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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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弱い自分


山崎は、千夜の事が心配になり部屋に戻った。


「ちぃ…?」


部屋に入れば、まだ、着替えてない千夜の姿。

着替えは、山崎が置いたままの場所で、綺麗に畳まれたままで、部屋を出た時の体制のまま、

千夜は、ボーっと、少し開いた窓を静かに見つめていた。


やっぱ、あかんか?


「ちぃ?着替えなあかんやろ?」


「……うん。」


返事をするが動く気配はない。


「今、山南さん風呂入ったから、ちぃも、入るんやで?」


「……うん。」


「なんなら、俺も一緒に入ったろか?」


「……うん。」


「………」


冗談言うたのに…!うん。言うなや!


「……うん。」


はぁ。聞いとらへんのやな。


「ちぃ…辛いか?」


千夜の両肩を強く掴む山崎


「やりた無いねん。こんな事、千夜!俺の目を見ろっ! !」

そう言われて、少しずつ顔をあげる千夜。綺麗な彼女の碧い瞳が、山崎を映した。


「お前は、誰や?」

「私?私は……つーー

「ちゃうやろ?そいつは、死んだんやろ?」


ーー死んだ……?


「お前は、千夜やろ?」

「…………。そっか。やっぱり、烝は、私の知ってる、烝だった。」

「ちぃ?」

「ごめん。烝を試す様な事して。」

「何を、言うて……」

「私は、死んだ人間も利用する。あなたが、”ちぃ”と呼ぶ、”小さな椿”でさえ…。

もう、生半可な気持ちでは、歴史は動かない。」


「何を言うてん?椿は死んだんやっ!」


名前を言ってハッとする。


「心配しなくても、覚えてるし、知ってるよ。

自分が、何者か。って事も、———この世界の、千夜は、もう既に、死んでしまっている。という事もね。」


そう。私が居る世界は、自分の過去ではない。

タイムスリップした。そう思っていたが、どうやら、違った様だ。


平行世界。わかりやすく言えば、パラレルワールド。そんな場所に、私は、迷い込んだのかもしれない。


話がそれたが、新選組のみんなが、存在するなら、千夜が存在しても可笑しくはない。斎藤が覚えていた事で、この世界にも、千夜と同じ人物は存在していた事がわかった。だけど、もう一人の私は、現れなかった。


考えられる事は、二つ。


ただ単に、京に来ないだけか、

既に、死んでしまっているか…


だけど、烝の言葉で確信した。


彼女は、死んでしまったのだと……。


「ちゃう、お前は、千夜や。」


そう、声をあげた、山崎。


「そうだよ?私は千夜。だから言ってるでしょ?”椿” は利用するって。」


頭を抱えた山崎。


「利用って、”椿”は……幕府の人間やぞ?」

「そうだね~。丞だって、元は、幕府の人間でしょう?」

「それは、過去や!」

「私だって、過去でしょ?」

「意味がちゃうやん。何言うてるか、わかっとる?」


コテンッと頭を傾ける千夜。


「幕府は、今、頂点におんねん。」


「だから何?頂点にいる幕府は、後は落ちるだけだよ?」


確かに、もう登る場所は無いが


「将軍様がおるねん。」

「いえもち君なら、仲良くなったよ?」


ーー…いえもち君って……


「はぁ?お前、なにしとんねん!いえもち君って、将軍やろ! ?」


「なにって、ちょっと、名前使って、御所に行ってみたんだけど?」


さらに、頭を抱える山崎。


「何、危険な事しとるんっ!連れ戻されたら、

俺が守ってきた意味が無いやろがっ!」


山崎の言葉に、いきなり、静かになった千夜。


「————ごめん。」


静かに謝る千夜を見て、山崎は、大人げなく、大声をあげた自分を恥じた。彼女は、辛いからこそ、未来を変えたいのだ。


これ以上大事な人を、失わないために——。


今の千夜には、必要だった。自分が壊れてしまうのを、防いでくれる人が……。


芹沢の死を、まだ、受け入れれない。

いや。受け入れたくない。それは、自分がやった事だとも、考えたくもなかった。明るく務めたが、それが、千夜の限界だった。


山崎も、なんて言っていいのか、わからなかった 。いつもは考えなくても、ぽんぽんと、出てくる言葉が、今日に限って、出てこない。


「山崎君?」


不意に、部屋の外から声をかけられた。


「あ、はい?」と、返事をして、スーっと襖を開ける。


「山南さん、お風呂あがったんやね。」


湯上り姿の山南を見て、山崎は、そう口にした。


「千夜さんは、大丈夫ですか?」

「…山南、さん 。」


弱々しい、千夜の声に、山崎は、身体を引き、

山南は、中を覗き込んだ。


「まだ、着替えてなかったんですか?風邪をひきます。お風呂入って来てしまいなさい。」


いまだ、赤に染まったまま、ずぶ濡れの千夜に、山南は、そう声をかけた。


「はい…。ありがとうございます。」


ゆっくり立ち上がり、千夜は、お風呂に向かってしまった。



ズルッズルッ闇に、引きずり込まれるような感覚。絶望という闇に————。


芹沢鴨という大事な存在が、———無くなった。居なくなってしまった平間、平山。


新見の『お前さえ…居なければ…』その言葉が、千夜を追い詰める。


いつものように、這い上がりたい。

だけど、手を伸ばす場所がない。足を掛ける足場がない。どうしていいか、わからない。


ザァーザァー


「…私は……、どうやって前に、進んでたっけ?」


どうやって、みんなの死を、乗り越えたっけ?

考えれば考えるほど、わからなくなる。


「ちぃ! !」

「……よっちゃん…?」

何をそんなに、慌てているのか……?

駆け寄ってきた、よっちゃん。

此処に来たら、よっちゃんが濡れてしまうのに…


「 土砂降りの中、何してんだよ!」


千夜が居たのは、風呂場の近くの庭。空を見上げ、雨に打たれ、ずぶ濡れ…


「………頭…冷やそうかと…」


そんな事は、思ってもいない。気付いたらそこに居た。ただ、それだけ…


「ちぃ、辛いなら、泣け!」


そんな事、言われても………。









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