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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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人斬り以蔵



コホコホ。前川邸の蔵に響いた千夜の咳。


「ちぃ、大丈夫か?」と、声をかけた山崎。


「うん。ここ、ちょっと埃っぽいからね。」

「ちがうわ!阿保。」


ゴツンッと拳骨を頂いた。どうやら、山崎は、千夜の咳を心配した訳じゃ無かったらしい。


「ーー!痛いよ!」

「以蔵なんかに、依頼して大丈夫だったんか?

言う意味や!」

山崎が、怒りながら言うのに


「さあ?」

なんとも軽い言い方で、女は、言葉を返す。

それを聞いて、脱力する山崎。


「呆れてもの言えんわ。」

「言ってるじゃん。」

「……」

「何?」


言えん、土方さんと同じ事、言うて、バカやろって……。


ジーっと山崎を見る視線に、


「何にもあらへん。うん……あらへん。」


自分を説得させる変な言い方をする山崎


「よっちゃん気づくかな?中村のバカ!」


いや、貴女さっき、お疲れ様言うたやん?


「に、しても暇だねー。」

「そりゃ蔵の中やしな。暗くなってきたしな…」

「??何考えてるの?」

「いや、ちぃに、言われたくないわ。」

「は?」


意味がわからない…


「ちぃ、やっぱあかん。やめろ。長州藩に行くって危なすぎる。」


千夜の両肩を持ちながら、説得する山崎。

長州藩、千夜が行きたいのは、そんな場所では無い。


今、桂小五郎、高杉晋作、吉田稔麿が京にいる事実は山崎から報告された。そして、島原でなんとか手に入れた、長州の中心人物の宿の情報。


佐々木、佐伯を殺されるのは、もう少し先。だが、あと、一カ月もない。


「やめれないよ。」


「もし、土方さんに気付かれたら、壬生浪士組にも、居られんように、なるかもしれん!」


「もう、どっちみち、後戻りなんか……、できない。」


やってしまった事は、戻せない。


「ちぃ……」

佐々木に、女中は、間者だと教えたのは、殺されるのを早めたら困ると、遠ざけたかったから。


女中とあぐりは本当に知り合い。


でも、女中は長州の間者。千夜の話しを聞いてなのか、壬生浪士組に潜入してきた。目的なんて、知らないし、命を狙われる意味すら、千夜には、わからない。

だけど、狙われたなら、話せるチャンスかもしれないと思った。


以蔵に、連れ去りを依頼したのは、他に人が居なかったから、なくなくである。


もちろん、屯所の人間を殺すな。とは言ったが…。


千夜自身はっきり言ったら、悪い事は、しては居ない。


ただ周りが、騒いだ結果が、今の状態。

中村が、以蔵の話しをして、さらにややこしくなった。

関係ありそうで、何も関係無い。


周りが勝手に長州に結びつけ、話をややこしくしているだけ。


自分は蔵の中で、手も足も出ない。


おまけに、武器は取り上げられてるし、あるのは数本のクナイだけ……。この状態で、何をどうしろと?って感じだ。


 


蔵に向ってた土方と沖田に、声が掛けられる。


「副長!屯所に怪しい男がっ!」


反射的に、二人の足は停止した。今は、それどころではないと言うのに平隊士が土方に慌てて告げた。ハァハァと息をきらした、平隊士を見て、チッっと舌打ちする土方。

伝えに来ただけの平隊士にとったら、恐怖でしかない。


「土方さん、その、怖い顔、さっさと、しまってください。で?怪しい男って何処にいるの?」


少し怯えた平隊士を見て、少し可哀想になった。……訳ではなく、ただ、土方で遊ぶのが好きな沖田。

眉間に皺を寄せた土方がギロリと沖田を見る。


「あの、女中が居る、部屋の近くです。」


二人は顔を見合わせる…

女中=長州

という考えの二人。だったら、仲間という可能性が高い。さっさと、片付けてしまえばいい。そう思った。

怪しい男がいる部屋に、二人は走った。


————それが、罠だとも気づかずに…。


*****


コホコホッ。前川邸の蔵の中、時折、咳をする千夜が気になる。埃っぽい蔵の中、喘息の発作ご出てしまう可能性が高い。そう思い、山崎は、声をかけた。


「ちぃ?」

「なに?」

「大丈夫か?」

「うん。平気。」


そう、嘘を吐く。

何もしてないのに、汗ばむ体。息が、ハァハァと荒くなる。壁にもたれかかり

懐から薬を詰め込んだ巾着を取り出す。

土方は、千夜が何の薬を持ってるのか知らないが、さすがに、彼女から薬を取り上げるような事はしなかった。喘息の発作が起きたら、千夜の命にかかわるから。だ。


「……やってくれる…」


千夜の声が山崎に届いたが、彼は、彼女の言葉の意味を理解できなかった。


やってくれる?誰かに何かをされたという事……。

でも、蔵に閉じ込められて、もう半日近くなる。一体誰に何をされたのか?


山崎には、わかるわけがない。ただ、彼女の顔を不意に見た時、彼女は、フッと笑ったのだ。

何かあるのではないか?と、山崎は、千夜の腕を掴む。


「何が、あった?お前、熱い……。」


掴んだ彼女の腕。それは、通常よりも、熱くかんじる。

コホコホッ


「喘息だよ。」


確かに、さっきから千夜は、咳をしているが、

様子を見ようと彼女に向かい合う。その時、


『人斬り以蔵だー!』

そんな声が、蔵の外から聞こえた。


……以蔵……?あいつを止めれば、ちぃは…。

千夜を掴んでいた腕を離し、山崎は以蔵を止めるべく、立ち上がった。

「烝?」

「待っとりぃ。戻ったら、治療や。」

千夜の返事を待たず、蔵の扉に手をかける。


ガラッ………。何の抵抗も無いままに開く扉…

「……」

「…空いてた?」


鍵は、かけられていなかった。

俺ら、いつでも逃げられたやん。

山崎は、はぁ~っとため息をして、声のした方に走り出した。


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