土方の企み
あいつは、何事も無かった様に部屋に帰ってきた。
あの女好きの芹沢が手を出さなかった。
あいつが俺に言った言葉は、たった一言。
「ただ今、戻りました。」
それだけだ。
屯所から追い出そうと、芹沢を頼った俺がバカだった。
こうなったら、自分で手を打たねば…
「おい。」
呼ばれて振り返る女
「お前を今日から俺の小姓にする。いいな」
女は、視線を漂わせ、「はい。」そう返事をした。
小姓とは主人の身の回りの世話をしたり、来客の取次をしたりする秘書のような役割。
しかし、小姓の仕事は、それだけでは無い。
クックッっと笑う土方
あいつは男じゃねぇが色小姓ってのもある。
まぁ、それは最終手段だ。
笑った土方に千夜は、素知らぬふりを決め込んだ。
何があっても、此処から出る事はない。
————絶対にね。
ーーーー
ーーー
ーー
「おい、あいつだろ」
「あぁ、媚び売って体まで売ってんだろ」
「女顔だからなぁー。」
よっちゃんの小性になって、こうして影愚痴なんて毎日の事だった。
まだ文久三年の3月の半ば、
隊士も少ない組にとって新しい隊士は珍しい、しかも入って早々に副長の小性なんて嫌味の一つや二つ、ってもんではなく、足をかけられたり、殴られたりなんていつもの事。
別に告げ口なんかしないのに、最後に告げる、
わかってるよな?と、
何にもわかってないんだけど。
何が楽しいのか本当めんどくさいな。
今日もなにかあるだろうが、適当にあしらえばいいとタカを括った千夜。
土方から手紙を預かり出しに行こうと、門を目指し歩いていた。
ジャリジャリ。
幹部隊士がいない場所を選んで出て来る奴ら。
めんどくさい。
屯所の門から中庭に入れる場所は、
いつも、人通りなんてない。
そんな場所で、身体ばかり狙う隊士達。
殴られ蹴られても、抵抗していいかわからない。
こいつらも千夜にとっては昔の仲間だ。
相手が覚えて居なくても
持っていた手紙が地に落ち、
拾おうとしたところ、顔に見事命中。
千夜の頬は赤くなり、口から血が流れ落ちる。
「ヤバイよ」
慌てた声が上がった。
が、千夜は別になんとも思ってない。
文に手が触れた時、
「お前ら、何をしておる!」
まさかの人物に逃げるのを忘れる隊士達。
ジャリ…ジャリ…
私に近づく足音。
「芹沢」
まさかの呼び捨てに隊士たちが青ざめた。
「お前は、何とも思わんか」
「何がだ」
「その手紙を書いた奴の侮辱だ。」
相変わらず口下手な奴。
芹沢は、武士としての考え方を言っている。
「そうか、お前はそう捉えるんだな。」
ただ、手紙が落ちたから拾うんじゃないんだな。
お前は、手紙を落とされ汚されたら、
侮辱ととるんだな。
「お前はどうする
土方を侮辱されたままにするか」
それが武士ってやつなら、私は従うだけ。
「芹沢、私はお前の言葉を命令ととるぞ。」
フッと笑った芹沢
「好きにせよ。」
いい目をしよる。
「御意。」
芹沢が隅で見てる中、始まった私闘。
土方が侮辱されたという名目はあるが私闘に分類されるだろう。
「お前、芹沢局長がいるからって調子にのってんなよ」
「調子に乗ってるのは、お前らだ」
ドンッと 一人投げ、一人鳩尾に拳を入れ倒す。
「私を侮辱するのはいい。
幹部隊士を侮辱するのだけは、絶対、許さない。」
「こいつ、強い。」
殴られた奴から、こんな言葉が溢れ落ちた。
何を言ってんだか。
ザッと沈め、私は、倒れた男たちをチラッと見て仕事に戻った。それを見ていた男たちに気付けずに。
昼の京の町。
はぁ、なんでこいつはついてくるの
「芹沢、あんたね」
なんじゃって顔してきたから、めんどくさいし、
ほっとこ。ってなった。
厳つい男が
私の後ろを歩くってどう考えても可笑しい
手紙を出す場所は近い所。
なかなか外に出れない千夜にとっては、嬉しい時間が、今日は最悪。頬といい、芹沢といい、帰ったら、、、。
よっちゃんの顔が浮かぶ。
ふるふると首を振って追い払う。
「千夜、茶を飲もう。」
芹沢と茶。
文も出したし帰りたい心境の私。
まぁ、たまには、いいかと、
ドカッと既に座った芹沢の横に腰を下ろした。
芹沢はお茶だけなのに、何故私のは団子付き?
頼んだのは芹沢だから何も言わないけど。
「ねぇ、芹沢、殿内は」
聞きたくても聞けなかったことを聞いてみる。
「あぁ、彼奴は、なにやら毎日忙しそうだ。」
「芹沢、殿内をとめて」
まさか私が頼み事をするとは思ってなかったらしい芹沢は、お茶を持って固まった。
「殿内が何かするのか」
まぁ、そうなるが。
「殿内が殺される。仲間に暗殺された。
今あいつがやろうとしてる事は起きてはいけない事だけど、どうしても、わからない。
本当に殿内が死ぬ必要があったのか。」
総ちゃんと近藤さんが暗殺した殿内。
近藤さんを殺そうと企てたらしい、殿内。
私には、殿内を総ちゃんに斬らせたかっただけじゃないかと思ったから。
だって、同じ組だろうと
殺しを企てたら即暗殺ってのが変。
殿内の話を芹沢から聞いたが
近藤さんと殿内の接点が見つからなかった。
どうしたらいい?どうしたら変えられる?
願って見てるだけじゃ歴史なんか変わらない……
行動あるのみって事か。




