沖田と手合わせ
「沖田組長。」
「ちぃちゃん、その呼び方やめてってば!」
首を傾げるちぃちゃん。可愛いんだけど、違う。
入隊希望者が増え、
ちぃちゃんが朝稽古に来るようになったのは嬉しい。
だけど、みんなの前だからって、僕を、沖田組長って呼ぶ。それが、とってもヤダ 。
沖田さんのがいい?
とも聞かれたが、どっちも嫌。
総ちゃんって呼んで欲しい。総司でも可。
「芹沢さん、教えるのうまいよな。」
芹沢さんとは、ちぃちゃんの事。養子になったんだから、
苗字を名乗るのは当たり前だけど、指南しながら、耳はそちらに向いてしまう。
「俺、教えてもらうなら、絶対芹沢さん。」
「あれ、女だったらヤバイ。」
「俺、男でもいいけど。」
そう話すのは、入隊希望者だけではなく、最近、平隊士達にも好評なのには、腹がたつ。
手取り足取り教える教え方を見るのは、複雑な心境。
殴り倒していい?もちろん隊士達を…。
そう思うと、ちぃちゃんが近づいて、肩をポンと叩く。
だからできない。
「沖田組長、一戦、お願いできますか?」
「は?」
何を言いだす?間違いなく、僕は今、間抜けヅラ。
ちぃちゃんの言葉で騒ぎ出した隊士と入隊希望者……
「本気でいくよ。総ちゃん。」
耳元で言われたら、
「やります。」ってなっちゃう。
試合が始まった。シーンと静まり返った道場。
「始め!」
カンカン……ちぃちゃんの木刀を受けるが、重い!
また強くなったって事?本気にならなきゃ負ける。
ちぃちゃんの身体はまるで舞ってるみたいに優雅に僕の木刀を避ける。でも、僕も負ける訳にはいかない。
僕は、壬生浪士組の刀になる男だ!
ただ、必死だった。
ちぃちゃんに追いつきたい、追い抜きたい。
「一本!」
ただそれだけを考えてた。
勝ったのは……?
ーー僕。
ちぃちゃんの右手にしっかり入った木刀。
「ありがとうございました。」
部屋に戻っていく、ちぃちゃんの背を呆然と見ていた。
****
スパーンッ
「総司!って、ちぃ。どうした?」
「負けた。」
スタスタと部屋に入る。
「負けたって?」
「総ちゃんに、負けた。」
「はぁ?」
いや何の”はぁ? ”なのか。嬉しいけど、悔しい。
これが、男と女の違いだと言われてるみたいで、
「ちぃ、お前、手腫れてるぞ?」
そういえば、痛い。
*
「なんで、すぐ気づかんねん。」
治療中の丞。
「…………。」
「しばらく手、使われへんで?」
「イヤや。」
「ダメや。」
「イヤや。」
「はぁー
土方さんどうにかしてぇーや。」
「ちぃ。
あんま山崎を困らせるな。」
「………。御飯持ってくる。」
パタンと襖が閉まる。
「ありゃ、相当悔しいんだな。」
誰に似たんだか。
「土方さんやろ?
でもまぁ、可愛らしいとこもあるんやな。」
山崎、それじゃ俺が可愛いみてぇじゃねぇか?
「土方さん。」
襖の向こうから総司の声、スッと開けると
「ちぃちゃんは?」
こいつが、声かけて部屋に入る日が来るとは、
「今、朝餉もらいに行ってるぞ。」
「手大丈夫かな?って」
「しばらく使われへん。」
「そんな酷いの?」
「心配すんな。たいしたことねぇよ。」
「ならいいけど…」
「朝餉持ってきたよ。あれ、総ちゃん?」
「じゃあ、僕ーー」
「朝餉一緒に食べよ?ってか、持って来ちゃったんだよね。丞、こっち持って。よっちゃんはこっち。はぁ、重かった。じゃあ、食べよう。」
総ちゃんに、負けたのは、確かに悔しかった。
本気だったからこそ、悔しかった。
だけど、ココで総ちゃんにあたっても強くなれる訳じゃない。そんなのただの八つ当たり。
朝餉も終わり、ちぃちゃんは、また本とにらめっこ。
「ねぇ、鉛って手に入るよね?」
「鉛?何するんや?」
「ん?銃弾作ろうと思って。」
「「「はぁ?」」」
「うるさいよ。」
私が作ろうとしてるのは、火縄銃に詰め込む鉛玉。
威力とかより飛距離がない。
ミニエー銃が最大1000ヤードも飛ぶ。
この時代からしたら大砲だよ?
1ヤードが、0.9144m。914.4m?
この時代の値にしたら?
24.063157894736843尺
なんだ?この数字……。
こんな細い数字言う人多分いない。
「大体24尺、24」
銃弾を作るとか
とんでも無いことを言い出した、ちぃ、
さっきからブツブツ
やーど、だの、せんち、だの言ってて訳がわかんねぇ。
大体24尺
俺がわかったのはそれだけだった。
「ちぃ、なんでそんなに銃にこだわる?」
言える訳ない。
よっちゃん、土方歳三は銃に敗れるなんて、
だから私は、
「壬生浪士組が銃に苦戦したからね
改善策。かな。」
嘘を吐いた。




