀を手で握ってそらしたが、寝たまま刀を握ってて、さらに深く喰い込ませてしまった。

幸い左手だったからよかったものの、

傷には変わりないと、烝に怒られたのは、言うまでもない。


布団の上で暇を持て余し、クナイやら触ってたら取り上げられた。

本やら借りて読んだが、覚えているものばかりで、面白くない。


「烝、もう痛くないし、動いても————

「ダメや。」

即答ですか。

「別に、重症な訳じゃないのに……。」

「頭が重症やっ!」

なんなんですかね、かなり、キャラ変わってますけど、私なんか悪い事しました?


「……はぁ、八つ当たりやな……」


八つ当たり?

「烝?」


「今日は、俺が充電してもらうかな?」

「いいけど……?どうしたの?」


なんか、みんな、充電ブーム?


「今日は、そういう気分なんや。」


こんな彼は、珍しい。布団に入ってきた山崎は

千夜の胸に顔を埋めてくるが、なんだか、落ち着かない。


いつもは、逆だから……。


「頼むわ。ちぃ。これ以上、俺の寿命縮ませんどいて?」


「………」


「心配なんよ。お前が…」


頼むわ。ちぃ。


「………うん。ごめんね。烝。」


そう、言う事しか、出来なかった。


芹沢の死、全て乗り越えられた訳じゃない。

毎日のように墓に足を運ぶ千夜。右目もハッキリ見える様になり、痛みも感じない。千夜は、芹沢のおかげだと思っている。


墓に花を供え手を合わせる。

「ちぃ!」


そうして、いつも誰かが、迎えに来てくれる。

長州の奴らが、うろついているから。らしいが、別に、平気なのにな。


今日の迎えは、平ちゃんみたい。

ぴょこぴょこ後ろ髪を揺らす平ちゃんは可愛い。平ちゃんに可愛いというのは禁句。


男なのに可愛いは、傷つくらしい。

可愛いのに……。


「平ちゃん、今日も…ぁ、かっこいいね。」

「か、かっこいい?本当か?」


可愛いんだけどね。コクコクと頷いてみせた。


「本当だよ。」

「やった!ちぃ、怪我大丈夫なら、甘味行こうぜー?」


どうやら、機嫌がいいらしい。


「そうだね、行こうか。」


たまの息抜きぐらい、よっちゃんは、許してくれるはず。そう思って、甘味屋に二人で足を向けた。その途中、立派なお屋敷から出てきた。

その中には、このお屋敷の主らしき人も居て、

人に囲まれるように馬に乗って颯爽と出てきた。


藤堂が視線を逸らす。

「…行こう。ちぃ。」


「え?あ、うん。」


腕を引かれ、かなり大回りして、目的の場所、甘味屋へと、到着した。



甘味所にて————。


「ここって、何が美味しいの?」

「みたらしがうまいんだって。」

「じゃあ私みたらし食べよ♪」


机の上に届けられた

二人分のみたらし団子


「さっきの人、知り合い?」

「さっきの人って?」


目が泳ぐ藤堂。何を言っているか、理解は、しているが、言いたくない。と言ったところか。


「立派なお屋敷から出てきた、馬に乗った人。」

「……あ、あぁ。

実は、さっきのお屋敷から出てきた人、俺の兄なんだ。」


「兄?」


「異母兄弟かな。

俺は妾の子。兄は正室の子なんだよ。」


かなり、勇気を出して、告白したつもりだったのに、「へー。そうなんだ。」と、返ってきた返事に、藤堂は、脱力する。


「一応、伊勢津藩の大名だよ。」

「知ってるよ。」

「ちぃは、なんとも思わないの?」

「えっ、何が?」

「俺は、世間で言うと、ご落胤」


ご落胤とは、身分の高い男が正妻以外の身分の低い女に生ませた子の事。


「……だから?」


「だから?って…」


飲んだお茶を置きながら、呆れた声を出した藤堂


「平ちゃんは、平ちゃんでしょ?

他の誰も、平ちゃんの代わりにはなれない。」

違う?そう、首を傾げた千夜。

「……そう、だな。」


何故だろうか、ずっと、悩んでいた事なのに、ちぃに話したら、肩の荷が下りた様な気持ちになった。


何も変わる事なく接してくれる千夜


俺に向けられた笑顔に、顔が熱くなるのを感じた。


あぁ。俺、こいつの事、————好きかもしれねぇ。


帰り道、川沿いを歩いていると、藤堂の足がぴたりと止まった。


刀を見つめる藤堂。

愛刀の兼重。兼重は伊勢津藩のお抱えの刀剣商が作ったもの。平成で価値としては、1000万以上と言われる。ただの浪士風情が持てる代物ではない。


「刀が、どうかした?」


「重いんだ。この刀、母親の気持ちが詰まってて……」


「良い事じゃない?平ちゃんへの想いも、父親への想いも、大事にしてるんでしょ?平ちゃんのお母さんは。」


「俺、ちゃんと応えてるのかな?とか悩むんだよ…。」


「じゃあ、————捨てちゃえば?」


「は?」


聞き間違いだろうか?想いが詰まった刀を捨てちゃえばって…

刀は武士の命。



「何、変な顔してるの?

刀に迷いがあるなら、捨てちゃえばいいよ。

母親の想いも父親の想いも関係ない……

だってそうでしょ?

その刀は、今、平ちゃんの手の中にあるんだよ?

その刀が、重いなら捨てちゃえばいい。

刀は、自分の身を守り、人を守り、そして人を殺す道具。迷いがあるなら、手放したほうがいい。」


「それはできねぇ。言っただろ?母親との思い出が……」


「………思い出が何なの?

人は、思い出だけじゃ、生きて行けない! !

綺麗事だけじゃ、生きていけないんだよ

平ちゃん! !」


俺に掴みかかった、ちぃは、泣いていた。



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