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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
死を求めて…
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孤独


誰も居なくなった。

仲間も、家族も、何もかも戦争で、失った。


旧幕府軍が、何をした?

何もして居ないじゃ無いか。新たな新政府が出来て、ただ今迄あった幕府を守ろうとしただけ。


——何が、錦の御旗だ!?——何が、賊軍だ!?


官軍の何が偉いんだ!?わからない。


なによりも、何故、仲間が死ななければならなかった?


「……っ。どうして!」


もう、何の為に生きているのか、

どうして、自分だけ生きているのかさえ何も分からない。


ただ、彼らが死ぬ間際に残した言葉に、

彼女は、ただ意味さえわからず生きるしか無かった。



そのまま、彼女は、歳をとり、

—————————死を、迎える。




その筈だった。



時は進み、第二次世界大戦に負けた日本は、

西洋の物を取り入れ、近代化が、急速に進んでいった。


時は、平成という年号へと変わり、物静かだった、昔の風景とは、まるで違う。変わってしまった、この東京という都市。


夜にも関わらず、辺りは明るく照らされ、暗闇に不安など抱く事もない。色とりどりのネオンが、人を陽気にさせ、若者達の騒ぎ声が聞こえてくる。視線を向ければ、楽しそうに騒ぐ、若者達が見えた。

見えた所で、注意する訳でもない。はっきり言って、全てが


「ーー…ドウデモイイ。」


黒いスーツに身を包み、胸元に覗く清潔そうな白いワイシャツ。桜色の髪を一つに束ねた黒いシュシュを、うざったそうに、乱暴に解く。流れる髪を鬱陶しそうに女は首を左右に振った。視界に入る桜色に、ただ悲しみを覚える。


カツカツとヒールを鳴らし歩く。

毎日、毎日、同じ事の繰り返し。

ふと、視界に入った桜に、悲しそうな表情を浮かべた。


あの時、桜なんて目には入らなかった筈なのに

自分の記憶は、あの時の桜を情景として記憶に残した。


毎年、毎年、桜が咲く時期は、仕事が休みでも、外には出たくない。彼らと花見をした事を、どうしたって、思い出してしまう。


————楽しかったな。あの頃は………。


そんな思い出を思い返す事しか出来ない。

見知った建物を見て、そこに吸い込まれるように足を動かした。


青い屋根。白い建物。そこが、彼女の住んでいるアパート。

中に入り、玄関の扉が閉まると同時に、


「はぁ。」


玄関で、盛大にため息を吐き、ヒールを脱ぎ捨てた。

パタリと倒れたヒール。

ソレに、目を奪われる事もなく、部屋に上がった。


部屋の中は、必要最小限の家財道具しかない。と言っても、ほとんどが備え付けだ。女の一人暮らし。迎えてくれる人なんて居ない。


身を包んでいた黒いスーツを脱ぎ、ハンガーへと掛けていく。全てを掛け終え、下着姿となる彼女。その身体には、ほとんど目立たない様な刀傷や銃に撃たれた跡があった。


それは、彼女の生きてきた証。

下着姿のまま、気だるそうにベットへと倒れこんだ。


軋むベットに身を委ね、ぎゅっと、掛け布団を抱きしめる。1人になれば、いつも以上に考えてしまう。


脳裏に浮かぶのは、いつも浅葱色のだんだら羽織

あの背を追いかけても、もう彼らには、


————会えない。二度と、あの時には、帰れない。



「誰でもいい。ーー殺してよ。私を…。」


彼女の手首に刻まれた、無数の傷あと

それは、新しいものから、古いモノまで様々。


それを視界に入れながらも、

そんなモノすら、どうでもよかった。


彼女が望むのは、ただ、普通の死———。



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