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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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相撲奉行


火事の後、芹沢が会津藩の藩士達に、取押えられる。両腕を捕まえられた彼は、まるで、罪人扱い。何故?芹沢は、眠っていただけなのに……。


「芹沢。」

「千夜、心配するな。」


まるで、手を出すな。と言っているみたいな芹沢に、千夜は、ただ、「あぁ…」そう言いながら、悔しくて唇を噛みしめる。握り締めようとした自分の手は、土方が握りしめた。

まるで、行くんじゃない。そう言っているかの様に————。


結局、私は、ズルイ人間。

此処で、芹沢を助けるのなんか簡単なのに、

会津藩の人間を、斬ってしまえばいい事なのに、壬生浪士組が、不利になると思えば、体が動かない。


よっちゃんに、芹沢暗殺を聞けばいいのに、怖くて聞けない。


自分が、情けない。何も、変わってない。歴史も、私自身も、少しの変化をバカみたいに喜んだ。


結局、私は、何もしてない。全てが、曖昧……。


ただ、今日の事でわかったことがある。

芹沢の暗殺は、起こる確実に。二人の様子からそれは、明白だ。


芹沢の逃げ場は、もう、残されてはいないの?

芹沢は悪人。そう思ってた。芹沢鴨と言う男を知ったから、殺して欲しくない。


随分、勝手な奴だな。私は……。


芹沢鴨暗殺は、私も実行犯だったのに……。



何で、私は、繋がれた、よっちゃんの手を、振り払えないの?


『間違ってるなら、

間違ってるって言う勇気を持てっ!』


随分、偉そうな事を言ったもんだ。


自分が、出来やしない言葉を、私は、口走ったのか……?


屯所迄の道、私の頭の中は、芹沢を生かす方法ばかりを考えて居た。


帰ってから、千夜は、部屋の隅に座って、人形の様に動かない 。

土方は、今日も、礼相撲の為、出かけて行った。


一人になった部屋の中。

考えたくない事ばかりが頭の中を支配する。


芹沢が、————死ぬ。死なないとダメなのか?暗殺という形で……


誰を止めればいい?何が正しい?どれが正解?

本当に、会津が関わっているの?


わからない。


煙管の匂いがする部屋の中。

「ねぇ。誰か、教えてよ。私は、何をしたらいいの?」


ふと、思い出す。

————まだ、死んどらんのに、勝手に殺すなやっ!


仲間が死ぬ事が怖くて、生きる希望すら失った時、烝が言ってくれた言葉


「まだ、死んでない。」

全くその通りだ。まだ、誰も死んでない。


何を迷ってるんだろうか?

何を怖がってるんだろうか?


まだ、何もして無いじゃないか。何もしなくて、後悔するなら、何かをしてから、後悔した方がいい。絶望なら、幾らでも見てきた。


「————らしく、無いな。私。」


書類が散乱した部屋。閉め切られた部屋は、煙管と墨の匂いしかしない。

千夜は、襖を開け放ち、深呼吸をした。


やめよう、嫌な事を考えるのを……




「千夜さん?居ますか?」


襖を開けずに、声をかけた。

土方さんから、千夜さんの様子がおかしいから、お前近くに付いて居ろ。と、言われて副長室に来た中村。


「あー。中村?どうしたの?」


あれ?別に普通の声が返ってきた。


「入りますよ?」

「うん。」


スー


「………なっ!///」


部屋に入って、すぐさま襖を閉めた。


「何してるんですかっ!」


「へ?何って、着物、着ただけど?」


「なんで、女物の着物を!」


中村が驚いた理由は、千夜が女物の着物を着ていたからだ。野獣の巣窟で。だ!


「えー?可笑しい?」


「いや、 綺麗ですけど///」


「なんで、照れてるの? 」


「こっちの都合で……」


いや、どんな都合だよ。


「中村、ちょっと付き合って?」


…………


嫌な予感しかしない。


「門限までには…」帰らないと殺される。


「あー。大丈夫。」何とも軽い言い方に、脱力する。

「わかりました…付き合います。」


俺に拒否権はない。



で、町に出たものの……、


ものすごい視線を集める。

俺じゃない。隣を歩く千夜さんを皆が見ている。いつもと違う女物の着物。浅葱色の着物に蝶があしらわれ髪も結い上げてある千夜さん

簪も刺して、綺麗に結い上げられた髪は、桜色。


綺麗な彼女。

伊達に、島原の芸妓を名乗るだけはある。でも、何処に向かっているのだろうか?

中村は、行き先は聞いて居なかった。


でも、向かってる先は多分、壬生寺。



ガヤガヤとしている壬生寺に到着すれば、千夜は辺りを見渡し、

「みんな、楽しそうだな…」

そう言った。

笑っている人達の顔が、たくさんあった。


「そうですね。みんな、楽しそうです。」

「……守るべきものは、たくさんあるんだな。」


「千夜さん…?どうしたんです?

そんな弱気な千夜さん、らしく無いです。」


眉を寄せる千夜

「芹沢が、ね。」


それだけで、俺はわかった。

千夜さんが芹沢暗殺で、悩んでいる事を……。


「人は、弱い。志し半ばで散る命もある。

成し遂げれる人なんて数少ない。」


弱気な彼女に、俺は、

思いついたままの言葉を口にする。


「もし、死んでしまったなら、

誰かが、意志を継げばいいじゃないですか?」


誰かが、意志を継ぐ?


「芹沢局長の命はどっちみち、そんな長くない。だから、死んでいいとは言わない。

千夜さんは、未来を変える。芹沢局長は、一番望んでるんじゃ無いですか?

だから……。


だからこそ、貴方に芹沢の姓を名乗らせてるんじゃないんですか?」



芹沢の姓。


そうか。もう、託されたんだ。私は………。


「本当、世話がやける、義父をもったもんだ…」


そう言って、笑った千夜さん。

人の死なんて、割り切れるものじゃない。

それでも、千夜さんは、答えを探し、乗り越え様とする。


「千夜さんの義父なら、それぐらいが、丁度いいんじゃないですか?」


「まぁね。そうかも。」

退屈しないしねー


この人は、本当に悩んでるんだろうか?


「さて、私はちょっと行く場所あるから

中村はーー「行きますよ。」


向かうのは……多分

会津藩邸。




中村の読み通り、千夜は、会津判定にやってきた。

「芹沢鴨の身柄を引き取りに来た。」


そう告げる千夜の顔は、真剣そのもの。

なんで、この人は、会津藩邸でも、

こんな堂々としていられるのだろうか?


「芹沢鴨?あいつはまだーー


「返さない理由は無い筈だ。あいつは、やっていないのだから。」


会津藩の人間のが押されている。


「貴様っ!」


今にも斬りかかりそうな会津藩士


「たかが、町人を斬りたいならば斬ればいい。

ただ、目撃者が居るぞ?」

どうする?と、言わん限りの千夜に、

「……くっ…」


刀をしまった会津藩士。


そりゃ、斬れないだろうよ。女子だし……

ついでに俺が居る。


まさか、わかってて、

女の格好で此処まで来たのではないだろうか?


「女、名を名乗れ。」


「椿。」


椿?偽名?でも。

明らかに、会津藩士達の顔が強張った。


それから、芹沢の身柄を受け渡してもらい、屯所に帰った。


まだ日が高い昼、隊士達は、まだ礼相撲に行っており、屯所は静かだった。




































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