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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
長州の志士達
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魂に取り憑かれた者

そして、やってきた蔵の中


「やっぱり……。」


声を出した沖田に、こめかみを押さえる土方。

縛った腕の縄は切られいて、寄り添う様に、土の上に寝てる二人の姿。やっぱりな光景に脱力する土方と沖田。


「こいつら、反省って言葉知らないのか?」

「なんで、僕に振るんですか?」


にしても、よくこんな所で寝られるもんだ。

自分が閉じ込めたのに、そんな事を思う土方。


「で?起こすんですか?」


やけに楽しそうな沖田。頭から音符が出てる気がするのは、俺だけか?


しかし、沖田の楽しみは、人の気配に敏感な彼により、実行不可能となる。


「……ひ……土方さん!」


ザザッと効果音が出そうな起き方をする山崎。


「……。本当に爆睡してたのか?」


寝たフリをしてると思ってたらしい土方は、そう声を出した。


「珍しいですねー山崎君が爆睡なんて。こんな場所で…」


この人達は、嫌味言いに来たん?


「……あの……」

「ちぃは何か言ったか?」


「あの女中は、長州の間者いうのは聞きました。ちぃは、自分が狙われたことはわからないと……」


「そうか……」

「ちぃちゃん、起きないね…」


結構、大きな声を出してるのに、起きる気配が無い千夜を見て沖田がそう声を出した。


「あんま、寝とらんかもしれん。……ちぃ、震えとった。」


震えてた。つまりは、怖い事があったという事。

沖田は、唇を噛み締め、手を強く握りしめて、蔵を後にした。



****


バシッ ドン ガタンッ


広間に響く効果音。効果音の間に女の呻き声。

しかも、殴ってる方は、ニヤリと黒い笑。白い歯間で見えていた。その場に居る隊士は背筋を凍らす。女に対して容赦の無い男、沖田総司を見て…。


ズルッと意識を失った元、女中。誰もが休憩すると思った。相手が意識を飛ばしたら、話にはならないから。だが、沖田は休まなかった。

大事だと思った人を傷つけられた。その思いが、強かった。


ツカツカと女に歩み寄り、髪を無理矢理引っ張り上げる。


「……う……」


女からは、呻き声しか聞こえない。

チッっと舌打ちして、ドサッと乱暴に床に落とす。


「水!水持ってきて! !」


この場合、飲む水なのか、女にかける水なのか?答えは、多分、後者だろう。


「総司、吐いたか?」


部屋に入ってきた、鬼副長、土方歳三の姿に隊士達は背筋を伸ばした。


まさか、副長が出てくるなんて思わない。


「吐きませんよ。」


この女中、何をしたんだ?

詳しい事を平隊士なんかに教えてくれる訳が無い。


意識のない女中の顔を見て、土方は、


「派手にやったな。いい女だと思ったんだが……」

「土方さん、目腐ったんですか?」


やっぱり万年発情期じゃないですか。


隊士の前でも、土方に対する態度は変わらない沖田

ヒヤヒヤする平隊士…


「この女が起きたら知らせろ。」

「はい!」


返事を聞くと、沖田と、土方は、去っていった。血生臭い広間から……。


井戸までやってきた二人。

「何で、あの女吐かないんですか?」


朝から拷問して、女が気絶する回数は増えていた。なのに、何も吐かない。沖田は、井戸の水を組み上げ、持ってた手拭いを投げ入れる。

もう、日も傾き、夕暮れになって来ていた。


身体を拭く沖田にも、疲れと苛立ちが見てわかるほどだ。しかし、土方は、茜色に染まりかけた空を見て、不吉な事を言い放つ。


「ちぃに、なんかあるなら、夜だな。」


「なんかあってからじゃ遅いんですよー。

わかってます?土方さん!」


「わかってるよ!」


「副長、いらっしゃいますか?」


突然聞こえた声に、二人は振り返るり


「佐々木?」


「あの……。芹沢さん…、の事なんですけど、」


「ちぃちゃんが、どうしたのさ?」


「あ、えっと、俺の元恋仲が、芹沢さんの事を

色々聞いてきた事があって……。俺、話しちゃったんです。特徴とか、芹沢さんが副長とか

局長とも仲良いって…芹沢さんにも話したんですけど…」


と、なんとも歯切れの悪い、佐々木にイライラしながら

「で?恋仲が怪しと?」そう、聞いた。


つまりは、そういう事だろう。


「いや、怪しいんではなく、女中のあの人も、あぐりの知り合いだと、芹沢さんが……。」


「は?」

「ちぃちゃんが?」

「ちぃがそういったのか?」

「そう……です。」


ちぃが知ってる。もし、彼女が知っていたとすれば、自分に何かあった時の為に、誰かに託す筈だ。いったい、誰に?


幹部隊士じゃ無い。誰かに……


芹沢じゃない。いつ暴れるかわからない奴に託さない。幹部隊士を外したのは、騒ぎを知ってて、黙ってる奴は居ないから。


だとすれば、ちぃを知ってる、平隊士の可能性は、高い。土方の頭の中に、一人の平隊士が浮かんだ。


「中村……。あいつだ!」


沖田に知らせる間もなく、土方は、飛び出した。


「ちょ!土方さんっ!」



中村の姿を見て、土方は、

「中村!」っと、場所なんか関係なく呼び止めた。周りには、他の平隊士の姿があるのにも関わらず。


「副長、どうしたんです?」


キョトンとした、中村。


「ちぃに……何を託された?」


「千夜さん?」

キョトンとしたまま、土方を見る中村は、思い当たった事があったのか、


「それは、教えられないです、副長。」


土方の眉間のシワが深くなっていく。

こいつは、今なんて言った?


「何でだ?中村!お前、ちぃに恩があった筈だ! 何故、教えねぇ?」


「…………。場所かえましょか。」

周りを見てから、中村は、そう言い放つ。

そんな暇ねぇのに…。


平隊士が集まる、その場所で話が出来ない事は

土方とてわかってない訳ではない。仕方なく、

少し歩いて中庭へと移動した。


「何で、教えねぇ?」


空を見る中村。


「気づいてますよね?言わない理由なんか…」

「まさか、ちぃは、捕まる気か?」


中村は、土方を見て、口角を上げて、

「ご名答。」そう言った。


ふざけんなよ。


「お前、それでいいのか?」

「いいわけないでしょ?流石に今回は、ハッキリ言ったら賭け。無茶苦茶な計画。」


「だったら、止めっちまえばっ!」


「千夜さんは、止まらない。」


こいつは何を知ってんだ!


「言っときます。山崎さんが千夜さんの見張りに着くのは想定内。連れさらいに来るのは、岡田以蔵。”人斬り以蔵 ”」


想定内?突発的に、蔵に放り込んだ筈だ。事前に、知ることなんて、出来るはずがない。


「人斬り以蔵。何でそんな奴が、ちぃを……」


「そんなの知らないです。でも、千夜さんは一度、以蔵に勝ってる…」


勝ってる?


「島原の潜入、芹沢局長を止める為だけじゃ無いんですよ。千夜さんは、壬生浪士組の為に、

世の中全部変えようとしてる。

————幕府は没落する。

だから、千夜さんは、尊王なんですよ。先の未来に、将軍は、居ない。」


「幕府が没落?そんなの————!」


「あってはならない事?何でです?

芹沢局長は、尊王攘夷じゃないですか?

あなた方は、違いますよね?だって、芹沢鴨を消したい。そう思っているから…」


「………は?」


中村の言葉に、土方は、突発的な一言を発した。


「あー。千夜さんに怒られるわ……。」


言ったらいけないって事か?


「まぁ、いいや…まぁ、俺もちょっと未来から来たんで、知っとる事話しただけですけど…」


「未来から?中村がか?」


「そう。俺は明治って時代まで、生きる。


ずーっと死なず、同じ人生を繰り返す。地獄でしょ?そんなの。

誰が付けたか、

”魂に取り憑かれた者”って呼ぶそうですよ?俺らみたいのを…」


「魂に取り憑かれた者?」


「千夜さんも、魂に取り憑かれた者。

でも、あの人は違う。

あの人は、新選組の隊士達の魂を、一人で抱えて生きてる!死が遠い人。その光を、見たことあるハズです!」


”これは、ちぃの希望の光……”


目を見開いた。あの光か。そう思ったから。


「魂を引き離す方法は?」


「そんなの知ってたら、こんな地獄、サッサと去りますよ。何で、人殺して生きなきゃいけないんですか?

なんで、日本の国の中で、

日本人同士、争いしなきゃいけないんですか?

平和な時から来た俺らにとって、ここは異常。おかしいんですよ!

まぁ、土方副長に言っても仕方ないんですけどね。」


そう、諦めた様に声にした中村。

土方は、彼を見て、こう口にした。


「俺たちは、間違っているかもしれねぇ。

武士として生きたいと、将軍を守りたいと、農民の子でも、武士になれると信じて生きてきた。

近藤勇をのし上げたいと、そこから始まった組だ!間違ってるなら正せばいい!


先を知る奴だって拒まない。

お前達の意見を組みに入れたら、お前が、中村が見たことねぇ、新選組を見れるのなら、拒む必要なんかねぇ!」


目を見開く、中村……


フッと笑う。

「千夜さんの言う通りになった。負けです。

俺の負け……

土方歳三には、何年、生きても頭が上がらない。」


そう言って、涙を流した中村。


「ちぃの言う通りって……」


「中村、あんたは、よっちゃんに敵わない。

壬生浪士組副長、土方歳三は私の命を助けた男だその男が、曲がった事なんか言わない!


私が死んだら、お前は、よっちゃんを信じたらいいと…。そう言ったんです。

千夜さん……


まだあの人、死んだらダメなんです。土方さんが止めてやってください。まだ、何にも始まってない。」


そっと渡された、手紙とノート二冊……。


「壬生浪士組の為に。」

「フッ、ああ。」


走り去った土方。


「芸者顔負けの色男。かっこいいよなー。


必要だったんですかー?あんなノート。佐々木はまだしも、佐伯は何するかわかりませんよ?

二人の命の代わりに、命の恩人騙して、あんた、悪い女だ……」


「中村、褒め言葉としてもらっとく。あいつらが、なんかしたら私が殺す。心配するな。」


「はぁ…無茶苦茶やなー。千夜さん敵にしたくないわー。俺は結構罪悪感なんだけどー。

そう言えば山崎さんは?」


「おるわ。阿保。」


阿保……


「あんたもグルか…

まぁ、壬生浪士組の為なら、なんでもいいわ。

もうすぐ新選組だ。死ぬな。

一緒に、明治生きる約束。

忘れんでくださいよ!千夜さん!」


「ああ。中村ご苦労。」

小さな紙に話しかける中村。


千夜の力を込めた紙で、携帯の様に話す三人。

話した内容も、話した会話も、誰の耳にも、聞かれる事は無かった。


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