毒
沖田と土方が騒ぐ部屋の中、山崎は一人で考える。千夜が狙われる理由。そんな理由は、あったか?と………。
『内密に…』
「あ!」
山崎は、思い出し、思わず声を上げてしまった。千夜に長州の動向を、探ってきて欲しいと言われた事を…
「なんだ?山崎?」
「いや……あの…」
内密と言われたからには、言えるわけがない。
「山崎君、隠し事?」
いや、なんで、あんたら、さっきまで言い合っとったのに、俺のとこくるん?おかしいやろ!
「あー、あれや。」
「どれだ?」
土方さん……寂しなるわ。虚しすぎて。
「もしかしたら、佐々木が絡んでるの?」
「…………」
せやって、言いそうになったやん!
佐々木はあかん。ちぃが、助けようしとんねん。
なんとか突破口が欲しい山崎…
「山崎、お前、俺に隠し事しようなん、随分えらくなったもんだなぁ?」
鬼がいてはる…。目の前に………。
突破口がない山崎は、心の底から千夜が戻るのを願う。
早よ帰ってきて……。ちぃ。
千夜は、お湯が沸くのを待っていて、まだ帰らない。残念、山崎。
鬼と、腹黒い男、二人に睨まれて、山崎は、
仕方なく話した。千夜が長州を調べていると、
「何でそれを早く言わねぇんだ!」
怒鳴る土方。
「そやかて…… 。
ちぃが、聞き入れる訳ないやん…?」
口を尖らせて反論する山崎。
「まあ、ちぃちゃんですからね~。」
はぁっ。と、ため息をするしかない。
「で?何かわかったのか?」
「長州の腕利き調べて、ちぃにいったんやけど、そんな驚かんかってん。
で、その後、気になって調べたら、その腕利きいう奴らは、長州藩の中心人物だったらしい…」
「へー。」
ゴツンッ
「へーじゃねぇよ!」
「痛いなぁー
大体ね、今は、ちぃちゃんのお膳の問題でしょ?犯人は女中! !あの女が来てから、ちぃちゃん、ごはん食べなくなったんだから…
可哀想に……」
頭を摩りながら喋る沖田。
ちぃ以外の女には、容赦無い沖田。
サラッと痛みと共に、吐き出された言葉に二人が固まった。
確かに沖田の言う通り。
今、知りたいのは、千夜がごはんを食べなくなったから大丈夫か?という事だ。
長州を調べてる事実を知って話が逸れたが
こっちは、こっちで調べなきゃならない。
「なんであいつは、ややこしい事に巻き込まれるんだ?」
「俺に言われたかて……」
「僕にも、振らないでくださいねー」
「……」
こいつら、こう言う時はいい加減なんだな…。
スー
「あれ?ごはん食べてていいって、言わなかったっけ?」
パタン…
千夜が部屋に戻ってきた。
そう言えば、話すのに夢中で食べるのを忘れていた。
「ちぃ、悪かったな。」
「別に大丈夫だよ?食べようか?ごはん。」
「あぁ。そうだな。」
ちぃが箸を持ちごはんを食べる。
土方たちも箸を進めるが、
待て、待て、待て。
普通に千夜がごはんを食べてる。
気にするなって言われても気になる光景。
だって、毒が盛ってあるって…… 。言ったよね?さっき、匂いを嗅いだ味噌汁も飲んでる。
「ん?どうしたの?みんな……固まって…」
いや、お前の体がどうした?言いたいけど言えない。
「ちぃちゃん、大丈夫?」
「何が?」
毒だよ!毒っ!
「あはは…ごめん。なんでもない。」
いえない…。
「変なのー」
変なのは、ちぃの体やろ!
「ご馳走さま。」
たいして、ご馳走でもないけども、やっぱり千夜は、ごはんを残した。
ガサゴソと薬を取り出した千夜。
「ちぃ、その薬くれ。」
「別にいいよ?ただの栄養剤だよ?」
自分の口に放り込もうとした薬を山崎に渡す。
「苦っ…」
「丞、錠剤は噛んで飲んだらダメだよ。
あ!私、山南さんと本を読む約束したんだった。」
お膳を下げる仕草を見せる千夜に
「ちぃ、今日は膳は、俺が下げるから、山南さんの所へ、いってやれ。」
「いいの?じゃあ、お願いします。」
「ああ。」
スー パタン…
「山崎君、ちぃちゃん普通に食べてたじゃない。」
「本当に毒か?」
「だったら食うたら、よろしいやん。」
山崎が怖い。
『毎日飲むと……』
「ちょっと待て…
ちぃ、確か睡眠薬に体を慣らしてたって言ったよな?」
「ああ、言っとったな……」
「そうなの?でも、
いつもちゃんと、きいてるじゃない?」
確かに……
「沖田さん、ちぃに、いつも飲ませたり嗅がせたりしとるのは、普通の人だったら一日は動けんくなるものや…」
「は?」
「山崎、テメェちぃに何飲ませたり嗅がせたりしてんだよ!限度ってもんがあるだろうが!」
「せやかて…
どれぐらい強おしたらいいか、わからんもん。」
わからんもんって…
あっけらかんと答えないでくれよ。
「でも、それが、なんだっていうの?」
モグモグ頬張りながら喋る沖田。
「毒も同じじゃないかと…思ったんだが……」
「毒も同じ…せやったら、ちぃは、死なん程度に食うてるって事になる。ちぃが、解毒剤を飲んどる思うたけど、薬は解毒剤じゃなかった。」
ちぃが狙われる理由。
「なんでちぃちゃんは、何も言わないんですか…?」
「ちぃが、言わない理由…」
「あいつ……。まさか、捕まる気や、ないよな…?」
捕まる……誰にっ?長州藩以外いない。
長州という言葉を聞いて、沖田は、不安な表情を見せた。
「ちぃちゃんが…?僕、ちぃちゃんに、ついてます。」
返事も聞かず、沖田は襖を開けっ放しにして千夜を、追いかけた。
「山崎、お前、なんか隠してるな?」
隠しきれない。今の土方さんの目は、あかん……
「……はい…… 」すまん…ちぃ……。
話し終えた後、沈黙だけが部屋を支配した。
怒りのオーラを纏った土方は、ただ静かに山崎を見下ろす。山崎は、下を見たまま、硬直した。
当たり前だ。長州は会津にとっては敵。間者は間者。情けをかけたらいかん存在。例え、こちらに寝返ったとしても……。
バシッと、鈍い音が響き、山崎は、吹き飛ばされた。
ガシャーンッ。と、部屋に響く音。お膳をひっくり返し、その場に倒れた山崎。頬は、ジンジンと痛む。理由なんて簡単で、土方歳三に殴られたから。
「わかってんのか!山崎っ!」
わかってる。十分な程わかってる。首切られても、しゃあない。間者を見逃した事になるんや。それが、例え、ちぃの為やとしても……山崎が、諦めた様に、項垂れた時だった。
「やっぱりね。様子がおかしいと思って戻ってこれば…。」
そう、入り口から声が聞こえた。
「……ちぃ?」
「烝、大丈夫?」
「ちぃ、お前は黙ってろ。」
怒った、よっちゃんは、怖い。けどね、黙ってても、何も変わらないんだよ。変えたいなら、口を開くしかない。どんなに、怖くても。
「黙らないよ。佐々木、佐伯。共に間者の疑いがかかってるのは知ってる。だけど、確証はない。私は、確かに二人が間者と言った。だけど、それは私の記憶の中だけ。二人が何をした?」
何をした?何もして無い。
「佐伯は、はじめと入隊したんだよ?はじめも疑うのか?」
斎藤を…?
ねぇ。よっちゃん、貴方はわかって居るでしょ?未来を知って居る。それは、敵である長州の動きを知って居るって言っても過言ではない。
「怪しければ裁く?なら、————私も裁けばいい。私は、長州藩の動きを——。」
「それ以上言うな!!」
そんな優しさ、いらないんだよ。
「知っている。」
頭を抱えた、よっちゃん。
「物音が聞こえたのですが……」
声がして入口を見れば、唖然とした斎藤の姿。
それもそのはず、土方に殴られた山崎は、倒れたままで、傍らには、千夜。お膳は、ひっくり返り、土方は怒りで拳を握っている。
「斎藤、島田呼んでもらえるか?」
「……御意。」
斎藤は、訳もわからず、返事をするしかなかった。




