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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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人斬り以蔵…弐


ズシャッと嫌な音が響き渡り、


「君は、もう用済みなんだって。

バカな女。こんな事をしなければ、もう少し、生きて居られたのに。」


目の前の女が、目にいっぱい涙を溜めて、言葉を放った男を見つめた。

女の心臓に刺さった、怪しい光を放つ鋭い刃。

着物や、畳を汚していく赤。


ただ無表情に、女から刀を引き抜いた男に、赤が飛び散った。ドサッと、女が倒れたのは、その後だった。


周りは、刀を構えた平隊士が居るが、男の殺気に動けないでいた。


「テメェら!一人の男に何弱気になってやがる!」


怒鳴り声と共に現れた。鬼副長、土方歳三に沖田総司の姿……。敵も味方もあったもんじゃない。挟まれた平隊士達。


両方怖い。

いや、どっちかって言えば、後から来た二人のが恐ろしい。


ヨロヨロと、男に向かう隊士達。敵前逃亡は、即切腹となる、壬生浪士組。懸命に隊士達は、刀を振るう。


その刀をあっさりと、かわしていく以蔵。


しかし、隊士達を斬らない。手には、刀を持っているにも関わらず、ただ、向かってくる刀を避けるだけだ。どう考えたって、斬った方が楽なのにも関わらず……。


「その刀は、飾りなの?隊士達を斬らない理由は何?」


刀を構えた沖田の声。


「答える理由はない。」


冷ややかな男の声。刀は赤く染まっている。

女中の赤い、赤い血で……。


仲間じゃなかったのか……?

倒れた女は、ピクリとも動かない。


「お前が、以蔵か?何故、その女を……」


「あーこの女?もう、用済みなんだって。」


だからなんだ?と言わん限り。


「……用済み……」


「そう。この女、勝手な事ばっかりしたらしい。」


どうやら以蔵という男は、自分の事は話さないが、人の事は話すらしい。


用済みと呼ばれた女中から、流れた赤が段々と黒く色を変えていく。


「こいつが、どうなろうと知らねぇが…、ちぃに毒を盛ったのはこいつだ!」


喋らなくなった女中から、何も聞き出す事が出来ない苛立ち。

まぁ、実際の所は、何も喋らなかったが…


「あー、それ?嫉妬。女の醜い嫉妬…」


嫉妬?

意味がわからない。何に嫉妬するんだ?


「君、いい加減な事言ってると斬るよ?」


シュッと、以蔵に斬りかかる沖田

キィンっと交わる刀。


「長州がね、あぐりって女の話しを聞いて、芹沢って奴に惚れ込んじゃってね、その女が逆上したんだよ。だから、そいつは、いらないんだってさ。」


そんな事で……。そんな、長州のイザコザに

ちぃは、巻き込まれたのか?

毒まで盛られた千夜を思えば、怒りは自然と湧き上がってきた。


「そんな事で……!ちぃちゃんは…」


沖田も同じ事を考えていたらしい。


「芹沢が、欲しいんだって。」

「ちぃは、渡さへん!」


その声と同時に、シュッシュッと、クナイが畳に突き刺さった。

沖田と刀を交えていた以蔵は、サッと身をひるがえし、部屋の端に着地した。

現れた黒装束に、鋭い眼光を向けた。


「山崎!」


現れた黒装束。そう、観察方 山崎烝の姿がそこにあった。


「面倒くさいのが来た。」

「うるさいわ!ちぃは、何処にも、連れて行かせへん!」


シュッシュッと、苦無を繰り出す山崎

キィンキィンッそれを弾き飛ばす以蔵。


平隊士には、ついていけないスピードで、ただ立ち尽く事しか、できなかった。


何をそんなに、必死に守ろうとしているのか?

何故、女一人ごときに、懸命に刀を振るのか、以蔵には、わからなかった。


「変な奴……。いい事を教えてやる。

お前が、此処に来た時点で俺の仕事は終いだ。」


来た時点で、仕事は終い……?


「どういう意味や……」


ニヤリ笑う以蔵。

「気に入らん。ちぃの、居場所は壬生浪士組だけや!」


シュッシュッと、クナイを投げるが、以蔵に、簡単にかわされてしまう。


————居場所。ねぇ。

そう言えば、あいつに言われたな。今のままでは、見限られる。と………。


「土方さん、沖田さん、何ぼさっとしてるんですか?さっさと、こいつ片付けんと!」


山崎の声にハッとする二人。


「まぁ、いいや。俺を構ってる暇はない。

あの芹沢って奴、連れ去られるぞ?」


ただの、気まぐれだ。そんな事を教えたとしても、彼女は、すでに、長州が連れ去っただろう。俺の仕事は、この、バカ女を始末する事と、隊士を此処に集める事。


「ちぃちゃんは、そんな弱くないですよ?」

「まぁ、正常ならな。」


正常なら……?


「わからないか?そこの女に、薬を入れ替えられたとしたら?」


『………やってくれる。』


「まさか……」


「山崎?」


「ここに来る前、

ちぃが、咳をしてて、あいつ、ずっと薬を飲んでたんや。」

もし、その中に、毒があったとして、口にしてしまったのならば、今、蔵に一人で居る千夜を、連れ出すのは簡単。


「じゃあ、ちぃちゃんは!」


以蔵の言う通り、構ってる暇が、なくなった


「山崎、総司、蔵に向かうぞ!以蔵、お前には礼を言う。」


そう言って、嵐の様に去っていった三人の背を以蔵は、見送った。


「敵に礼を言うバカ、初めて見た。」


芹沢が、よっちゃんと慕ったのも、わかる気がする。まぁ、いいや……。これで俺の仕事は、おしまい。


『お前が、長州の依頼を受けているのは知っている。隊士を傷つけるな。それ以外は、どうでもいい。仲間を傷つけるのだけは許さない』


自分が狙われるのを知りながら、あいつは俺にそう、依頼した。


変な依頼だと、そう思った。


だけどあいつの目が、俺を動かした。揺るぎない強い意志を宿した瞳、あの碧い瞳に、動かされた。


「強いなら、信じてみろ。か。」


いつだか言われた千夜の言葉を

口に出した以蔵……


フッと笑って、屯所から消えた。

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