女中と毒
女中が、壬生浪士で働く様になったのは、
それから、しばらくしてからだった。
女中が入ってから、近藤の提案で、広間で食べる事が多くなった。しかし、土方は、千夜の様子が可笑しい事を気にかけて居た。
だから、今日、千夜が副長室に居ない頃を見計らって山崎を呼び出し、話を聞いて居た訳なのだが、
「山崎、どうなってる?」
「.……」
土方の言葉に、山崎の返答は、ない。
「山崎っ! !」
「……?なんです?」
「お前、話し聞いてたか?ちぃだ。あいつ、もう、四日ぐれぇ、まともに飯を食ってねぇ…。どっか、体調が、悪いんじゃねぇか?」
「そんな事ないですよ。」
なんで標準語?しかも、即答だし。
今、ちぃは朝稽古に行って居る。
聞き出すのは、今しかない訳で、いつ帰ってくるかわからない千夜を気にしながら話す土方には、焦りすら表情に浮き出て居た。
「……今日、
朝餉を、この部屋で食べられませんか?」
突然の山崎の提案に、なにか、あるんだなと思った。だから、土方は、「なんとかする。」と、答えた。
副長室で、朝餉を食べる事になった訳だが、
「総司、なんで、お前まで……」
「へ?ちぃちゃんと、ごはん食べたいからですよ。」
「近藤さんは?」
「土方さん、意地悪ですね。」
なんでだよ?聞いただけだろうが!
下手な事を言えば、千夜も警戒してしまうかもしれないと、土方は、沖田が居るのは、放っておく事にした。
「ちぃ、お茶頼めるか?」
お茶は、わざと持ってきてない。これも、山崎からの指示だ。
「別にいいよ?じゃあ先に食べてて。」
スー パタン……。っと、閉まる襖の音がして、千夜は、勝手場へと向かった。足音を聞き、遠ざかるのを確認した土方は、山崎へと視線を向け、目をしばかせた。
「山崎?」
山崎が、ちぃのお膳の匂いを嗅いでる。
「匂いでわかる思ってんけど、あんまり臭わへん…」
とてつもなく変な絵だ。
大人が、お椀をもって、匂いを嗅いでる光景。しかもクンクンと犬の様だ。
「山崎君?何してるの?」
流石に、沖田も引き気味である。
「ちぃの善だけ、毒盛ってあるん。せやから、ちぃは食べん。」
「「は?」」
「せやから……」
また説明しようとする山崎。
「いや、言ってる事はわかった。
わからないのは、なんで、ちぃのお膳に?だ。」
「なんで、ちぃちゃんが命を狙われないと、いけないの?」
「そんなん、俺に聞かれたかて、知らん。」
そりゃ、そうだが…
「本当に毒盛ってあるのか?
総司、お前どっかで猫拾って連れてこい。」
「えー嫌ですよ。可哀想じゃないですかぁー。」
そりゃそうだが…
このままじゃ、毒が入ってるか分からないのが実状。
「そんなんせんでも、匂いかいだらわかる。
嗅ぎ比べたらな……」
嗅ぎ比べたらわかるって、
半信半疑で、自分のお椀の味噌汁と千夜のお味噌汁の匂いを嗅いでみる。
「ちがう……」
またまた~。と、沖田が匂いを嗅いで
「本当だ……でも、なんで、ちぃちゃんが?土方さんなら、わかるけどさ…」
「あ゛あ゛?
何で、俺だとわかるんだよ!」
キョトンとする沖田……。
「自分の胸に聞いてみたらいかがです?」
多分、思い当たることが多すぎると思いますけど……
と、余計な一言を付け加えた。
「総司っつつ!」
*****
お茶を取りに来た千夜は、お湯を沸かそう薪に火をつけ様とした時、
「千夜さん?」
その声に、千夜は、慌てて振り返った。
慌てた理由なんて簡単で、ライターを手にしていたからだ。
「何?」
声をかけてきたのは、女中。
「少し頭が痛くて、何か、薬があればいただきたいんだけど?」
と、どうやら、千夜から薬を貰いたいらしい女中。
「あぁ。そうなんだ。ちょっと待ってね。」
と、懐から巾着を取り出し、一つの薬を女中に渡した。
「ごめん。千夜さん、水をお願いしても?」
「……いいけど。」
巾着をその場に置いたまま、千夜は、水を汲みに行ってしまった。
巾着を見て、ニヤリと笑う女中。
「………。鬱陶しい女。男のフリまでして、此処に居たい?別に、金持ってる訳じゃ無さそうだし、なんで、あんなのが欲しいのか、理解できない。私のが、必要だって証明しなきゃ…」
女は、頭痛の薬を湯のみに入れ、包紙を延ばし、違う薬を包み直す。
「……これで、よし。」
そして、綺麗に包み直した薬を千夜の巾着袋へと戻した。
「貴女がいけないのよ?長州の四天王の気を引くから…」
ニヤリ口角を上げる女中。
これで、自分への疑いはかけられない。
千夜が戻った時、女中の姿は、既に、そこにはなかった。
「悪いけど、私も、ただ黙って見てるほど、大人しい人間じゃないんだよ。」
壬生浪士組の情報を外に持ち出される前に、手を打たなきゃね。




