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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
噂話し
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彼に残された時間

朝稽古の時間、前川邸にある備え付けの道場で、芹沢との手合わせが始まった。

隊士達は、芹沢と互角に渡り合う千夜を呆然と見る。

芹沢が朝稽古なんてあり得ないからね。


「まだ、甘いっ!左が隙だらけだっ!」


容赦無く左脇腹を木刀で殴られた。肋骨折れなかった?ってぐらいに…。私、怪我人なんですが?


「はいっ!」


芹沢の特訓は容赦ない。でも、強くならなきゃいけない。

心も体も、こいつに残された時間は、あと少ししかないから、痛い。とか、言っている場合じゃなかった。


「今日の稽古は終いだ。千夜。」


頭を撫でる芹沢は、優しい声で、大きな温かい手だった。


「ハァハァ…ーーはい。」笑って答える。


芹沢の命は短い。だから、笑っていようと決めた。

悲鳴をあげる身体、首に巻きつけた手拭いを外せば、そこは赤に染まっていた。

壁に身体を預け息を切らす千夜。左脇腹が悲鳴を上げている

マジで痛い。馬鹿力の糞オヤジめっ!

口には出さないが、悔しい。


「ちょっと、来なさい。」

何で標準語?千夜の腕を掴んだ人物は、そう言い放った。

いつも関西弁の観察方。山崎烝。


「芹沢が朝稽古なん、どういう風の吹き回しや?」

「はぁ?」


聞きたいのはそこか?何で芹沢と?とかじゃないの?

ジワジワ距離を詰めるのを、やめてもらえないだろうか


「男色と間違われるよ?」


チッ。舌打ちしたよ。この人。

これが、山崎烝の正体。いつもは、関西弁の明るい人物。

だけどね、キレると性格変わるし、余裕なくなると、標準語になるんだよね。面白い事に………。


千夜の顎を持ち上げる山崎。

男色と間違えられたいのか?


「何企んどる?ちぃ」

企みねぇ、言えるわけないでしょ?


「さあ?私は、ただ、芹沢を吹っかけただけ。

酒ばっか飲んでるあんたは、どんだけ強いか聞いただけ。

で、今朝に至った。敵わなかったけどね。」

「ホンマか?」


いえ。嘘です。なんて言えるわけないでしょ


「烝が何を考えてるのか知らないけど私はよっちゃんと敵対するつもりはない。だからと言って、芹沢を裏切る事もしない。」

「……。」


何か言えよ。


「なんでや?」

なんでって言われても、

「私が、そうしたいからだよ。」

「………。」


鋭い視線を向ける、ちぃ。その視線に、背筋が震える。

邪魔をするな。そう、言われているみたいだった。


「話しは、終わり?身体拭きたいから、じゃあね。」


そう言って、ちぃは、行ってしまった。

身体が痛む癖に足を引きずりながら歩くちぃ


「なんで、そんなになってまで、稽古できんねん。」

山崎の声が、虚しく消えていった。



千夜は、手拭いと着替えを持って、前川邸の蔵へと入っていった。誰かに見つかったら、稽古どころの騒ぎじゃ無いからだ。


「ーー痛っ!」

汗ばんだ身体を濡れた手拭いで拭く。


朝でも、薄暗いその場所で着物をはだけさせれば、脇腹に痣が増えていた。


はぁ。


傷に晒しを巻き、どうにか、着替えて、首の晒しも巻き直す。そして、着替えを手に、八木邸にと戻った。


縁側に、ゴロッと横になる千夜

どっと疲れた。眠い。

重くなる瞼。縁側で横になるのって私ぐらいじゃない?

そんな事を、思っていたら

「あれ?ちぃ」

「あー平ちゃん」


何時もなら抱きつくとこだが、動けない。


「どうした?顔色悪いよ。」


近くに来てくれた藤堂に自然と笑顔になる。


「平ちゃん、ちょっとお話ししようよ。」

「本当に大丈夫か」


って、気遣ってくれる藤堂は、あの変な、方言使いとは大違いだ。と口には出さ無いが思った千夜。

だるそうな千夜を見かねてか、藤堂は千夜を自室へと連れて行った。


平ちゃんの部屋に来たのだが、


「平ちゃんの部屋綺麗だね。」

よっちゃんの部屋はほっとくと、紙に埋め尽くされるし、

総ちゃんの部屋は、甘味が片隅にある。


「俺、物あんま置かないからね。」


座布団まで用意してくれた藤堂


「平ちゃんはさ、壬生浪士組好き」


へっ?と言いながらも、答えてくれる平ちゃん


「ああ、好きだよ。だって皆で呑んで笑って楽しいじゃん。」


そうだね。平ちゃんは、そういう人だった。


「私ね、平ちゃんの笑顔好きだよ。

でも、無理して笑ってる平ちゃんは嫌い。」


平ちゃんを見つけて、言いたかった事。

彼は今悩んでいる事を、私は知っていた。

壬生浪士組が、町を巡察する事になったのは、二、三 日前。

巡察から帰ってきた平ちゃんは、いつもの元気が無く、

ヘラっと笑った。痛々しい笑顔で


すぐにわかった。町人の人からの冷たい視線を

彼はきっと、感じ取ったのだろう。

そんな、悲しそうな顔で無理に笑わなくてもいいのに。


「嫌いって」引っかかったのはそこだけ?

「無理に笑う平ちゃんはだよ」

「ちぃ。」情けない声。そう思っても笑わない


笑えない。彼は、本気で悩んでるから。


「平ちゃん充電。」


フワッと、いきなり抱きしめられた。


充電っつたから、俺が抱きしめると思ったのに

俺は今、ちぃに抱きしめられてる。

ドクンドクンっとちぃの心臓の音が……じゃない…


離れなきゃ。と思ったが、ちぃの腕が離してくれない


「ちちちち…ちぃ」

「ん 」


んじゃねー

「ちぃ、離して」

「嫌だよ。」即答かよ!


「嫌だよ。平ちゃん一人で悩んで苦しまなくていい。

無理して笑わなくてもいい」


ああ、そうか。慰めてくれてるのか。

俺、カッコ悪りぃなぁ。


「ちぃ、ありがとう。」


そう言ったら、アッサリ離された腕。

それは、すっげえ寂しくちぃの顔をみたら、泣いていた。


「平ちゃん、笑って」


そう言って、頬を濡らして、笑う、ちぃを見て気づく。


無理して笑う俺はちぃには、こう見えていたのか。と


今目の前に居るちぃは、俺には、無理して笑っている様に、見えたんだ。


「バカ…」

初めてだった。

自分から抱き寄せ。縋るように泣いたのは。



———初めてだった。こんな感情も……。
















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