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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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ずぶ濡れの実行犯達

倒れた芹沢。

彼のすぐ傍に、千夜は、力無く腰を下ろして居た。見下ろす先には、芹沢の亡骸————。


ちぃに、やらせてしまった。義理とは言え、自分の親を、———殺させてしまった。泣きもしない千夜は、ただ、芹沢鴨を見つめ微動だにしない。


「ちぃ…」

「ちぃちゃん…」


彼女の心が、壊れてしまうのではないか、二人が、千夜に歩み寄ろうとした。その時、


「土方さん。」


不意に聞こえた原田の声に、足は、自然と止まる。入り口を見れば、ずぶ濡れの原田と、山南の姿。


「千夜さん……。」


驚いた様に、放たれた山南の声。それに応える様に、千夜の視線は、ずぶ濡れの彼らをとらえる。


「————芹沢鴨は、死にました。芹沢派を裁くのは、やめて下さい。裁くなら、私を裁いて。芹沢を殺したのは、———私だ。」


後から来た、原田と山南。千夜の言葉に驚きで目を見開いた。養子となった彼女が、トドメを刺したなど、考えもしなかった。仲の良かった二人。それ故に、胸がチクリと痛んだ。


芹沢派の一掃を企んでいた土方、それは、千夜の言葉によって、決行不可能になった。

誰か一人でも死ねば、自分も死ぬ。と言いかねない。そして、山南は、ハッとする。

「早く出た方が!」

痛む胸をそのままに、声を上げた。コレは、暗殺なのだ。殺ったら、姿を眩ませなければいけない。

山南の言葉で、止まってしまった時間が、また————動き出す。


刀を収め、土方は、千夜の近くへと歩み寄る。

視線は、ずっと芹沢を映し、頬や身体が、芹沢の赤で染まっている彼女。

「ちぃ?」

「———私は、此処に居る。」

「ダメだ。」


真っ赤に染まった部屋に、千夜を一人置いて行ける訳が無い。千夜の腕を掴み立たせる。されるがままの彼女の腕を離す事はせず、土方は、その腕を引いた。「行くぞ。」そう言って……。


コクン。首を縦に振った千夜を確認して、前川邸を飛び出した。


ザァーザァーと、まるで、いく手を阻む様な土砂降りの中、八木邸に走った。

八木邸に戻り、副長室に雪崩れ込む。


「お疲れ様でした。着替え用意してあるんで、着替えたって下さい。」

手拭いを渡しながら、山崎は、千夜の姿を見て奥歯を噛み締めた。


「あぁ、助かる。」

そんな、土方の声すら、今の山崎には、聞こえては居なかった。

ずぶ濡れの四人が頭や身体をふいてる中、千夜は、部屋の片隅に座り込み、右目を押さえた。


「ちぃ、頭ふかんと風邪ひくやろ?」

手拭いで、千夜の頭を拭く山崎。彼は、気付いていた。一番、赤く染まった千夜。殺ったのは千夜だという事は————。


なんでや!なんで、ちぃが、傷つかんといかんのや!そんな想いを押し殺しながら、千夜の頭を拭き続けた 。


「土方さん、外に長州の奴が居て……もしかしたら…また、千夜を…」


言いにくそうに、原田は口を開く。


「長州…か……」

だから来るのが遅かったのか。ちぃをまた狙っているって事か……。

「二人は……」

また言いにくそうに、沖田が口を開く。

二人。平間と平山……か…。


「二人なら……芹沢が、見切りをつけたよ。今日の朝…」

千夜が、そう答える。見切りをつけたんじゃない。逃したんだ。芹沢は、知っていたんだな。

自分が、今日殺されると。

「……土方さん、ちぃ、俺の部屋で、着替えさせるわ。」

男、四人が着替える中、千夜をそこに居させるわけにはいかない。それに、さっきから、皆、話しづらそうにしている。千夜を連れ出した方がいいと、山崎はそう考えた。


「あぁ。頼んだ。」


「御意。ちぃ…?立てるか?」


山崎が、千夜の身体を支え部屋を出た。

パタン……そんな音が虚しく響いた。


「ちぃちゃん……」

出て行く千夜を見て、痛々しく感じた沖田。


「僕が……僕が…ちゃんと仕留めていればっ!…ちぃちゃんはっ!」


ギリッと歯を噛みしめる。


「よせ……総司。俺だって同じだ。自分を責めるんじゃねぇよ。」


「何があったんですか?」


そう、尋ねる山南達に芹沢の部屋での出来事を話した。それが、千夜の覚悟だと。


原田も山南も目を見開いた。信じられないのだろう。土方と沖田が刺せなかった芹沢を一発で仕留めた千夜。

自分の…義父を…殺させてしまった…


「あいつ…大丈夫なのか?」


空気を読まない原田から出た言葉


「わからねぇ……」


大丈夫なのか、わからない……。


話しては居たが、それが大丈夫だ。とは限らない。千夜の目が虚ろだったのは、みんな知っている……。


「とりあえず、着替えを。みんな、風邪引いたらマズイ…」


考えてもわからない。だったら、今やるべき事をやるしかない。


山南が、上着を脱いだ時、ヒラヒラと紙が落ちた。それを見て居た沖田は、山南に声をかけた。


「山南さん、なんか落ちましたよ?」


紙なんか入れた覚えが無い。沖田から紙を受け取って開いてみた。その宛名を見て、山南は、驚いたように声をだす。


「………千夜さんから…」


土方に文を渡す。沖田と原田が、文を覗き込んだ。いつ入れたのだろうか?

その文…入れれるとしたら宴の席。


貴方は、本当に、いつも自分の事は、後回しなんですね。千夜さん……。











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