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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
戻って来た幕末
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託す想い

「ちぃちゃん、肩大丈夫?

少し横になった方がいいよ。」


熱があるんだから。と、言われたら、


「…うん。」と言うしかなくて、

大人しく布団に横になった。

その後、皆が別室に呼び出され、千夜は1人天井を眺めていた。


「烝。居るんでしょ?」


そう言った千夜の声で驚いたのか、ガタンッと天井から音が聞こえた。


動揺しすぎでしょ?


「そのままでいい。聞いてほしいの。」


コンコンっとノックする様な音が聞こえて、千夜は、また、口を開いた。


「私は、間者じゃない。

貴方達を傷つける事はなにも、しない。

私は、ただ、貴方達を助けたい、だけなのに…っ…」


徐々に湿った声に変わっていく女の声に、山崎は、天井から部屋へと降り立った。

目を手で覆ったままの彼女。頬は、涙で濡れていた。


「泣いとるん?」


涙なんて見せなかった女が、部屋で一人になった途端涙を流す。腕は傷だらけで、赤く染まる晒しに

「どっか痛いん?」と、山崎は問う。


「…痛く、ない。」


碧い瞳が、山崎を映す。涙が溜まるその瞳は、とても綺麗で、目を逸らす事なく山崎は、見つめて居た。


「なんで?降りてきたの?バカ。」


「…バカ、て。

あんな強い女が、泣いとるなんて、信じられへんかったから。

ほら、泣き止みぃ?俺が泣かしたみたいやろ?」


涙を拭おうとする山崎だったが、まるで、子供の様に

嫌々と、首を振る女。はぁ。っと深いため息の後、温かい温もりに千夜の目は見開かれた。


「少し、落ち着きぃ。」


抱きしめた女は、ピタリと動きを止めた。


「えぇか?

お前の事を調べても、なんも出てこんかった。

意味、わかるな?」


コクリと頷いた女を確認し、山崎は、口を開く。


「俺に話してみぃ。

お前の望みを、全部叶えたれる訳やないけど

聞く事ぐらいできるから。」


ーーーーー

ーーーー

ーー



確かに、俺は、話し聞いたるとは言った。


けどな、


「荷物運びするなんて、言うてへんっ!」


八木邸の門近くから

黒い、キャリアバックを運ぶ山崎。不満だって出てくるだろう。抱きしめて、慰めた女に、荷物運びを頼まれたのだから…。

得体の知れないカバンを運ぶ山崎は、ブツブツと文句を言いながら沖田の部屋へと戻った。


「コレか?」


ぶっきら棒に、そう言い放つ山崎の顔は、不満げだ。


「ありがとう。ーーっ!」


キャリーバックに手を伸ばした女は、身体が痛んだのか、顔を顰めながらもバックを開けていった。

中身は、布で巻かれ何が入っているのかは、山崎には確認する事が出来なかった。

しかし、中から取り出した一冊の厚いノートを山崎に差し出した。


「薬の調合につかって。多分、役に立つから。」


オズオズとノートを受け取った山崎

パラパラとめくり、驚いた表情を見せた。


「お前……コレ……」


そのノートは、私が長年、薬の成分などを独学で調べ書き込んだノート 。この時代の医者なんかより、よっぽど役に立つ。本当は悲しかった。みんなが自分の事を覚えて居ない事が………。


でも、私が此処に飛ばされたなら、何か意味がある。

そう思ったから、私は、沖田総司の病の話をした。

彼しか、烝にしか頼めない。この時代の薬紙に包みなおした薬を彼に託す。山崎は、黙って千夜の話を聞き、薬を受け取った。


例え、この先、私が此処で間者として息絶えても、これで、総ちゃんは大丈夫。




夜、ゴホゴホッと咳き込む千夜の姿。

その背を摩ってやりたいが背中にさえ、拷問の傷が残り

摩る事は不可能。カバンから薬を取り出した千夜に

竹筒に入った水を渡す事しか出来なかった。


すぅ。っと寝てしまった千夜


「薬が効いたのかな…?」


何故、自分だけ彼女の記憶が戻ったのか、


「きっと、あの光のせい。」


ーーちぃちゃんを守って…


汗を拭くぐらいしか出来ない自分に、沖田は、ため息を吐いたのだった。



****



「歳、あの子の事だがな。」



そう、話しかけてきた近藤に、コトッと筆を置き、身体を近藤に向けた。


「此処においてはどうか?」と、近藤は言った。


「本気で言ってるのか?まさか、未来から来たなんて

信じてる訳じゃねぇだろうな?」


「いや…それがな……。」


と、近藤は言葉を濁し、後ろに居た、山南と井上へと助けを求める。


「会津藩に向かったところ、

後ろ盾になっても構わない。と返答が来たんだよ。」


「あの子の言う通りになった今、信じざるを得ない。」


「まぁ、今迄、どの藩に行っても、門前払いだった訳だからな。」


「剣術も出来る女子なら此処に置くのもいいかと、思うんだが…?」


と、土方の反応をみながら、どうだろうか?と尋ねる近藤

だが、土方の眉間の皺は、深みを増した。


「あいつが、何処だかの間者って可能性もある。

女だからって、すぐに信用すべきじゃねぇ。」


「歳……」


「しかし、会津藩が後ろ盾になると言い当てたら、此処に置く。そう言ったのは、土方君だ。」


確かに、そう言ったのは自分。


「ーーだったら、此処から逃げる様に、仕組めばいい。」


妖しく笑う美しい男


その目には、鬼が宿り始めていた————
























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