表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
95/281

芹沢の最後の願い。

 

泣けと言われても、泣ける訳がない。


手を引かれ、風呂場に連れて行かれる。

「此処で、見張ってるから…」入ってこい。そういう事だろうが、千夜の視線は、土方に向けられたまま…。

よっちゃんだって、ずぶ濡れなのに………。


「一緒に入ろう?私、襦袢で入るから…」

「ああ。そうだな。」


ただ、一人に出来ねぇ。そう思った。

虚ろな瞳で、雨の中、佇む、ちぃを見たら、

何処かに行ってしまいそうで、怖かった…。


壊れてしまいそうな、ちぃ。どうしてやればいい?何がしてやれる?俺に………。


今は、ただ、側にいる事しか……出来ない。


二人で、風呂に入って、一緒に布団に入る。

すぐに、眠気は来るはずもなく、頭は、妙に冴えたまま、余分な事ばかりが、頭の中を駆け巡る。


人を殺すのは、初めてじゃない。人が死ぬのを見るのも、初めてじゃない。


仲間が死んだ事すら、

————初めてじゃないのに、ちぃの大事な存在を、売り渡した、———俺。


組の為、近藤さんの為、いや、自分の為なのかもしれねぇ。


ちぃは、きっと気付いてる。そんな俺でも、拒絶せず、こうして、一緒に布団に入ってくれる。


それが、どれほど、俺の心を癒してるか、どれほど、お前に救われてるか、俺は、何もしてやれねぇのに………。



震えた体を抱きしめ、瞼を閉じる。少しでも、彼女の恐怖を取り除ける様に———。



佐幕、倒幕、攘夷、尊皇、なんて、悲しい時代なんだろう。自分の意見を主張しても、違う考えの人間に刀で斬られる。藩に縛られ、藩を出たら、脱藩者。浪人となる。守ってくれる人間は、いない。命をかけて信じる者の為に、戦っているのに………。同じ日本の人間なのに、


なぁ、芹沢。私は、どうしたらいい?

どうしたら、お前の目指す、新選組に出来る?


————…芹沢……。

お前は、本当に、死ななければ、ならなかったのか?

新選組の為に、お前は、死ぬ必要があったのか?

私は、止め方を間違えたんじゃ無いか?

土方の腕の中で、そんな事を考える。


薄暗い空。もうすぐ、夜が明ける。隣で眠った、よっちゃんを見てから、千夜は、部屋を出た。


芹沢の、最後の願いを叶えるために————。



雨も上がり、地面に無数の水溜り。そんなのを避けてる余裕は、無かった。いや。そんなモノすら、目に入らなかった。

暗殺現場の襖を開ける。見たくない。だけど、見なきゃいけない。


中に入れば、血生臭い匂いが、鼻につく。

————赤に染まった部屋。

倒れたままの芹沢の姿に、夢では無かったと、思い知らされる。少しは、思ったんだ。本当は、眠っているだけで、身体を揺すったら目を覚ましてくれるんじゃないか?って………。恐る、恐る、倒れた彼に、触れようとした時…

「何をしている?」

突然聞こえた声に、ビクッと体が飛び跳ねた。

「…なんで、よっちゃんが…」

そこに居たのは、土方であった。

「隣に寝てて、気付かねぇ訳ねぇだろ?で、何する気だ?」


「芹沢の願いを叶えに……」


「願い?」


「壬生浪士組筆頭局長は、病に負け、

————自害した。

それが、芹沢が望んだ死に方だ。」


自害?

だけど、どう見ても芹沢の死に方は、暗殺。


「どうやって?」

そう見せるのか?この現場を…

千夜が懐から出したのは、文。


遺書と書かれたそれは、芹沢の書いたもの。

そして、千夜は、昨夜、落としたままだった自分の刀を芹沢に握らせた。そして、袴を脱がせれば、下から見える浅葱色の死装束に、土方は、目を見開いた。


「馬鹿だと思う?こんな覚悟して死んでった芹沢は………。私は、馬鹿だと思うよ。」


芹沢の遺体の前で手を合わせながら、そう言う千夜。


「ちぃ…」

「だって、そうでしょ?言いたい事も、全部押し殺し、最後の最後に、全部私に押し付けてっ!壬生浪士組が終わったから、俺は、ココまで。新選組と近藤さんを頼んだ。そう……。言われて……、何だったの?私は………。何の為に、必死で止めようとして、………馬鹿じゃん。私……は、…芹沢を…助けたかった…のに。」


苦しそうに、自分の思いを吐き出し、うずくまってしまった千夜を土方は、たまらずに抱きしめた。


こんな事、したくなかっただろうに…

此処に来る事さえ躊躇っただろうに…


そして、ちぃは、いつも俺を責めない。


俺が、芹沢局長を、いや。お前の義父を、売り渡しっちまったのに…


「…知ってたのに、止められなかった 。」


自分の所為だと、ちぃは言た。


辛そうに吐き出すように、溢れ落ちた、その言葉は、刃となり土方の胸を貫いた。


それも、自業自得というヤツだ。ちぃは、それ以上は、何も言わず、泣こうともしない彼女。

泣き虫だった、千夜。


悲しくないわけない…苦しくないわけない…

感情を押し殺している……

そんなことを続ければ人は、壊れてしまう。


意外に呆気なく、強いと思っている奴ほど

呆気なく、壊れてしまう、


何か、気分転換……。こんな時に、とは思ったが少し散歩に行こうと、ちぃを誘った。


朝日が昇る。毎日、繰り返される光景。

「朝、歩くのも悪くないな。」


昨日の雨が、辺りをキラキラ映し出す。


「……そうだね。」


誰が死んでも、日は、また昇る。誰が悲しんでも、それは変わらない…


「俺はな、ちぃ…。尊皇だの幕府だのどうでもいいんだ…」


「……何?急に…」


「いや…中村にな、言われたんだよ。この時代は、可笑しいってな。その通りだと思って…

お前は尊王だろ?それは、未来を知ってるからか?」

そう、尋ねれば、千夜は、ふるっと頭を横に振った。

「違うよ。私は、ずっと尊皇だよ。」


「…そうか。」


鴨川沿いを、ブラブラと歩く。


「俺は…そんなのどうでもいいんだ。近藤さんをのし上げれれば…それでいい。」


のし上げて……どうする?のし上がった近藤さんは斬首。自分で見た光景を思い出し、身体が震えた。


嫌だ……そんなの……


「私は……私……は…」


考えるのを止めようとすればする程、みんなが、死んでいく姿が、浮かんでは消える。


カタカタ体が震え、堪らず、その場にしゃがみ込んだ。


「ちぃ?」


「……大丈夫。ごめん。」


本当は、大丈夫なんかじゃない。怖くてたまらない。


情けない…


「……かえろうか?」


「そうだな……」


無理矢理、笑って見せた。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ