長州の志士と初対面
蔵に向かう三人。
「山崎君!僕、意味がわからないんだけど!」
蔵に走っているのにも関わらず、沖田は文句を言う。
「だから、ちぃは、長州と話をしたかったんや。だけど、此処、屯所で話すのなん、土方さん反対するやろ?せやから、宿に乗り込むつもりやった。
けど、二択ならどうなる?
ちぃが長州に捕まるか、此処で話させるか……」
「話をさせる?ってか、何なんだよ!その二択は!」
怒るのも当たり前だ。
「ちぃ止める為なんやから、しょうがないやろ?」
しょうがないで、片付くのか?
「あー。まぁ、ちぃちゃん。ですからねー」
走ってるのに脱力しそうになる土方。
ちぃちゃんだからって、どういう事だよ…
「ちぃが、長州を諦めさせんの大変やってん。
誰や……あんな子に育てたんは……」
ジロッと、土方を見れば
う……っと、土方は、そっぽを向いた。
千夜は、確かに周りで起こる事を利用した。
長州と話をしたかったから、乗り込んででも、と考えていた。
だけど、山崎に説得され、乗り込むのは諦めていた事を、土方らは、この時、初めて知る事になる。
ただ、長州が自分を狙っている事実は、隠したまま……だった。
やっと着いた蔵。中には誰も居ない。
ただ、あったのは、千夜がいつも使っている薬の巾着。
間に合わなかった……
膝を地面につく山崎。
土方も、信じられないといった表情を隠しきれない。
「嘘……だよね?」
沖田の声が、その場にいる二人の心に突き刺さる。なんで、千夜が連れ去られなければならないのか?
「なんで…!!ちぃが…。
山崎!何でちぃから離れた!」
山崎に掴みかかる土方。
本人もわかってる
ただの八つ当たりだって事は……
山崎も、ただ、悔しそうに唇を噛み締めた。
「山崎さんを掴み上げた所で、何にも変わらないですよ?」
後ろから聞こえた男の声。
「中村……」
「なんで中村が?」
沖田は知らない。中村が、未来から来たなんて……
「今は、俺の話は、どうでもいいですよ。
千夜さん、探す方が先でしょ?」
確かに中村の言う通り。
薬を持たず、毒を盛られた千夜。
頭の中は、最悪の結果しか見せてくれない 。
そんなの絶対嫌なのに、それしか見せてくれない頭をなんとか無理矢理動かす。
「山崎、長州の輩を見つけだせ!」
「御意。」
サッと消えた山崎。
「総司、俺たちは島原だ。」
「は?」
何、言ってんの?こんな時に、島原って……
ゴツンッ
痛い!何も殴らなくても…
「阿保、島原に遊びに行くんじゃねぇ。
ちぃに関する情報があるかも知れねぇだろうが! 」
殴られた頭を自分で撫でる沖田
ああ、そういうことか。
「ビックリした、土方さん頭おかしくなったと思いましたよ。」
「もう一発欲しいか?あぁ? !」
全くもって欲しくない。
そんな、こんなで、島原に繰り出した二人
千夜の居場所を求めて。中村は屯所待機と、なったのだった。
******
目を薄っすら開けた千夜。
見覚えのない天井に、匂い……
私…、烝が飛び出した後、倒れたんじゃなかったっけ?あの、女中がすり替えた毒で……
体を動かそうとするが、体は、言う事をきかない。
まだ……毒の影響?
それより、此処は、何処だろうか……?
辺りを見渡すも、見える範囲は狭い。
床の間に掛け軸と花瓶が見えたが、ここは、何処かの宿屋か?
頭がボーっとする……
毒を盛られて、こんなになるのは、いつぶりだろうか?そんな事を考える。
「あ!起きた!」
「誠か?」
「……」
三人?聞いたことない声。最後の声は、小さな息しか聞こえなかったが。
あぁ、そうか私、捕まったんだ…… 。
………長州に………
長州の志士なんて千夜は、会ったことはない。
だだ、歴史上の人物として把握しているだけ。
だから、どういう性格とか、細かいことはわからない。
ただ、不思議な事に、怖いとか、そういった感情が無かった。毒の所為で、余裕がないのかもしれないが………。
布団に寝転んでる事しか出来ない千夜。品定めするかの様な、男達の視線が、気持ち悪かった。どうにかしたいが、体は動かせない。幸いにもというべきか、手足が縛られて無かったのが唯一の救いだろう。ーー気分的にだが、
瞼が重い。これも、毒の影響か?ゆっくりと瞼が閉じてしまった時、グイッと、体が浮く感じと共に、頭部に痛みを感じた。
「————っ!」
目を開けば、目の前に男の姿。髪を鷲掴みにされ、無理矢理起こされた。右目は見えないが、左に人がいるのを確認出来た。多分、右にも居るのだろう。何やら、気配は、感じていたから。鷲掴みにされた髪は、そのまま、離してくれる気配は無く、小さな呻き声が千夜から漏れる。そんな事も、気にする事もなく、品定めする姿勢は、そのままに、彼女の碧い瞳に興味深深だ。
「へぇー。綺麗な瞳。」
歴史の教科書に、書いといてくれないか?
志士に変態がいた。と……。
その部屋に居たのは、桂小五郎。高杉晋作。あと一人は、誰だろうか?
とりあえず、千夜は、一番近くに居た人物に声をかけた。
「.………桂……」
話しがしたい。そう、言いたいのに声が出ない。
「俺の名前、知ってるんだ?」
「………」
ジッと、見つめる桂小五郎の姿。
だから自然と見つめる形になった。
「右目……見えないんだよね?」
桂の声に、千夜の目は、小さく見開かれる。
「え?そうなのか?」
「ほら。見てみろ。吉田。」
吉田と呼ばれた人物が、すこし驚いたように近づいてきた。
私は見世物じゃないんだけど…?
なにやら目の前に糸と銭。ユラユラ揺らされれば、やり場の無い目は、それを追いかける。
それでも、千夜の右目は見えてないのだから、追いかけたりはしない。
「お!本当だ。」
吉田、あぁ。吉田稔麿か。この人。彼の子供みたいな姿に、笑そうになった。そして、さっきから、ジッと見つめる人。
高杉晋作の姿…
「おい桂、離してやれ。あの女が、
勝手に、毒飲ませたんだから、少し休ませてやれ。」
私の髪をいまだ掴んでる桂の手を高杉がどかし、体を支えてくれた。頭に感じる痛みから、ようやく解放されたが、千夜は、どうすればいいか、わからない。しかし、助けてくれたのは彼。だから、礼を言おうと口を動かした。
「あり……が…と。高杉。」
自分の名前を知ってたからか、礼を言われたからかわからないが、驚いた顔をした高杉。
「お前、女……?」
えっと?此処は頷くべきなのか?なぜ今、それに気づいたんだ?
「………」
なんと、答えていいか、わからない千夜は、どう答えていいか、わからないまま身体の力を抜いた。重く感じた瞼は、力を抜けば、すぐさま意識が遠くなって行った。
「あーあ。高杉のせいで寝ちゃったよ~」
「何で、俺のせいになるんだよ!」
「高杉、まさか、惚れた?」
いや。なんでそうなるんだよ?
「お前らバカか?
俺は別に、巻き込まれて可哀想だとーー
「あーやだ、高杉は女を見ればすぐ口説くんだからー。」
「テメェら、人の話は最後まで聞きやがれ!」
「騒ぐと起きちゃうよ?」
桜色の髪に自然と目がいく。
綺麗な子。確かにそう思った。からかわれてるのは、承知の上だ。だけど、綺麗なものは綺麗。
「でも本当に女?」
疑い深い吉田が、彼女の髪を手にそう尋ねる。
「どう見ても女でしょ?」と桂…
「壬生狼にいたんだぜ?」
女の訳がない。
まだ食らいつく吉田にため息だ。
「じゃあ、脱がせてみたら?」
一番手っ取り早いじゃない。
「は?何いってんだよ!」
流石に、高杉が止める
「だって、着物も汚れてるしさー。しばらく、一人じゃ動けないんじゃない?
意識ない時にやった方が、この子の為だと思うんだよね?」
この子の為……
確かに意識のある女を脱がせるのは、抵抗がある。
千夜の性格を知らない三人は結局、
眠っている千夜を着替えさせる事にした。
シュルッっと袴の紐をとけば、誰かの喉が鳴った。
袴を脱がせれば、白い足が露わになる。救いだったのは、腰巻を巻いていてくれたということ。上の着物も脱がせ、汚れた着物をどかす。
男三人で、一人の女の着物を脱がせる。どっから見ても異常な光景だが、彼女の綺麗な白い肌から目が離せなかった。
上の着物を脱がせれば、見えた晒し。その、膨らみは、女である証である。
「やっぱり女だったじゃん。」
「「綺麗な子…」」
ハモった……
「君たちねー。ん?刀傷?」
見れば肩にも、脇腹、お腹に刀傷があるのがわかる。
体を拭いてやり、新しい着流しを着付ける
ただ、それだけなのに、終わってから脱力する三人。そんな事知らない千夜は、ぐっすり眠っていた。




