斎藤一
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八木邸の門の近くに、男の姿があった。
「はじめ君!」
その男、斎藤に、駆け寄る沖田。
沖田のみならず藤堂、永倉、原田、井上までもが
斎藤に歩み寄ってきた。
「皆、久しぶりだな。」
辺りを見渡す斎藤に、沖田は首を傾げた。
「千夜は、一緒では無いのか?」
と……
その声に、近くまで来ていた土方は、歩みを止めた。
ーーみんなと一緒に試衛館で暮らしたの。
そう言った千夜
だが、自分にはその記憶がない。
土方のみならず、藤堂、永倉、原田らも同様だ。
渋い顔をした皆に
「どうしたんだ?」と、斎藤は沖田に視線を向ける。
状況がわかってない斎藤に、沖田は、説明するしかなかった。
斎藤は、沖田の説明を聞き、表情を険しくさせた。
「…そんな。皆が、千夜を忘れてしまうなんて…
あんなに、可愛がっておられたのに。」
と、土方に向かって放った言葉
「千夜は、何処に居るのですか?」
斎藤に遮られ、仕方なく、土方の自室へと斎藤を案内した。
斎藤の姿に
「…はじめ…」と、声が漏れた。
足早に千夜に近づく斎藤
そのまま、痩せた千夜を抱きしめた。
これで、確信した。私は、この世界に存在している事を…。
***
懐かしさに酒を酌み交わす男達。
それを、遠くの山崎の部屋から見つめる、男と女。
「えぇん?混ぜてもらわんくて、」
そんな山崎の言葉に千夜は、悲しそうな笑みを見せた。
「私は、仲間って、認められてないから。」
「ちぃ。」
「いいの。はじめが来た事で分かった事があったから。」
「分かった事?」
「それより、烝は、よかったの?混ぜて貰わなくて。」
「俺は、別に、」
「ふぅん。」
「ふぅん。って。」
関心が無いなら聞くなやっ!
「ねぇ。烝。頼みがあるの。」
ニッコリと笑う女。何かを企む様な笑みに山崎は、少し後ずさる。
「な、なんや。頼みって?」
「そんな、身構えなくてもいいでしょう?
なにも、とって食う訳じゃなし。」
近寄ってくる千夜の迫力に、また、後退する山崎。しかし、背後は壁。逃げ場は、無くなってしまった。
「とって食う。とか言うなやっ!」
女やろっ! ?
慌てた山崎に千夜はため息を吐く。
「なんで逃げる訳?
肩、なんかついてるから取ろうとしただけなのに。」
ほら。っと枯れ葉らしき物を見せた千夜。
ズルッと腰を床につけた山崎。
なんや、迫ってきた思ったわ。
「山崎烝。」
その声で、名前を呼ばれると背筋が伸びてしまうのは、
こいつが、俺の護るべき相手だから。
「私を、助けて?
壬生浪士組の未来を変えたいの。
だから、力を貸して?」
今にも、涙を流しそうなそんな表情。
俺は、女の前で片膝を着き頭を下げた。
「御意。」
「ありがとう。烝。」
そう言って、視線を俺に合わせた、ちぃは涙を流した。
涙を流した千夜の頭を撫でる山崎。
はじめが屯所に来た時の、あの目が忘れられない。
よっちゃんは、私を追い出そうとしてくる。
それでも、私はーー逃げる訳にはいかない。
頭を撫でるあったかい手、
「ちぃ?お前、なに考えとる?」
発せられる声。
「烝……、抱きしめて。」
全部、生きてる時しか感じられない。
「は?」
「心臓の音が聞きたい!」
おずおずと、伸びてくる手。抱きしめられた温もり
烝に抱きしめられるって変な感じ。
ドクンドクンと聞こえる心臓の音。
その音は、————私の希望。
私の大事な仲間。生きている大切さ、
誰も欠けさせたりしない
その為なら、この命かけてもいい。
「丞、助けて。……ん…」
唇が触れる。
「ちぃの為なら、やったる。」
ふっと笑ってしまった。
「愛を知らない私でも?」
「愛より誠やろ?」
「せやな。」
真似するな。そう言って、唇がまた重なる。
そこには、愛は存在しない。
ただの、同情、哀れみ、慰め。忠誠。
そんな意味が込められた口付けーー。




