表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
93/281

見える様になった右目


”貴方の手の震えは、誰でも感じる普通の感情。決して、貴方が弱いから…では、無い。

きっと、私も山南さんと、同じ。

一緒に乗り越えよう。貴方は、大事な仲間だよ。何も怖くない。また、一緒に本を読もうね、山南さん。 千夜より ”


そっと、山南に紙を返す。少し、震えている山南の手に、その時、初めて土方は、気づいた。


「すまねぇ……。気づかなかった。」


「いえ。大丈夫ですよ。」


そっと、沖田が山南さんの手をとる。


「山南さん、僕は、この手に支えられて居ます。刀が持てる、持てないじゃ無くて、山南さんに自身に支えられている。忘れないでください。山南さんは僕の兄です。」


ふわっと、笑った沖田に、つられて山南も笑った。


「はい。覚えておきますね。」


「じゃあ。俺も兄か?」


土方の声にキョトンとした沖田。


「何言ってるんですか?土方さんは、

母上………気持ち悪いデス…」


自分で、言ったのに、本当に気持ち悪そうな顔をする沖田は、不服そうな表情で、

「やめてくださいよね。」と、言い放った。


「テメェが、言ったんだろうが!」


「ははは。はいはい。さっさと、着替えないと風邪を引きますよ。」


どう考えても、山南さんは母上なんじゃないか?と思う土方だった。



******


山崎の部屋へと連れて来られた千夜は、芹沢鴨に斬られた右目を押さえたままで、心配になった山崎は、声をかける。

「ちぃ、大丈夫か?」


千夜の前に立っても、目が合わない。何処か遠くを見ている彼女は、山崎の問いにも、何の反応も見せなかった。


「目痛いん?」


なるべく優しく、声を掛ける山崎。

山崎とて、人を殺した事が、無いわけじゃない。身内を殺めた訳ではないが、多分、自分より辛い筈。


コクンと頷く千夜。

でも、右目からは、手を退かしてはくれない。


「ちぃ?目見せて?なんもせえへん。見るだけや。な?」


千夜は、山崎を見て、そっと、右目の前から自分の手を退けた。赤いモノがまだ、付着している千夜の顔。目も同様で、衛生的によろしくない状態であった。

桶に用意してあった水に、

手拭いをつけかたく絞り、千夜の顔を優しく拭いた。そして、山崎は、顔を近づけ、目の状態を確かめた。


目は、なんともなってへん…。痛い言うたけど?


「いつから痛いん?」


「……芹沢が、息絶えた時から。」


死んだ時から、痛い?

今朝までは、左右色が違った千夜の目。今は、同じ色で、左右の瞳の色には大差はない。山崎は、そっと、左目を隠してみる。


「ちぃ、これ見えるか?」

半信半疑だった。見えなかったモノが、突然見える。など、思っては、いなかった。


「三。」


山崎の立てた指も三本。


「見えてるんか?」


「………見えるよ。まだ、ボンヤリと。だけど。」


でも……


痛くて、痛くて、仕方がない。

そんな事を口に出したらいけない気がした。

右目は、芹沢の死と共に、痛み出した。

なんでかは、わからない。芹沢は、私の目を気にしていた。神社で最後に願ったのも、目の事。

私は、気にしてないのに、あいつは、ずっと気にしてた。

———自分が傷つけた。すまない。


そう言うんだ。右目を見ながら……。


「……そうか。目は、なんともなってへん。

今、島田さんに、風呂焚いてもらってんねん

先、入るか?」


「私より、山南さんに入ってもらって?

外に居たみたいだから…。」


「そうやな。声かけてくる。ちぃ、着替え此処に置いとくから、着替えるんよ?」


「…わかった。」


スーパタンッっと、襖の閉まる音。一人になると感じてしまう恐怖。

カタカタと、面白いぐらいに震える手を無理矢理、押さえつける。


ーー…芹沢…


「私は、案外、強くないみたい。」


『お前が.トドメを刺せ。千夜。

壬生浪士組の為に、ーー近藤勇の為に…』


あんたバカだよ。最後の最後まで、近藤さんを認めてるとは言わなかった。

「意地っ張り…」


そんな独り言が、虚しく部屋に響く。

本人の前で、認めてやればいいのに、私なんかに託して……。どんだけ、不器用なんだよ。


ぎゅっと、唇を噛み締める。


「……壬生浪士組の為に……」


もう、言う事も無いだろう言葉を口にする。


芹沢、壬生浪士組は、お前の命そのものだ。

新たな名前になった。それでも、何も変わらない。お前が作り、お前が守りたいと思った組だ。


————私は、お前の意思を間違わず継いでいきたい……。



****


ザァーザァーと、音を立て降る雨は、止む気配は全くない。


「ちぃちゃん、大丈夫かなぁー?」


そんな声が、沖田の口から零れ落ちる。


誰も、答えてやる事が出来ず、様々な思いが交錯するその部屋に、「失礼します。」そう、声が聞こえてきた。


スーッと開いた襖、そして、パタンッと閉じられ、男が一人部屋に入ってきた。


「山崎、ちぃは、どうだ?」と、土方は、声をかけた。


「今んとこ、普通に話せる。変わった事は、目が、見えるようになったと…。」


「目が?」


いや、おかしいだろ?突然、見えるようになったって……。気持ち的には、嬉しいが。


「ちぃが、言うには、芹沢が死んでから、見えるようになったって…。」


芹沢が、死んでから?


「……また、光?」


総司が、そんな事を言い出す。


「光ですか?」


山南さんは知らない。光の存在を……


簡単に、俺は、話した。その光は、ちぃの希望だという事を。そして、ちぃの過去である、新選組の隊士達の魂だという事も。

全てを聞き終えてから、

「千夜さんの希望。ですか……。」


納得してない山南の声。信じれないだろうよ。

俺だって何が、何だか、わからないんだから…


「それが本当なら、目が見えたのは、芹沢さんの魂が、千夜さんに入り込んだ。そう考えれば…」

あり得るかもしれない。


山南の言葉に、皆が、息を飲む。


「……あれや。わからん事は、わからんやろ?

山南さん、風呂入ってきて下さい。」

風邪ひくと、あきませんから……。


「私が…ですか?それなら、千夜さんを……」


やっぱり、そう、言うわな。


「ちぃが、山南さん外におったから先に入れたって言うたんよ。」


「そうですか……じゃあ、遠慮なく。先に入らせてもらいますね。」


そう言って、笑った山南さんは、風呂へ向かったのだった。









































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ