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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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芹沢鴨、死す。


「土方さん、ほっといて良かったんですか?」


土方の近くに来て、小声で聞いてきた沖田。

先に帰ってしまった、千夜と芹沢局長の事を言っているのだろう。


「……」


これは、俺にとって苦渋の決別だった。

会津藩主松平公より、芹沢局長暗殺の命が下った。はじめは、反対だったんだ。だが、次々に、芹沢の不祥事が取り上げられ、頭を縦に振るしか、無かった。


そして、大和屋の火災。あれは、会津藩の仕業だった。俺は、わかっていたのにも関わらず、

芹沢局長の所為だと、偽りを述べた。


全ては、新選組の為に、近藤さんがのし上がる組の為に、芹沢には、犠牲に、なって貰うしかなかった。————いや。それは、綺麗事だな。


俺は、芹沢局長を売り渡したんだ。他ならぬ、自分の為に————。


「…あ。雨……」隊士のそんな声が聞こえた。

ザァーザァーと、音を立て出した雨。

まるで、今から起こる事を拒んでいる様な空。

まだ、呑んでる隊士たちも、ちらほらいる中、土方、沖田、山南、原田の四名が、角屋から抜け出した。


ものすごい雨の中、屯所に走る。

屯所が見えてきて門の前に佇む、傘を差した黒装束。


「山崎、ちぃは?」


「芹沢さんと一緒や。ただ、薬で寝かされた みたいや。」


「……そうか。」


芹沢が、千夜が眠るだけ強い薬を飲ませたのかは、わからない。


「————ちぃちゃん。」


わかってる。僕達が殺そうとしてるのは、ちぃちゃんの義父だって事は。ごめんね。僕は、近藤さんの為に、間違っているかもしれない道を

————選んでしまった。


きつくなる雨音は、これから起こる惨事の音を消してくれる。これが成功すれば、長州藩の賊の仕業だと発表する。必ず芹沢を討ち取り、近藤を新選組の柱にするのだと。土方は、意気込んでいた。鬼が宿る瞳には、すでに、揺るぎないモノへと変わって居た。


「山南さんと左之は裏を、頼む。」


「ああ。」

「土方くんも、総司も気をつけて。」

「二人もな。」


二人が裏に回ったのを見届け、「行くぞ、総司。」土方は、そう、声をかけた。


「……はい。」


逃げたかった。芹沢さんを殺したくは無かった。自然と、足が重くなる沖田だが、土方に遅れまいと、足を動かす。

室内はもう真っ暗で、行灯は消えていた。

真っ暗な部屋をゆっくり進む。物音を立てないように、ゆっくりと…


スッと開けた芹沢局長の部屋。

迷いなく布団に近づき振り上げた刀を布団に突き刺した。


しかし、刺した布団には、何も居なかった。

ゴロゴロと鳴り響く雷に、布団に突き刺した、銀色の光が怪しく光る。


「…クククッ。」


暗闇の部屋に、笑い声。

二人は、一度顔を見合わせ、声のした方へ振り向いた。振り向いた先に、刀を抱えた芹沢と力無く畳に倒れた、千夜の姿があった。


「落ちたものだな。土方。」


鞘から刀を引き抜いた芹沢は、不気味な笑みを浮かべた。それは、まさに鬼の様。


「会津が怖いか?千夜を苦しめても、近藤を、のし上げたいか?」


ビクッと、土方の体が反応する。


「一旗上げれば、終わりだと、思っていたのにな………。」


そう言って、畳の上で眠っている千夜を見つめる芹沢。


「いらん、足枷が出来てしまった。」


そう、言っているのに、千夜を見る顔は穏やかで、まるで、壊物を触るかの様に、彼女の頬を優しく撫でる。まるで、別れを惜しんでいるかの様に………。


「さぁ。始めるか。」


カチャッと、鳴った刀。


何を始めるか————


————命を賭けた私闘を。


先に地を蹴ったのは、芹沢だった。

怯まず振った刀、それは沖田の顔を掠め、土方の着物を斬り裂いた。


早いっ!


酒の匂いがする芹沢。流石、局長を名乗る男である。気を抜けば、ヤられるのは、土方と沖田。


「俺を殺すのでは無かったか?それでは、近藤は、のし上がれないっ!」


わはははっ!芹沢の狂った様な笑い声が、部屋に響く。それと同時に、雷が鳴り響く。彼の声をかき消す様に…。

芹沢の笑い声は、二人の神経を逆なですのには、充分であった。


「うわぁー」


斬りかかる二人


グサッ


刺さった。だが、すぐに、振り払われる身体。

二人が負わせた傷は、致命傷にならない程度。

着物が破れ、少しの傷を負わせただけ。

暗殺は、初めてじゃない土方と、暗殺は、初めての沖田。不慣れな二人の暗殺。相手が、並みの人間なら容易かった。だけど、芹沢は武士。

相手が悪い。


引くわけには、いかない。もう、芹沢の部屋で、刀を抜いて入った時点で、もう、後戻りなんか出来るはずがない。


殺るか殺られるか、どちらかしかないのだ。


ジリジリと足をずり出す。


早く仕留めたい二人。芹沢の気迫が、容易に刀を下ろさせないでいた。

懸命に刀を振り上げ、芹沢に振り下ろす。

ダメなら、突きを入れる。


だけど、芹沢を傷つけるが、倒れてくれない。

わかっている。早く決めなきゃいけない。という事は………。わかっているのに、

どうしても、倒れている千夜を見てしまう。

千夜の義父。そう考えると、迷いが少なからず生まれた。

どれだけ、千夜が芹沢の為に、自分を削り芹沢を止めてきたか、壬生浪士組に害を成さない様に、懸命に動いていた千夜。


本当は殺したくはない。仲間だから…

だけど、やらなきゃならないんだ!僕はっ!

近藤さんの為にっ!


「ははは!近藤は、まだまだ青い。でも、彼奴はいい目をしよる。」


近藤さんを認めてる様な発言。


何故……

「どうして……。今、そんなことをっ!!」


言うんだよ。こんな、殺されかかって居るにも関わらず。二人の動きは、ピタリと止まる。


「なんだ?もう、斬りかかるのは終いか?

お前達の覚悟はこの程度か! ?ヌルい。

何が、近藤を伸し上げるだ…!戯言を!あははっ! !ふ……。

土方は、鬼にはなれない。お前の言う通りだ。千夜 。」


倒れたままの千夜に話しかける芹沢。正気じゃないのか、芝居なのか、わからない。


「うるさいっ!僕は近藤さんの為に、

貴方を、斬らなきゃいけないんだぁー!」


ズシャッ左脇腹に沖田の刀が入る。ガクッと膝をついた芹沢。


「やりおる……。それだ。沖田、それを忘れるな。」

まるで、指南しているかの様な発言。

沖田の刀が、カタカタと鳴る。

ハァハァーーッ!


「土方、お前は斬らぬか?もう、疲れた……。

千夜、俺は最後まで、武士で、居られたか?」


また、彼女の名を呼ぶ芹沢。

そして、その言葉に答える様に、ゆっくり桜色の頭が、動きだした。


「ちぃ、ちゃん?」

何故、起き上がる?どうして今!!


「ダメだちぃ!」


こんな光景をみたら、ちぃだって、

心を壊しっちまうかも知れねぇっ!


「芹沢、お前に感謝する。壬生浪士組を支え、

悪役を買ってくれたお前に……」


「父上だ。千夜。」

ふっ

「父上。か。」


ゆらゆらと、立ち上がる千夜。


「感謝する。父上。最後まで武士として居てくれて、私たちをここまで導いてくれて、ありがとう。父上。」


スッと、引き抜いた刀。怪しく光る日本刀それを構える千夜の姿。その、刃先は、芹沢へと、向けられた。


「ちぃ、お前、まさかっっ!!」


鋭い眼光が、芹沢を捉えていた。


「————私が、お前の後を継ぐ。」


「あははは。俺は、壬生浪士組筆頭局長!

芹沢鴨だっっっ!お前の覚悟とやらを見せてみよ!」


覚悟……。


「どうした?俺を止めるのは、誰だ?」


ーー……芹沢……


グッと握った刀。重く感じるその刀を握り直し、千夜は、キッと芹沢を睨みつける。


「お前を止めるのは、私だっ!」


その、意志の強い視線に、芹沢の口角は満足そうに上がったのだ。


ーー…せりざわ……っっ!


タッと、踏み出した千夜。


ズシャッっと響いた音…


「コレが、私の覚悟だっ!クソジジイっっ!」


「クソガキがっ!最後の最後まで、生意気だ……お前の覚悟……しかと見た。」


芹沢鴨の心臓を貫いた千夜の刀。


「私も、……地獄に堕ちる。死んだらまた、

何時でも、愚痴ぐらい聞いてやる。お前に託されたモノは、全て、背負ってやる。有難く……思え。芹沢……」


泣くな……泣くなっ!

必死に、肩やら顔を撫で回す芹沢。


「頼む……近藤を……芹沢派の人間を……仲間を

頼んだ……千夜!全て託す……お前に…

刀を……使え……これで……悔いなく逝ける……

……………椿…。おれは……いつでも……そばに

……い……る。」


ズルリと、芹沢の身体が傾く。

もう、芹沢は、事切れていた………千夜を見たまま————。



————…椿。


「ーーっ!」


…… 泣くな…泣くな…泣いちゃダメだ。


芹沢に、突き刺したままの刀を抜く。

まだ暖かい赤が、千夜の顔やら身体に飛び散った。そっと、芹沢の身体を支え、ゆっくり畳に寝かし、そっと芹沢の顔に触れた。


「……お疲れ様でした。父上…」


もっと、言いたい事はあった。

もっと、話したい事もあった。

もっと、教えて欲しい事があった。



もっと、一緒に居たかった。

芹沢の目元に手をおけば、瞳は閉じられた。


もう、開かれる事は————ない。


冷たくなった手。

私は、この手に、この腕に支えられた。


もう、心音も聞けない。

もう、抱きしめてもらえない。

もう、クソガキと呼ばれる事もない。


私が、心臓を、止めたから…っ!


芹沢鴨、貴方は、最後まで、


————武士でした。



文久三年九月十六日


芹沢鴨 暗殺


壬生浪士組筆頭局長 芹沢鴨は、新選組と新たな隊名を残し、壬生浪士組の名前と共になくなった————。


















































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