無くならない疑惑
土方の部屋で、
山崎と沖田は正座させられ、鬼の前に居た。
千夜は、スヤスヤ夢の中。
「何で僕まで?」
文句を言う総司。
「女の胸見たぐらいで、鼻血出してる奴が
生意気な事言ってんじゃねぇよ。」
「だって、ちぃちゃんの胸ですよ?
しかも、こんな明るい。」
また総司が鼻血を出し、手で押さえる。
土方が、再度ため息を吐いたのは言うまでもない。
「俺は鼻血出してない。」
「山崎、お前が鼻血出したら気味が悪いわ!
お前ら、千夜の胸の話ししかできねぇのか?」
だったら何の話し?と、二人が顔を見合わせる。
「こいつの疑いは、晴れた訳じゃねぇ。
お前らが、こいつに惚れようが
俺たちは、情に左右されちゃならねぇーんだよ。」
「土方さんは、ちぃちゃんを間者だと思ってるんですか?」
「あぁ。」
「だったら、いっその事、自由にしてみたら如何です?」
その方が、疑いが晴れるのは早いと山崎は考えたのだ。
山崎の企みがわかったのか
「あぁ。そうですね。
何にも出てこなかったら、此処に置かなきゃいけなくなるんですから。」
二人の言葉に
「何か出てきた時は、あの女は、死ぬことになるんだがな。」
と、土方は付け加えた。
「……。」
「……。」
「後、千夜の事だけどな、今日から俺の部屋に置く。」
「土方さん、それは無いですよ~」
千夜を取り上げるなんて、沖田に耐えれる筈もなく
抗議の声を上げるが、見事に無視。
「別に俺は構わんけど?なんでや?」
「そんな事も解らないのか?
テメェらは、あの女に惚れている。逃す可能性のが高い。
だったら、此処に置いて俺が監視する。
それとも何か?反対する理由があるのか?」
「……。」
「……。」
反対なんて、出来るはずがない。
二人共、千夜が間者では無いとはわかっているが
目の前の男が信じない限り、千夜が此処に身を置く事は不可能。
こうして、千夜の部屋は
土方の部屋へと移される事になったのだった。
部屋を移された千夜だが、ずっと、文机に向かったまま
こちらを見ない土方
「あの、よっちゃん?」
そう呼んでみたら、はぁ。っと深いため息が返ってきた。
そして、ようやく振り返り、切れ長の目が、私を映した。
「一つ言っておく。俺は、よっちゃんじゃねぇ。」
「………。」
「それに、お前がどんな手段を使ったか知らねぇが
俺は、総司と山崎を手懐けた様にはならねぇからな。」
手懐けたって、私何もしてないんですが?
「土方さん?夕餉運んできたけど。」
と、遠慮がちに襖の向こうから声がかけられた。
「あぁ。平助か。」
襖を開けてやる土方。声の主は、藤堂だった。
「平ちゃん。一緒にーー「ご苦労だったな。」
と、お膳を受け取る土方。藤堂は、千夜を見て
「じゃ、じゃあ、俺はこれで。」
と、戻って行ってしまった。
一緒に、ごはん食べたかっただけなのに、
「お前、わかってんのか?
お前は、女だから、蔵じゃ無くなっただけで疑いは、晴れてねぇんだよ。平助も手懐けたかった様だが残念だったな。」
ねぇ。手懐けるって、何?
目の前に居るのは、本当に、よっちゃん?
差し出された、お膳。
女が、その膳に手をつける事は、無かった。
次の日も、その次の日も、女は、食べる事すら拒んだ。
お膳を取りに来た藤堂
「また、食ってねぇのか?」
運んだ時のまま何も変わらないお膳を見て、そう、声が漏れた。
「いつまでそうしてるつもりだ?」
仕事しながら、こちらを見ずに問われた、その質問。
「邪魔なら外に行きます。」
私だって好きで部屋の片隅にうずくまってる訳じゃない。
これからどうするか、毎日悩んでる
悩んだって答えなんて全く出ないまま、1日は過ぎ去る。
ゴホゴホッ
咳は治まってきたものの、相変わらず微熱が続く千夜を見兼ねて、土方は、山崎に診察する様に命じた。
土方の部屋には、入室さえ禁じ、千夜は、外に出る事は
厠に行く時ぐらい。
3日ぶりに見る千夜の姿は、少し痩せた様に見えた。
土方の部屋の中は、煙管の匂いが充満し、喘息の千夜には
劣悪な環境。山崎は、すぐさま、部屋の窓を開け放った。
もちろん、襖もだ。山崎を睨む土方。
その目は、逃すつもりじゃねぇだろうな。と、言ってるかの様。
あほか。逃すなら、あんたが、おらん時にするわ。
けど、こんな中にずっと閉じ込められるなんて、
俯いたまま顔すら上げてくれない千夜。覗き込もうとした時、不意に、千夜が顔を上げ襖の方を向いた。
「土方君!斎藤君が、佐伯という人を連れて、
浪士組に参加したいとっ!」
慌てて現れた、山南の姿。
土方は、千夜を見て舌打ちをした。
これで、千夜が言い当てたのは
後ろ盾になってくれる藩と、斎藤の加入。
その二つを言い当てた事になる。
これで、ハッキリする。
この世界に、私が存在していたか、どうかが…。
慌てて出て行った土方。千夜は、その背を見送った。




