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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
死を求めて…
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一人残された幕末


王政復古を経て、

薩摩藩・長州藩・土佐藩らを中核とした新政府軍と、

旧幕府勢力および奥羽越列藩同盟が戦った日本の内戦が

戊辰戦争である。


戊辰戦争が始まったのは、慶応四年の一月の事。

幕府が偉いのが当たり前の時代、それなのに、

錦の御旗が掲げられれば、

あっという間に、旧幕府軍は、逆賊とされた。


国の為に、将軍の為に、刀を持った男達は、

新兵器の前に、次々と倒れて行った。


北へ。北へと、

まるで、邪魔者を片付けるかの様に追いやられ、


明治二年五月十八日


国内に他の交戦団体が消滅した事で、戦争は終結した。



その日は、清々しすぎるほどの晴天。


本土では、すでに初夏の陽気だったのに、

此処には、まだ春が残って居た。


そこは、——蝦夷。


桜も見頃を終えて、地に散った桜の花弁は、

人々に踏まれて、黒く醜く変わっていた。


周りは、すでに人影すら見当たらない。


旧幕府軍の武器が、散らばり、

屍が、あちらこちらに倒れて居た。

その場所は、一本木関門。


浅葱色の羽織を着た袴姿の少女は、一見、女顔で片付けられる程。顔には赤をつけ、羽織も赤く染まり上がって居た。

彼女の髪は、辛うじて桜の木に咲いている花と同じ、桜色。腰には、刀を刺し、息を切らし着いた場所は、

想像を絶する光景であった。


視線を彷徨わせ、一点を見つめ歩み寄る。


それは、自分の命の恩人が

片時も離す事の無かった、誠の文字が書かれた旗。


赤地の旗が、そこに、踏みつけられ落ちていた。

無残にも、焼け焦げ、汚れたソレに、


腰が砕けたかの様に崩れ落ちる人物。

その旗を、手に持つ事は、出来なかった。


いや。違う。

それを手にして仕舞えば、全てを受け入れなければならなくなる。だから、手にしたく無かったのだ。


しかし、現実は、甘く無かった。

彼女の目の前に広がる、赤。


そして、そこに落ちている、見覚えのある髪結い紐に、手を伸ばした。


これは、命の恩人に渡したモノ。


ーーはい。よっちゃん。お揃いだね。


そう言って渡した浅葱色の髪結い紐は、赤く染まり

コレが、現実だと突きつけている様にしか見えなかった。


「………。うそ…だよね?」


ゆらゆらと風で揺れる、揃いの髪結い紐。


赤く染まった地。落ちてた髪結い紐。


此処で、誰かが亡くなった。

赤の量からも、それは、理解はしている。



だが、

————それは、誰のもの?


頭は、最悪の想定しかしてくれない。


『いいか?ちぃ。

必ずだ、必ず俺に追いつけ。

お前の力が、必要なんだ。俺には……。』


彼は、そう言った。

だから、一人になっても此処まで来れた。

蝦夷で、彼が待っていると、信じて疑わなかったから………。


しかし、突きつけられた現実は、想像とは真逆。

地べたに座ったまま、彼女は、髪結い紐を大事そうに抱きしめる。


そこから匂う、煙管の匂いに胸が張り裂けそうにズキズキと痛んだ。


「ーー…っ。

一緒に、生きようって、言ったじゃんっ!」



そんな声が、誰に聞かれる事もなく

蝦夷の地に———消えていった。



最後の武士。そう呼ばれた、

己の命の恩人、土方歳三は、

彼女が到着した一週間も前に、一本木関門で命を落とした。彼に追いつく事すら出来ず、仲間の最後の言葉すら叶える事が出来なかった。


空に見えた、浅葱色————



「私を、置いていかないで…。

………1人にしないでよ………。」



私もあなた達の元へ


————逝かせてください。


彼女は、そう、願わずには居られなかった。












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