ナンカン
「夜にならないとリアナの件の情報は得られない。夜までに出来る事をしよう。取り敢えず、お互いの戦力を上げる為に狩りをしないか?」
リアナはカナトの言葉を受けると、待ってましたというように話し始めた。
「うん。狩場の情報は仕入れてあるよ。この第1階層で1番の難関って言われてる狩場だけどね」
「1番の難関、か」
「うん。ビッグピッグなんてめじゃないMOBがうじゃうじゃいるらしいんだけどね」
思えば、worldにログインしてまだビッグピッグとしか戦闘を行っていない。ビッグピッグよりも強いMOBに、今の力で対抗出来るのであろうか?
「そういえば、カナト君はどんなステ振りしてるの?あんな強い剣を装備してたんだから、STRに相当振ってるのかな?」
リアナが痛い所を突いてきた。出逢ったばかりだが、リアナが嘘をついたり、人を陥れる人間では無い事は分かっている。だが、まだ王の力を所持している事を伝えるべきでは無いと判断した。
「...ステ振りに関しては、今は秘密でもいいかな?」
カナトの言葉を受け、リアナは一瞬寂しそうな雰囲気を醸し出したが、すぐに明るく返答をする。
「分かった。気が向いたら教えてよ!私もカナト君みたいに強くなりたいから」
「ごめんね」
「気にしないで!ステ振りっていう重要な部分を出逢ってすぐに聞いたのが悪かったの。あ、でも狩りをしながらカナト君の強さの秘密は探るから、そのつもりでね♪」
リアナが嫌な気分になっていないようなので、とりあえずは安堵した。時間を共にする事で、いつかはリアナに対し、王の力について話しても大丈夫と思える時が来るかもしれない。
「了解。じゃあとりあえずその“1番の難関”に行ってみようか」
「うん。どこでも宿屋から転送出来るみたいだから、向かおう!」
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《憂鬱の洞窟》
王都アリストラに程近い山岳部の膝下にポカリと空いたその穴は、幅も高さも2m程しか無く、一見すると雨宿り等にしか使い道は無さそうである。が、中に進むと大小様々な小部屋がいくつも連なっており、その部屋一つひとつにMOBが湧き出る為、新人が越えるべき最初の難関と言われている。部屋と部屋は通路で繋がっており、洞窟の深部へ進むにはMOBを無視する事は出来ない。その為、この洞窟でデスペナルティを受ける新人が後を絶たず、新人はまずこの洞窟を越える為に装備を整えたり、PTメンバーを募ったりする。
「...っていうのが、私が手に入れた憂鬱の洞窟の情報だよ」
「確かに、大きい入り口では無いね」
カナトとリアナは憂鬱の洞窟の入り口前に立っていた。時折、洞窟から冷たい風が吹き、不安を煽るような音が聞こえた。
「なぁ...こんな装備で大丈夫かな?」
カナトは自身の新人用の布服を指先でつまみ、リアナに示した。
「まぁ...うん...攻撃を全て避ければいいだけだよ!それにカナト君にはあの“黒い剣”があるんだから。殺られる前に殺るだよ!」
「...ここまで来たらやるしかないか」
「うん!ここでlevelをたくさん上げよう!」
リアナは身に纏った白を基調とした布製の防具を揺らしながら、右手を高く突き上げた。カナトは気になっていた事をリアナに聞く事にした。
「リアナ。ちょっと聞いておきたい事があるんだけど」
「ん?何?」
「リアナは全身新人用装備じゃないよね?纏ったお金で装備を整えたって言ってたけど、幾ら位でその装備を揃えたの?」
「んと、1000万位かな?」
「1000円?そんな安く買える装備なんてあるのか」
「ううん。1000万円だよ」
カナトの問いに対して、リアナは涼しい顔で答えた。同じ15歳のリアナの口から出た想像も出来ない額に、カナトの思考は一瞬停止した。が、すぐに驚きの声を上げる。
「1000万!?なんで、大金!そんなお金!?石油王?」
「確かに大きいお金だけど、ちゃんと自分で稼いだ真っ当なお金だよ!」
「稼いだ!?その年齢で!?」
「もー!この話はおしまい!あ、だからカナト君の足は引っ張らないから安心して背中は預けてね」
リアナに一方的に会話を切り上げられたので、カナトもそれ以上は何も言わなかった。カナトが王の力の事をまだ話さないように、リアナにも話したくない、話せない事はあるのだろう。只、それだけ現実マネーを使って装備を整えたという事は、リアナもカナトと同じく、ほかの新人の戦闘力とは一線を画しているという事は分かった。
「分かった。リアナがそれだけのお金を注ぎ込んでも、この目的を達成したいっていう決意を知れたから良かった。取り敢えずはこの洞窟攻略、頑張ろう」
「...うん、ありがとう。デスペナルティには気をつけて、慎重に進もう」
カナトは月喰いを、リアナは銀色に輝く片手剣を手にし、憂鬱の洞窟へとゆっくりと歩を進めた。




