閉じ込められた蔵
それから、島田さんが来て、私達は、縄で縛られ前川邸の倉庫に放り込まれた。
「土方さん!なんで、ちぃちゃんを!気は確かですか?」
「しょうがねぇだろうが!
俺だってしたくねぇよ…けど、あそこのが、ちぃも安全だ…」
「だからって!へ?安全?」
今、この人、安全って言った…?
確かに、前川邸の倉庫なら、人はあまり寄り付かない。
ニヤリ笑った土方。
この人、悪代官のが似合うんじゃないか?
「貴方どこまで、バカなんですか?」
バカってなんだよ…
ニャー。という鳴き声に、猫かな?
そういえばまだ、お膳を片付けてなかった。
お膳、
「……毒。」
沖田は、慌てて振り返る。
猫の足元には散らばったままの、ちぃちゃんのお膳。今にも食べてしまいそうな猫
食べたら……死んじゃう……!
咄嗟に手を伸ばした沖田だったが、手は間に合わなかった。
猫は、ひっくり返った食べ物を口にして、しばらくして、パタッと倒れた。
「死んだ?」
「これで、女中も引っ張れる…」
小さな猫を、僕は、抱きしめてやる事しか出来ない。
「猫に墓でも、作ってやるか。」
そんな言葉で、僕と土方さんは猫の墓を作ってやった
「ちぃが、見たら泣くな……」
「当たり前じゃないですか…。ちぃちゃん、優しいんですから。」
「あいつは、自分を綺麗な人間じゃねぇと言った。誰に抱かれても平気だと…。目的の為なら…」
「目的の為なら?…そういったんですか?」
「……あぁ、島原潜入する時に…」
土方さんに抱かれた時……か…
猫の墓の前で、何を言ってるんだろうか?
僕達は…
「ちぃちゃん…大丈夫かな?」
そんな言葉が、夏の空に消えていった。
****
「ちぃ、大丈夫か?」
「ん?別に大丈夫だけど?」
なんで、こうなんねん。ちぃを、守ろう思うたのに、なんで、ちぃまで……
「丞って、バカ?」
「なんでや!」
「学習しなよ。私は、こういう人間だって。」
そう言って笑う千夜
「バカは、あんたやろ?」
わざわざ、土方さんに捕まる様な事言って……。
「かもねー。あーあ、山南さんと本読みたかったなぁー」
どこまでもマイペース。
「俺ら、どうなるか、分からへんねんぞ?」
本の心配しとる場合か!
「烝、やっぱあんたバカだわ。」
バカて、酷ない?
「よっちゃんが、考えなしで閉じ込めたと思ってる?」
考えなしで…?そして、山崎は気づく。
「はぁ……。あの人、どんだけ、過保護やねんっ!」
に、しても、だったら、縄でグルグル巻きにする必要は無いんじゃないか?
「待て、俺はなんで閉じ込められたん?」
「見張りでしょうに……」
なんやねん……
「俺、なんの覚悟したん?」
「無駄な覚悟。」
そんな、ハッキリ言わんでも…
「気ぃ、ぬけてしもうたわ…」
土の上に寝転ぶ山崎。手は、後ろに縛られたまま。山崎を襲う安心感。
次の瞬間、パサっと、縄が落ちる音が聞こえた。千夜を見れば、己の腕を摩っている。
鋭い縄の切り口に、彼女が持ったクナイを見て、山崎は、口を開く。
「ちぃ、お前、何処にクナイしまってた?」
島田に、持ち物は取り上げられた筈なのだ。
「そんな事もあろうかと、袴に縫い付けてあった……」
「なんで、そこまで、用意周到なん?」
「だから、何があってもいいようにだよ?」
「命狙われとるような、言い方やな?」
う……
「さてー、二階にでも……」
そう言ったら、パシッと、音がして、山崎に腕を取られた。
「逃げんな。なんで、狙われとるか言え。俺には、知る権利がある筈や」
確かに山崎には、知る権利がある。巻き込んだのは私だから。
「……知らない。なんで狙われてるのか、は。
でも、多分、女中として入ったあの人は、長州の間者。それしか、わからない。」
なんで毒を盛られるのか、なんで私なのか、わからない……
「また、長州か。ちぃ、こっち来い。」
そっと、抱きしめられる。
「怖いなら、怖い言え。震えとるやろが……」
自分の手を見れば、手が震えていた。気づかなかった。
「守るから……。
ちぃは、俺が守るから、大丈夫や。」
烝が、守ってくれる。大丈夫。怖くない。




