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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
土方の企み
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土方の企み…弐

千夜が八木邸を出て行った後

倒れた男たちに歩み寄る人影があった。


「痛っ!あの、くそ小姓。覚えてやがれ!」


凄んでいる男だが、身体が痛むのか、弱々しくそう言い放つ。


「たった一人に、この人数でやられといてよく言うぜ。」


「全くだな。」


「影で、コソコソしてるつもりだろうが、筒抜けなんだよっ!」


三馬鹿の登場により

慌てた様に立ち上がり、逃げようとする男たち


「何処へ行く?」


行く手を阻むのは入隊したばかりの斎藤


「君たち、あの子に手を出すと

どうなるか、教えて欲しいみたいだね。」


ニヤリ笑う、沖田の姿

ヒィッっと悲鳴をあげる男たち。

逃げ場は、すでに、無くなってしまっていた。


「言いなよ。誰の指示?」


「………」

「………」


沖田の問いに答え様ともしない平隊士達


「しょうがない。こいつら斬り刻んで、

その辺の川に放り投げようか?はじめ君。」


まるで、楽しんでるかの様な沖田の声


「……。そうだな。言わぬなら、致し方無い。か。」


ギロリと向けられた鋭い視線

一人の平隊士か声を上げた。


「そんな事をすれば、土方さんが黙っていないっ!」


と……



「へぇ。何で、そこで、土方さんの名前が

出てくるのかな?ねぇ。どうして?」


声を上げた平隊士の襟元を掴み上げ、そう、問う沖田。

その目は、完全に座ってしまっていた。


ギリギリと

力を増す、沖田の手に顔を顰めた平隊士。


「……う………」


「土方さんが、君たちに、命じたんだね?」


静かに問う沖田に平隊士は、頷いた。

ドサッっと落とされる平隊士。


「総司。」


彼の表情は、見えない。歩き出した沖田に


「総司、お前何処行く気だ!」


歩みを止める沖田


「この人達にもう用は無いでしょ。

でも、覚えておいて。」


クルッと男たちを見て


「僕のお気に入りを傷付ける奴は

誰だろとーー殺すから。」


そう、言い放った。


無言で頷く男たちを見てやるせない気持ちのまま、

沖田は、ある男の部屋へと向かった。

藤堂らも、沖田の後を追った。




******



「なんだ?みんな揃って?」


文机から、身体を皆の方へと向けた土方


「………」


沖田は、ジッと土方を見つめるだけで言葉は発しない。


「土方さん。

気付いてる?千夜が、足を引きずってんの。」



藤堂がそう切り出し、土方は、表情を曇らせた。


「ーーっ。いや。知らねぇ。」


振り絞った様な土方の声


「千夜、何も言わないけどさ、あれ、やったのって、」


頭の中が整理出来ていないのか

藤堂は、一旦口を閉ざし、再び意を決した様に口を開いた。


「俺難しい事わかんねぇし、

千夜の事を思い出したわけじゃねーけど

俺らが、千夜に暴力振るったのは、事実だろ?

俺、すっげぇ悪いって思ってる。


土方さんが、間者だって疑うのも分からない訳じゃねぇーけど、いくらなんでも、やり過ぎだっ!」


頷く男たちに土方は、ため息をついた。


「お前達は、甘いんだよ!」


そう、怒鳴った土方。


「甘いのは、どっちですか?土方さん。」


静かな部屋に響いた、沖田の声。


「なんだと?」


「この部屋は、

隊士の名簿から機密書類まで全てがある部屋。

そんな所に、間者と疑う人間を、寝泊まりさせますかね?」



確かに沖田の言う通り。


間者と疑う人間なら、この部屋は、一番避けなければなら無い場所。そこに、この男は、間者と疑っている女を置く事を決めたのだ。


「捕らえられたのは、ちぃちゃんじゃなく、

土方さん。貴方の方だ。」


捕らえられ、閉じ込めた彼女。

意のままにしていると思い込んでいる土方


だが、本当は、彼女の手の内で転がされている。

沖田は、そう言いたかったのだろう。


「何言ってやがる?俺が、あの女に、

惚れたとでも言いてぇのか?」


馬鹿馬鹿しい。


「現に、彼女を閉じ込め、

試す様な事ばかりしてるじゃ無いですか!」


「勝手にそう思ってろ。

俺には、そんな事に構ってる暇はねぇんだよ。」


と、文机に向かってしまった土方

これでは、話しにならない。


「あいつの話しなら聞かねぇからな。」


と、言われて仕舞えば、

言いたかった事すら飲み込むしかなく、

部屋を後にする永倉ら。沖田は1人その場にとどまり


「一つだけ言っておきます。

近藤さんに暗殺を指示されました。相手は、殿内。」


その言葉に、勢いよく振り返った土方


「貴方は、何も掴んで無いんですか?

ちぃちゃんは、、

ーーすでに、動き出してますよ。」


では。と、部屋を後にした沖田の背を

見送った土方。怒り、悔しさから、文机の上のモノを撒き散らした。

ぽたぽたと落ちる黒い液体は、白い半紙を汚していく



「ーー。ただい、ま?」


撒き散らした半紙に固まる千夜。

決して綺麗な部屋では無かったけど

半紙の散らかり具合が尋常じゃない。


「片付けるね。」

と、半紙を拾い上げる。

一枚。もう一枚と、拾われていく半紙

足を引きずり歩く女に


ーー千夜が足を引きずってんの、知ってる?


藤堂のその言葉を思い出す。

土方の近くに落ちた半紙を拾い上げ様とした瞬間

グイッと引かれる間隔と、

背中に走る痛みに、千夜は顔を顰める。


「ーー痛っ!」


目を開けば、目の前に、土方の姿

腕は掴まれ畳に縫い付けられてしまっていた。

辺りにかき集めた半紙は、再びばら撒かれる。


「よっちゃん?」


「俺は、よっちゃんじゃねぇっ! !」


————囚われたのはどっち?


この碧い瞳に、綺麗な桜色の髪に、

そして、この白い肌に華を咲かせ、こいつの唇を塞いでしまいたい。


「ーーんんっーーっっ!」


乱暴に口付けする土方。


暴れろ。嫌だと叫べ。抵抗しろ。

お前を抱けば、お前は逃げていく。


俺からも、この、壬生浪士組からも



————それで、終いだ。























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