同室になるのは?
「んじゃ、総司の部屋で良いんじゃね?」
ーーなんで僕?
「あぁ。そうだな。総司なら大丈夫だろう。」
「ちょ、ちょっと!大丈夫って、何が大丈夫なのさっ!」
「………。総司は、女に興味ねぇんだろ?」
いつ、誰が、女に興味が無いと言ったのだろうか。
「んじゃ、決まりだな。」
あれよ、あれよと言う間に決まって、文句を言おうとした沖田だったが、
「総司、頼んだぞ。」
と、近藤が言えば「はい!」と、喜んで返事をしてしまった。取り残された、桜色の髪の女と沖田
「………。嘘でしょ?」
とりあえず、任されたからには、運ばなきゃ…。
そう思った時、スッと襖が開きヒョコッと顔を覗かせた藤堂
「総司1人じゃ大変だろ?部屋に布団敷いとくよ。」
「あー。ありがとう。平助。」
出来れば、この子も連れて行って欲しかった。
なんて、思う。
一足先に行ってしまった藤堂。
「よいしょ。」と、彼女を抱き上げれば
「……軽っ。」
思った以上に軽くて驚いた。少し呼吸が荒い彼女を抱き上げ、自室へと向かったのだった。
ーー布団敷いといてくれるって言ったけど
「一組だけ敷いてるって、どういう事?はぁ。」
なんかの嫌がらせ?と思う沖田。
とりあえず、彼女を寝かし桶を手に、水を汲みに井戸へと向かったのだった。真っ暗な中庭を、桶を持って歩く。
ジャッジャッと小石が音を立てる。
「本当。今日は、大きな月だなぁ。」
いつもより、大きく見える月を見上げながら、井戸へと足を進める。
ーー………。ちぃちゃんを…
「ーー…え?」
あたりを見渡す沖田。
「ーー…誰?」
声がした筈なのに、周りを見渡しても、人など見当たらない。気味が悪くなって、早く桶に水を入れて、部屋に帰ろうと、そう思った。
汲み上げた水を桶に入れて足早に部屋へと向かった。
パタンッと閉めた襖
「……はぁ。」
手拭いを固く絞り、彼女の額に置いて、
「僕も寝よう。」
変な声まで聞こえて、きっと疲れてるんだ。
今日は、色々あったから。と、布団に入り
隣の布団で眠る彼女をチラッと見て目を閉じた。
しばらくしても、寝付けず、
ただ目を閉じたまま眠りが来るのを待っていた。
スッと開いた襖の音に、チラッと横を覗きみれば、彼女の姿は、布団には無かった…
ーーちぃちゃん…。
そう聞こえた声に、布団から起き上がる。
その声は、部屋の外から聞こえた。
スッと襖を開ければ、冷たい空気が吹き抜けた。
夜空を見上れば大きな月。痛む身体を引きずるように、
一歩。また一歩と足を前に出す。逃げたい訳じゃない。
目の前にふわふわ浮かぶ拳ほどの光。
それに、目を奪われ、足がそれに、吸い寄せられる。
「………総…ちゃん?」
光に、手が触れそうになった時
「何してるの?」
そう、後ろから声が聞こえた。
振り返れば、後ろに居たのは、沖田総司。
手には、刀を握りしめその鋭い刃は、私へと、向けられていた。
「全部嘘だったんだね。未来から時渡りした。とか
僕達の仲間だった。とか。全部。」
拷問に耐えただけで、書物の件では、無実だったとしても
間者じゃない。とは言い切れない彼女。
僕達を信じこませれば、浪士組の事なんてすぐに調べられる。所詮、彼女は、その辺にいる女と、何一つ変わらない。髪と瞳の色が違うだけで…
「どうして、そう思うの?」
逃げようとした癖に……
「逃げようとした。」
僕がそう言ったら、彼女は、笑った。
刀を向けられているのにもかかわらず…
「逃げないよ。私は。」
「…………」
「京に来たばかりの総ちゃんは、いつも、近藤さんの為に
人を斬るんだって、ずっと言ってた。
人を斬った事無かったから、人を斬れば、強くなれると思ってたんだよ。」
「何言ってるの! ?」
「……人が斬りたいならーー私を斬りなよ。」
目を大きく見開く沖田
手を広げ刀の前に立つ彼女
刀を持つ手が震えた。刀の先がゆらゆら揺れる。
近藤さんの為に、人を斬るんだ。
そう思っていた自分。彼女の言う”総ちゃん”と、全く同じ…
目の前に手を広げ、自分を殺せと言う彼女…
会ったばかりの彼女が僕が近藤さんとの関係を
知っているはずない。
微かに揺れる刀の先。もし、彼女が、嘘を吐いてなかったら?そう思った時だった。
ーー思い出して…彼女を……
また、声が聞こえた。思い出す?
そう言われても、何を思い出せと言うの?
彼女の事なんて何も知らない。
ーー僕の記憶の欠片を、君にあげるから…
僕の代わりに、彼女を守って。
意味がわからない。何故、見知らぬ、正体すらわからない声の持ち主の頼み事なんて、聞かなければならないのか…
大体、彼女を守りたいなら、自分が守れば良いのではないか?
ーー出来ないんだよ。守りたくても
守る為の身体が、もう、僕にはないんだ。
彼女のすぐ後ろに、光が見えたと思ったら
僕そっくりの男が、立っていた…
浅葱色の羽織を着て、その身体は、透けていた。
身体がない?
ーーそう。僕は、
150年も前に死んだ。
「……幽霊?」
「???」
千夜が、沖田が見た方向を見るが、そこには何もいない。
ーー思い出して…彼女を……
そして、守って。アイツから…
アイツは、彼女をーー殺してしまう。
沖田の目の前に移動したそっくりの霊
「君の名は?」
気づけば、そう聞いていた。
ーー新選組一番組組長
沖田総司。
ブワッと舞う光。それと共に、霊の姿は見えなくなった。
「……総ちゃん?」
その声に、その呼び名に、頭の中を駆け巡る江戸での記憶……
「………ちぃ、ちゃん…」
ーー彼女を、ちぃちゃんを頼んだよ。
そう、聞こえた。




