平成で…
————死を許されない彼女。
戦争は、愚かな行為だと理解して居たのにもかかわらず
彼女は戦争に参加した。
銃弾で撃ち抜かれても、斬られても、
彼女が命を落とす事はなかった。
彼女は、————死なない。
いや、死ねない。と、言った方があっている。
江戸、明治、大正、昭和、平成を生き、
今も、平成の世を生きている。
彼女の生い立ちについてだが、
1848年(嘉永元年)7月に生を受けた。
生まれも、育ちすらも歴史の中に記録は存在しない。
彼女の記憶は欠落している場所が多い。
中でも、出生の事から三歳の記憶が、曖昧だ。
しかし、四歳の記憶からは、色濃く覚えていた。
強く残ってるのは、土方歳三に助けて貰ったという事実。
年齢から逆算したから、生まれた年代は、らしい。とつく…。
彼女は、親の存在をしらない。
だからか、好きキライの区別はつくが、
愛情と言うものを理解できない。
それだけ聞けば、冷たい子と言われそうだが
彼女は、真っ直ぐ素直に育った。
ただ、周りが男ばかりで
娘らしさがないのが、周りにとっては悩みだった。
土方歳三を”よっちゃん”と呼び、
行商にもついていった彼女には、人を引きつける【何か】があった。
桜色の髪に、碧い瞳を持つ美しい少女。
彼女は、刀を持った。
人を殺す為ではなく、人を助ける剣になろうと……。
……だが、現実は、あまりにも残酷だった。
目の前で亡くなっていく、仲間達。
刀を持っても、時代の荒波には太刀打ちすら出来ない。
何の罪もないただ長州の間者だっただけで
芹沢殺しの罪を着せられ、殺された隊士達。
仲間の脱走、切腹を止める事すら出来なかった。
ガラガラと音を立て、崩れていく仲間との絆。
目に見えないそれは、誰に確認する事も出来ないままに
戊辰戦争は、始まってしまった。
みんなの想いもバラバラになり、
ついには、彼が病に倒れた。
同じく、戦線離脱を余儀なくされた私は、
彼の痩せ細る体をさする事しか出来くて、
恩師の死を教える事も無く、
彼は、————逝ってしまった。
刀を毎日研ぎ、いつでも戦地に行けるようにと…
もう、身体は動かないのに、
「いつ近藤さんが呼んでもいいように、
刀の手入れぐらいしとかなきゃ。」
そう言うんだ。
安らかに眠る彼との約束は、
自分の刀を恩師では無く、土方さんに届けて欲しい。
そう言った。彼がそう言うのなら、私は、届けるしかない。
冷たい身体。もう、動く事の無い彼の身体
私は、戦地へとひた走った。
その決断をしたのは、彼が亡くなってすぐの事。
思い返すのは、死んでいった仲間達の事ばかり。
一緒に笑った日々は、もう遠い過去。
誰の運命も変えられず、
気づけば戦争が終わっていて、行く所は仲間の屍ばかり…
ようやく着いた一本木関門には、命の恩人の髪結い紐が落ちてただけで、地に広がった赤が誰のものであったのかすらわからないまま。
結局、彼の遺体すら見つけてあげれなかった。
私は真剣を握ったのに何も出来なかった。
たった6年、新選組は跡形も無く消えて無くなってしまった。
「ーーっ!」
もう、死なせてっ!
彼らの元に逝かせてよ!!
誰か、誰でもいい。私の時を止めて!
新選組の彼らの元に、
ただ、彼らの元に逝きたいだけなのに
それすら、許されないの?
何故、私だけーー私だけ死が来ないの?