無罪の女
いつもは、隊士達が食事の時に使用していた、広間の真ん中で布団に寝かされた桜色の髪の女の周りに、思い思いに腰を下ろした幹部たちは、女に視線を向け、小さく息を吐き出した。
「…身体に、傷が残らねぇといいんだがな。」
着物を着替えさせ手当てをした時に見た、女の身体の傷
背中や腹は、赤くなって擦り切れた肩や膝。
それは、すべて自分達がやった傷…。
「……そう、ですね。」
間違いであった事実に、戸惑いと後悔という言葉しかない。
無実の人間を拷問にかけた事実に
皆、押し潰されそうであった。
硬く絞った手拭いで顔の汚れを拭く藤堂
「でも、何で、自分はやってないって、
言わなかったんでしょうね。 彼女。」
もし、言ってくれてたら、
いや。
言っていても、自分達は、
彼女の言葉を信じはしなかっただろう。
「刀突きつけられたから、言えなかったかもな。」
と、永倉が口を開く。
「でも、綺麗な髪だな。」
と、原田が髪に触れる。
「左之さんは、寝てる女まで、口説こうとしてるんですか?」
「どう見たら、口説こうとしてる様に見えんだよ!」
「だって左之さん
女の人見たら、すぐ、口説くじゃないですか!」
「お前のがどうかしてんだよ!
何で、女が嫌いなんだよ!総司は、男色か?」
「/////んなっ!誰が、男色ですか!
女は、弱いから面倒なだけですよっ!」
原田と沖田の低レベルな言い争いをヨソに、
土方が腫れた女の頬に触れる。
薄っすらと開かれた碧い瞳
「……よ、ちゃ。」
誰かと間違えているのか?
動いた彼女の右手
それは、何かを掴もうとして居る様で
土方はその手に、そっと触れた。
白い腕に、縛った縄の跡がくっきりと残る腕
所々、擦り切れ、赤く変色してしまっていた。
ーーちぃ、必ず、
俺の元に来い。必ずだ。
あれから、何年、何十年も月日は流れた。
私が、土方歳三に追いつく事はなかった。
何故なら、彼はーー死んでしまったから。
その彼が、今、目の前に居る。
「…やっと、追いついた。」
目の前の彼が、そんな約束を知らないのなんて
知っていた。私を、覚えていない事も分かってる。
でも、湧き上がってきた感情を
押さえられず、目の前の彼に抱きついた。
突然、知らない女に抱きしめられた土方は、
どうしていいか、わからず女の腰に手を回す土方を
幹部たちがジト目で見つめる。
「……。最低ですね。土方さん。」
「俺が抱きついた訳じゃねぇ!」
「だからって、抱きしめるのはどうなんですか!」
ごもっともで、返す言葉もない。
ドクン、ドクンと聞こえる心音
彼は、此処にちゃんと生きている。
私を知らなくとも、覚えていなくとも
例え、此処に居る土方歳三が私を助けた彼でなくとも、
この心臓を、止めたくない。
彼だけじゃなく、此処にいる、全員を
ーー明治まで連れて行こう。
「……。あー。おい?」
遠慮がちに、声をかけられ
ようやく、土方から離れた彼女
「ごめんなさい。」
「い、いや/////」
ドンッ
「何、照れてるんですか!いう事があるでしょ?」
いやいや、俺だけじゃねぇよな。コイツを拷問したのは…




