可愛いお願い
夜、土方は、お風呂へ行った為
千夜は、一人で、土方の部屋に居た。
まだ、部屋を出て行ったばかりの土方は、
しばらくは、帰ってこないだろう。
「本当、覗きが趣味なの?烝?」
千夜は、天井に視線を向け、そう言い放つ。
黒い忍び装束を身に纏う山崎烝が、屋根裏から現れた。
「 なんか、わかったの?」
「わかった。けど、副長に内密にって、
悪い事してるみたいでいややわ。」
「いいんだよ?別に私が調べても、
だけど、周りが過保護で動けないから、かわりに、烝に頼んだんでしょ?」
「そやけど……。」
「じゃーいい。聞かない。」
「待てて、俺が調べた意味が無いやろが!」
そう。烝には、長州の動きを調べてもらっていた。
もちろん、内密にだ。
「ちぃの言う通り、長州で奴ら京にゴロゴロいよった。」
長州は、まだ、たくさん潜伏しているって事か。
まぁ、まだ追い出される事はしてないし
「だろうね。長州藩の腕利きの人物は居た?」
本当は、こんな事聞きたいわけじゃない。
「あぁ、おった。桂小五郎、高杉晋作、吉田稔麿、
後は、久坂玄瑞。」
出てきた名前に、声が出そうになって飲み込んだ。
「しっとるんか?」
「知らないよ?大体、長州藩の腕利きなんて、知るはずないじゃん。」
「せやな。でも、
急に長州藩を調べろって、あいつに関係あるん?」
まぁ、疑問だよね。あいつってのは、佐々木愛次郎だが、
はてさて、どう答えたら納得してくれるかな?
「はぁ、烝には敵わないよね~。流石天才観察方。」
「おだててもダメや。ちぃ、何企んどる?
言わへんやったら、すぐに、土方さんに報告するからな。」
しまった!おだて過ぎた。
はぁ。
「言います。ごめんなさい。」
だから、顔を近づけるのやめて下さい。
佐々木愛次郎、佐伯又三郎が間者であり
壬生浪士組に居たいと思ってしまった事で殺されるのだと……
「なんで、それを早よ言わんねん!」
案の定怒られた。
「だってーー」
「だってやない。」
う……
はぁ。っと、ため息までつかれて、しまった。
「ちぃ、お前が狙われたらどうするねん?」
流石にそんな事を考えた事はない。
「私ねらってなんか得がある?」
「アホか!ちぃは、芹沢局長の養子で、副長の小姓や!」
はい、その通りですが。
「わからんのか?壬生浪士の中を知っとるし、ましてや女子なんねんぞ?」
「つまりは、間者より、私を捕まえたほうが早く情報が手に入ると?」
パコーン叩かれたし…
「なに、情報の心配しとんねん。
ちぃが危ないゆうとるやろが!」
あぁ、そっちか!
「烝、これは内密にね?」
「…………。」
「烝?」
「また、無茶する気やろ?」
なんで、そんな暗い顔をするんだよ。
「烝、私がさ、長州の生まれで信じた人がたまたま倒幕派だったら、烝は敵って思う?」
「………思わない。」
「それは、私を知ってるから?」
「…………。」
黙っちゃった。
「あいつらはさ、知らなかったんだよ。
他の考え方を。壬生浪士組に来て、はじめて知った感情。
最初は、間者だったかもしれない。でも、今は、ーー仲間だ。」
それを忘れるな。
「ちぃ、わかった。
その代わり無茶するのはやめてや。頼むから。」
「努力する。」
「アホ。」
「眠い。烝、少し。少しだけ、私が眠るまで側に居て?」
まるで小さな子供の様に
私は烝の手を握りしめ目を閉じる。
「そんな可愛いお願いなら何時でも大歓迎や。」
なんでやろうな。
こんな小さな身体で、
たかが小娘やと思っとったのに、
意志が強い目をする時もあれば
こうして甘える時もある。
俺は、お前に囚われてしもうたんかな?
頭を撫でる。
なんや。もう寝てしもうたん?
俺も疲れてんで?
少し側におってもバチ当たらんよな?
何がどうなったらこの状況になるんだ
部屋の主人、土方歳三は目の前の光景に絶句していた。
布団で眠る千夜は、この部屋の住人。
だけど横で手まで繋ぎ添い寝する、黒装束の山崎は、
何故此処にいて、何故、千夜と寝てやがるんだ?
とりあえず 腹が立ったから、山崎を蹴り起こす。
「痛ッなんやねーー」
なんとも可哀想な山崎。起きた途端、鬼に遭遇した。
「なんで俺の部屋でお前が寝てるんだ?気色悪い」
虫扱い
「副長、酷いッ」
まるで舞台の大根役者。お前は、いつから女になったんだ?
突っ込むべきか、まぁ、どうでもいいから、ほっとこう。
「………。ちぃ、寝ちまったのか。」
「なんやねんその放置プレイ。」
山崎、お前、江戸時代の人間だろ?
そもそも、プレイってなんだよ。
「ちぃがな、寝る迄側におってって
可愛いお願いするから心地よーて、ねてしもた。」
「お前も疲れてんだろもう寝ろ。」
「嫌やちぃと寝る。」
なんだこのデケェ餓鬼は!こいつは、俺より年上だぞ!
「ここは俺の部屋だ。
俺は野郎と寝る趣味はねぇんだよっ」
「安心しぃ、俺かて男と寝る趣味なんてないから、
ちぃの横に寝るし。」
既に、布団に潜り込んでいる山崎。
「あぁ」
「……んー…うる……さい。」
寝返りをうって眠った千夜
ほっと、胸をなでおろす。
一組の布団に、三人は流石にキツイ。
仕方なく布団をもう一式敷き、
山崎を蹴って千夜から引き離す。
「いだっ副長、いつもちぃと寝とるやん
たまにはわけてーや。」
わけるもんじゃねぇ
「うるせ寝るぞ。」
強制就寝と言わんばかりに
灯りを吹き消す土方。
また、ちぃの温もりを感じ
眠りにつく二人なのでした。




