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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
殿内
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殿内の詮議ー弐

この後、四人の男は 、釈放された。

四人の命を救えたなら、それでいい。

残るは殿内ただ一人……


重苦しい空気の中、縛られた殿内。

何を聞いても沈黙。殿内が一番信用をしている奴の話なら

きっと、耳を傾けてくれるはず…そう思って、私は口を開いた。


「さっき、清河の話ししたでしょ?なんで置いて行ったと思う?」


問いかけたって返事がないのなんてわかってる。

それでもね、しっかり反応はしてるんだよ。

清河の話しをする度に、視線が揺れるのは、彼の元に行きたいから…


「あんたを助けたかったんだよ。監視って名目をつけてね。

清河は、幕府の力を借りて倒幕の組織を作ろうとした。

倒幕派として追われるのなんか目に見えてわかるだろ?

今あいつは追われている。ーー幕府に……」


「………。」


手を握りしめた殿内

「お前は、こんな所で何をしている?

殿内お前が信じた人間が、この先、死ぬんだ。」


何を言ってると言わん限りの顔で、私を見る殿内。


「清河八郎は、四月十三日に麻布一ノ橋で幕府の刺客、佐々木只三郎・窪田泉太郎。六名によって討たれ首を切られる。お前が行けば助かるかもしれないっ!

殿内、お前ならどうする?」


「ちぃ!倒幕派の肩持つのなんあかん。」


今、私がいる時代は、幕府が偉い。それが当たり前の時代。


「わかってるよ!清河は、もう壬生浪士組と関わりのない人間だってことぐらいっ!

でも、

浪士組を結成したのは、倒幕派の清河なんだよ!」


ズルズルと地面に座り込む千夜。


助けたいけど、助けれない。

助けてはいけない。———倒幕派だから…

幕府は無くなるのに、


「倒幕派で、裁かれた人間はどれだけ居るんだろうね。」


私は知ってるのに、何もできない。

無力。その言葉が相応しい。


「本当なのか? 」

「へ?」


完璧忘れてた。殿内の存在。


「へ?じゃない!清河さんの話しだ!」

「本当だよ。」


もっと、言葉を選べばいいのに、私の答えた言葉は何ともシンプル。思い詰めた様な表情をする殿内

このまま、何も言わなければ、殿内は死ぬんだろうか?

総ちゃんは、初めて人を斬るんだろうか?

そんなの、嫌だ。



倒幕だの幕府だの知ったことか!

幕府は無くなる。はっきり言ったら、倒幕派の死は無駄死にだ。


倒幕派全てを助けれなくても

殿内を助けれるのは、私だけじゃないのか?

声を出すことさえ、怖かった。


「殿内、お前にやって欲しい事がある。」


震える声をどうにか振り絞る。


「ちぃ!」


誰にどう見られても、例え殿内が倒幕派でも、私は間違ってない。


「殿内、麻布一ノ橋に向かえ!手紙を渡して欲しい。

お前が一番信頼している奴に……」


此処に来て書いた手紙。

別に誰かに宛てた手紙でもない。ただ何と無く筆をとって

思ってる事を書き記しただけの、ただね紙切れ……


本当は、清河宛てに書きたかったが、書く時間もなかった。

ちらっと芹沢を見れば、ニヤリと笑っていた。

殿内の懐に手紙を滑り込ませる。


「千夜、お前は何を言っておる?その男はーーっ!」

「その男は、初めから、近藤勇を狙っては居なかった。

貴方は、それを知ってたんじゃないんですか?近藤さん。」


「ーーっ!」

「あの時、押入れから、貴方が飛び出して来た時、

他の四人も含め、まだ、動ける状態だった。なのに、誰も貴方の背後からは、襲おうとはしなかった。」


みんながみんな、近藤に見えるように正面から攻撃をくわた。あの時感じた違和感は、その為だ。

「…………。」

苦虫を噛み潰した様な近藤の顔

しかし、嫌な沈黙が続くだけで、何も答えてはくれなかった。

「お前ら、今日はもういい。下がれ。近藤さんと総司は残れ。」

「土方さん?」

不思議そうにする沖田。

「芹沢、お前も休め」私は芹沢の肩を叩く、


ーー顔色が悪い。安心しろ。お前の仲間だ。

必ず生きて此処を出す。

「あぁ、そうさせてもらう。」

クシャッと撫でられた頭。

頼んだ。と、芹沢の小さな声が私の耳には、ちゃんと届いた。



蔵の中に残った


千夜、土方、沖田、近藤の四名と、殿内。

はぁっと、よっちゃんのため息

「近藤さん、何も言わねぇんだな。」

「歳、俺は、何も。ただ、総司の為に…。」


みんなが居なくなって口が軽くなる近藤。

「総ちゃんの為に?何?」

ちぃの目が、鋭さを増していった。


「お前の様な小娘に何が分かる!」

「「近藤さん!」」


……小娘……


フッと笑った

「近藤さん、あんたの考えてる事なんて、知ってるよ。

沖田総司に、殿内を暗殺させ、

人を斬る事に慣れさせようとしている。

殿内を抹殺すれば、芹沢派の人間が減る。

まぁ、一石二鳥って訳だよね?近藤さん?」


「………。」 

「間違ってるよ。近藤さん。」


僕は、近藤さんに、こんな言葉、言った事ない。嫌われるのが怖いから、


「人を斬って、人を殺して、慣れる人間なんていない。」

「お前なんかにーー

「168人。私が殺した、人の数だよ。

それでも慣れなんてしやしない。むしろ、苦しくなる一方で、相手の死に顏が、毎日毎日、浮かんでは消えてくっ!

人を斬る事が出来るのが武士か?

弱い者を助けるのが武士じゃないのか?

お前にとって、誠の武士とはなんだっ!?」


意志の強いその言葉、それとは裏腹に、彼女の指先は微かに揺れて居た。怖いんだ。僕と同じ様に…。


「殿内は、倒幕派だっ!」


人の話を無視して何を言うかと思えば、呆れてモノも言えないとはこの事だ。懐から苦無を取り出し、殿内の縄を切る。


ーーいいか?合図したら走れ


小さく頷く殿内。


「近藤さん、隊士の一人信じれなくてどうする?


芹沢は、此処を出るとき私に言った。

”殿内を頼む”とな、芹沢派だろうと近藤派だろうと関係ない!隊士一人一人大事な筈だっ!」


「………。」


何も言ってくれない。か…


「ーー…凰牙!」


来るか、来ないか、賭けであった。私が昔助けたヒナ鳥の名前を呼んだ。

何処かに、変な確信を抱きながら…。

そしてすぐ、羽ばたく音が聞こえた。


「キィー」鳴き声と共にバサッと蔵に現れた白い鷹。

広げた羽根は、彼女より大きく、皆が信じられない光景を見てるように目を見開いた。


はらり。はらり。と、たまに落ちる白い羽根


「走れ!殿内。お前は、自分の誠を貫け!

最後まで心配してくれた…芹沢の為にもっ!」


殿内が逃げても僕達は動けない。

大きな白い鷹が彼女の腕にとまった。

もう、ヒナ鳥ではない凰牙。立派な白い鷹だ。


「殿内を頼む…。」


そう告げれば、キィキィ

返事をする様に鳴いて蔵を出て行った。


何が起こったのか?

ただ、唖然としてる僕達の中で始めに動いたのは、土方だった。


フラフラしている、彼女に手を伸ばす。

「ちぃ。もういい。」


土方が彼女の身体を支えようとするが、ふるふると首を振る。そして、彼女は、沖田に視線を向けた。


「総ちゃん、間違ってたら間違ってるって言う勇気を持て!逃げてても何も始まらない。

沖田総司は、壬生浪士組の刀になる男だっ!


自信をもて。

みんなもっと、強くなる。本物の武士になれるっ!」


段々弱くなる、千夜の声に、

土方は、抱きしめてやることしかできなかった。


































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