表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
83/281

長州の志士

「……ん…っ…?」


次に、千夜が目を覚ましたのは、夜中の事であった。部屋の中は、真っ暗で、今、此処に来てから、どれぐらいの時間が経過したのかすら、わからない。

今、何時なんだろう?まだ、日付けは変わらないのだろうか?


体を動かしたい。屯所に帰りたい。自分の意思とは、裏腹に、上手く動かない身体。


芹沢……。

お前は、暴れてないか?時間が……無いんだ。

あいつの命の灯火が、着々と弱くなっていく……芹沢、お前を止めるのは、私なんだからな?必ず、止めてやるから頼む。まだ、

————逝くんじゃないぞ。芹沢。


ダメだ。この毒は、達が悪い。毒に抗おうとする千夜だったが、何もできないまま、意識は、遠退いていった。





******


(ちぃ……)


闇夜の町を駆け抜ける黒装束


(何処におる?)


どれぐらい駆けずり回っているか、山崎の額からは汗が流れ落ちる。


(どこ行ってん…?)


木の上から、キョロキョロ辺りを見回す。たった一人の女を懸命に探す山崎。


(戻ったら、治療言ったやろが!)


「ちぃ……」


見つけたる。絶対。見つけたるから、

お前は、必ず守るから、無事で居てくれ。ちぃ…



***


「おいでやす~」


着飾った女達が出迎える島原、花街


土方、沖田は、壬生浪士組の行きつけ「角屋」に来ていた。


「土方はん、ワッチ待ってたんでありんすよ?」


廓言葉で話しかけられる土方、


………誰だっけ?今はそれどころじゃねぇーんだが…


女の名前すら忘れる、土方。


「土方さん、さっさと、聞いて帰りますよ。


僕、この変な匂いする場所に、長居したくないですからね。」


冷ややかな沖田の声。

相変わらず、千夜以外の女には冷たい……


千夜の情報を求めて、島原まで来たのに、土方の馴染みの天神に囲まれてしまった二人。沖田は呆れ顏で、その表情には、もう帰りたい。と書いてある様だ、


「僕、帰っていいですか?」


囲まれた土方を助ける気もない。沖田が欲しいのは情報だけで、女ではない。しかも、鼻の下を伸ばした上司を見てるのもつまらない。


そして、沖田の嫌いな匂いが充満してくる始末。白粉や練り香水、香り袋などとにかく鼻につく……。できるものなら、立ち去りたいが、

千夜の情報と考えると動けなかった


「 そねえな所で、何をしてるんでありんすか?お客様の邪魔でありんす……」


凛とした声に、群がっていた天神達が二人から離れた。


「小寅姐さん…」

「さっさと持ち場に戻りなさい!」

サッと、さっきの群がりが、嘘の様に、たった一言で、天神達が居なくなった。


土方と沖田の前で、頭を下げた小寅。


「 申し訳ありんせん。先日は、助けて頂き、

ありがとうございんした。」


先日……?芹沢に髪を切られそうになった時の事か。


「いや、あれは、こっちが悪かった。

すまねぇな、怖い想いをさせっちまって。」


「いえ…」


いつまでも続きそうな会話に、沖田は、ため息を吐いた。


「土方さん、今は、ちぃちゃんの事を!」


「君菊の事?それなら、部屋用意しんす。こちらへ…」


二人は、顔を見合わせた。しかし、いつまでもそこに居るわけもいかず、小寅の後を追って個室に入った。


「ちぃを知ってるのか?」


「へぇ、知ってんす。壬生浪士組に入ってるのも。君菊に何かあったんでありんすか?」


千夜が、長州に連れ去らわれた事を簡単に話した。


「長州?前に、長州のお客さんが居んしたけど、確か、君菊が座敷に入ったと思いんす。

座敷の中で、何を話したか………。ちょっと、待ってておくんなんし。」


そう言って席を外した小寅。

キュルキュル~

「お腹空きました~」


呑気な奴だな。


「飯、まだ、だったな。しょうがねぇ、食ってくか!」


「ごはんだけですよ?女の人を食べないで下さいね。土方さん」


いや、食う気もないんだが。


呑気にごはんを食べて、


小寅から、長州の者が

よく利用する宿を聞き出す事に成功した二人。

でも、その宿は一つだけではなかった。


五つはある宿を、くまなく探さねばならない。


小寅に、宿の場所を紙に書いてもらい、その日は、屯所に帰る事にしたのだった。



*****


ペシペシ


「……ん…?」


薄っすらと開かれる碧い瞳。目の前には、高杉の姿。どうやら、彼が、自分の頬を叩いたらしい。まだ、外は暗いのか、行灯の光がゆらゆら見える。さっきより、少し体が軽くなった気がした。


「お、目開けた。」


今、ペシペシ叩かれたんですが?


「えっと?」


「飯食えるか?」


ニカッと笑う高杉。

ゆるゆると、起き上がり周りを見渡す。高杉以外は、居ない様子だ。


「……食欲ない。」

視線を落として、初めて気づく。自分の着物が変わっている事に…

視線を見てわかったのか、


「…すまねぇな。

着物汚れてたから、着替えさせた。」


「…そうなんだ。」


なんとも薄い反応。赤くなるとか、恥ずかしがるとかするかと思ったのに、そんな反応もなく、平然と言われた言葉に、高杉は、まだ、意識が朦朧としてるのか。と結論づけた。


千夜の意識は、正常なのにも関わらず…


「ほら、飯食う。」


無理矢理持たされた箸…

ニコニコしてる高杉。


なんで…?私、敵じゃないの?

優しくされる理由なんて無いのに…


「……いた、だきます。」

「おう、食え。」


オズオズと、お味噌汁を飲む。千夜にとっては、久しぶりのまともな食事。

毒入りのごはんばかりを、食べていたから


「……高杉…」


「なんだ?」


ニコニコしてる高杉に、聞いてもいいのだろうか?


「————…私は、敵じゃないの?」


不安そうに自分の顔を見る女。確かに、芹沢鴨の子と聞いて、副長の小姓と聞いて欲しくなった子。


壬生浪士組の動きは、喉から手が出るほど欲しい。だけど、女中として間者に出した女に

毒まで盛られても自分達を怖がらない目の前の女に、同情をしたのか、もしくは、綺麗な女だからか、わからないが、敵だと思いたくない自分が居た。


「今は、とにかく食え。なっ?」


「…………うん。」



いつもなら。言いたい事を言ってしまうのに、

なかなか言い出せない千夜…


体を動かせる自身がないから、何も言えないのかもしれない。今の千夜は、起き上がれはしたものの、それが精一杯。つまり、逃げられない。


今、自分が言いたいことを言えば、殺されるかもしれない。不利だから話せない


なんとも勝手だが、まだ、死ぬ訳にはいけない……


敵なら、敵だ。と、言ってもらった方が、まだマシだ。複雑な気持ちのまま、箸を動かす。


目の前にはニコニコした高杉。


敵意は感じない。

はぁ。無意識に、ため息が出た。


「どうした?」


この優しさも、今の千夜には重荷でしかない。


「……なんでも…ない。」


もどかしい。自分の気持ちが言えないのが。


高杉が、首を傾げたが、気付かないふりをして

少し多かったごはんを食べきった。


スッと襖が開き、吉田と桂が部屋に入ってきた。


「あぁ、起き上がれたんだ。結論早かったんだね……」


上から下まで見るような目。特に敵視はしていない彼らの視線。


なんで?なんのために、連れて来たんだろうか…?



「へぇー。ねぇねぇ、お前さ、何で芹沢と土方に気に入られてるの?」


まるで友達と話している様な吉田の話し方、

この時代にもいるんだね。

こういう人……。人懐こいというか、なんと言うか……


「……知らない。本人に聞けば?」


サラッと言った千夜に三人は固まった。



結構、ハッキリ言った千夜に、三人は驚き固まった。千夜の外面との差があったのだろうが、用は三人の勝手な思い込みである。


「ヘェ~なかなか、面白い子だね。君。」


面白い?何が面白いのか、千夜には全くわからない。


「ねぇねぇ、千夜って言うんだよね?千夜って呼んでいい?」


………既に呼んでるのに

確認する必要があるのだろうか?


「別に、いいけど…?」


本当に、なんなんだろうか?

やったーっと喜んでいる吉田の姿を見て、何がそんなに嬉しいのか…


「まぁ、今日は遅いし寝るか!」


まだ、食べたばっかりですけど?とは、突っ込めず、布団に横になる。


ガサゴソ……


「千夜、俺となりね~。」

「あっ!お前ずりぃぞ!」


「はいはい、うるさいよ。

俺は隣の部屋にいるからね~。」


吉田、高杉、桂の順に話すが、

別に、どうでもいい千夜……


寝よっ。と、瞼を閉じた。



しばらくして、まだ、千夜は眠れずに居た。目を開け体を起こしてみる。


あーそうか……。今日は、心臓の音聞いてない。いつの間にか、千夜の元気の源になった上に、日課になってしまった、心音を聞くというだけの行為。無くなったら、無くなったで、眠れない。困ったもんだ。


横を見れば、吉田が布団に抱きついて寝てる。

反対には、高杉。


「……なにしてんだろ…私。」


屯所に帰りたい…


「何がだ?」


へ?まさか、返事が、返ってくるとは思わなかった。


「高杉?起きてたの?」


まぁ、見張りだろうから、どっちかが起きてないと、ダメでしょうが。


「あぁ。どうした?眠れないのか?」


「………うん。」


まさか、心音聞けなくて、寝れませんなんて言えるわけが無い。


「お前まさか、土方と一緒に寝ないと、寝れないとか言わないよな?」


ガシガシ頭を掻きながら聞かれた。ある意味正解だが、別に、よっちゃんじゃ無くてもいい。


うん、最低な発言だが、別に恋仲でも無い。


ただ、よっちゃんには、何故だか悪い気はするが……。


「別に……。そんなんじゃない。」


フイッと顔を背け、布団に戻る


「ならいいけどよ…」


何も良くない。全く寝れる気がしない。結局、空が明るくなるまで、千夜が眠る事はなかった。






















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ