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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
戻って来た幕末
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望んだ幕末?

文久三年二月下旬


地面に積もる白い雪は通りの隅にだけ残し、二月の終わりを迎え様としている京の都。


壬生の八木邸には、江戸から来た男達が寝泊りしていた。


彼らの目的は、

第十四代将軍徳川家茂が上洛の際の前衛として、京まで来たのだが、浪士組。と名付けられた組の長であった清川が

京に着いた途端、幕府を裏切り


「尊王攘夷の先鋒(せんぽう)だ。」


と力説しだした。


しかし、

当然の事ながら納得出来ない者たちも居て、鵜殿鳩翁(うどの きゅうおう)が、浪士組隊士の殿内・家里の両名に、

京に残留することを希望する者の取りまとめを依頼し、

攘夷に反対した根岸・芹沢・近藤・土方らが残留し清河と袂を分けた。


清川さんの事も落ち着き、後ろ盾となる藩を探していた浪士組。幕府から約束されていた金は、支払われず、


京に残っても、この先、どうなって行くのか全くわからない。と言うのが現状であった。





****





壬生寺の鳥居のすぐ近くでモゾッと動く物体があった。


空は、すでに真っ暗で綺麗な星が散りばめられ、大きな月が、見えていた。


地面の冷たさを背に感じ、自分は、倒れたんだ。と悟る。


視界に入ってくる、いつもより綺麗な夜空に、夢でも見てるのか?と、自分の頬をつねってみる。



「………痛い。」



頬に感じる痛み。地面に横たわったまま、手を動かせば

自分の頬をつねった手が、視界に入り、勢いよく、半身を起こした。


見覚えのある袖。でもそれは、倒れる前に着ていた物とは違っていた。


自分の身体を見れば、袴姿で、腰には刀

慌てた様に、周りを見渡す。だが、そこは寺で人なんか居ない。寺から出て、人が居そうな道へと駆けた。


「はぁ。はぁ。ーー!うそ。」


息を切らし、人気のある場所へ出たが、歩く人は、着物姿で丁髷。腰には刀………。


間違いない


「此処は、ーー幕末だ。」


そう、独り呟いた。



辺りを歩きながら、日付けの手がかりになる物を探す。



そして、通路を一本入ると、目の前に現れた建物に目を見開いた。


「ーー大和屋が、まだある。」


京都葭屋町一条下ル所にあった大和屋、


主人の庄兵衛は、生糸、反物、縮緬などを扱う商人だったが、交易の利益を独占しようと、生糸の買い占めを行っていた。そのために生糸の値は暴騰し、庶民の暮らしを苦しめていた。


この大和屋が、

尊王攘夷派の天誅組に多額の軍資金を提供したという情報が、壬生浪士局長・芹沢鴨の耳に入り、


文久3年(1863)8月12日

大和屋は、焼き討ちされた。



「まだ、現存しているという事は、それより、前に、来たって事でーーいいんだよね?」


まだ、自分自身信じられない。


自分が、


「タイムスリップしたなんて。」


だけど、目の前を行き交う人達は間違いなく、江戸時代の格好で洋装の人なんて居ない。


街灯も立たっていない。


そして、目の前に立っている、大和屋…。

ただ、それを見て、驚きを隠せないままだったが、耳に入って来た会話に、無意識に耳を向けていた。


「将軍様が京に入京しはった聞いたんやけど、

今やっと、京に着いたわ。」


「昨日、人が凄かったんえ?

将軍様は、見えへんかったけど。」


「見たかったなぁ。大名行列。」


そんな会話が耳に入ってくる。


昨日?


時期的には、冬ぐらいの陽気


そして、将軍の上洛は、大和屋が現存して居るのを見れば


文久三年三月四日


という事は、今日は、


「文久三年三月五日で、間違いない。


ーー浪士組は、京に居る。」



会いたかった彼らがすぐ近くに居る。


その喜び。

だが、すぐに現実へと引き戻される。


ーーもし、彼らが

私を、覚えて居なかったら…?


ーーもし、敵視されたら…?



そんな事を考え、その嫌な考えを振り払う様に首を振った。



「その時は、その時に考えよう。」


今考えても、何も解決し無い。


とりあえず、さっき居た壬生寺へと戻ったのだった。



















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