芹沢の養子
私はまだ、壬生浪士組を離れる訳にはいかない…
よっちゃんがダメなら、近藤さん?いや、ダメだ。
よっちゃんに相談するに決まってる。
だったら、行くしかない。芹沢の元に…。
夕暮れ時、私は前川邸へ向かう
納得させる材料?
そんな都合のいい材料など持たないまま、私は覚悟を決めた。
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「で?俺に話しとは?」
前川邸に入って、落ち着かない私を鼻で笑った芹沢。
「担当直入に言います。私を武士にして頂きたい。」
芹沢は、明らかに顔を歪めた。
「何を言うかと思えば、女子がーーー
「そう…私は女に生まれた。だから武士にはなれない。
ただ、女ってだけでね。」
芹沢の言葉を遮って言った言葉は、芹沢を黙らすだけの威力があった。
そう。女子が武士になれない。そんなもの誰が決めた?
男しか武士になれないって誰が決めた?
それはこの時代の当たり前の男女差別。
「女子に生まれたから、武士になれない。いくら剣術を磨いても、いくら銃を扱えても、隊士より強くても男はよくて、女は悪い。私は、好きで女子に生まれた訳じゃ無いっ!」
芹沢は、私の言葉に戸惑ったのか、鉄扇を開いては閉じるを繰り返していた。
「お願いします。芹沢鴨。
貴方の強さを、私に、分けていただきたい。
私は、貴方を誠の武士だと、そう、自負しております。」
「何故、今なんだ?
怪我も治ってからでも遅くないだろう。」
「そうだぜ。姫さん。
今は、身体を治して、ゆっくりーー
「ゆっくりとなんて、してられないのっ!」
千夜の声が、その場に響き、彼女は突然、畳に三つ指をつき、頭を下げた。
「お願いします。貴方が背負うもの全てを
私が代わりに背負える様、強くしてください。」
「姫さん、どうして、そこまで…。」
どうして?みんなの夢が詰まった、壬生浪士組。
そして、その土台を作ったのは他ならぬ、芹沢鴨。
近藤派が、芹沢派を嫌っているのは重々承知。
でも、私は、この男を凄いと思ったんだ。
「全ては、壬生浪士組の為に。」
フッと笑った芹沢鴨。
「そうか、お前は、———知っているのだな。」
俺の命の灯火が、あと僅かしか、灯ってはくれないことを…
「はい。」
「そうか。」
千夜の姿を見て、鉄扇をパチンッと閉じる。
「一つ問う。———お前に、覚悟はあるか?」
その問いに、千夜は芹沢と視線を合わす。
「もちろん。覚悟は、とうに、出来ております。」
揺るぎない、その瞳に
「わかった。お前に、俺の全てをくれてやる。」
ニヤリと笑ったまるで悪代官の芹沢
私は、その日、芹沢の養子になった。
その翌日から、私の生活は、一変した。




