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ジョウホウ

 この広いworldの中から、たった一つの店を探すという事は、終わりの無い迷宮を壁伝いにひたすら歩くようなものだった。一瞬目の前が真っ暗になりそうなカナトとは対照的に、金棒を手に入れた鬼の如く、やる気と希望に満ち溢れていたリアナだった。勢いよく椅子から立ち上がると、カナトにアツく語り始めた。



「さぁカナト君!まずは情報収集に行こう!」


「お、おい。落ち着けって」


「何を呑気な事を言ってるの!時間は待ってはくれないんだよ!?」


「分かったから、そんなに興奮するなよ」


「だって!カナト君が力になってくれるって言ってくれて嬉しかったから...」


「大丈夫。おれは逃げたりしないし、必ず最後まで付き合うよ」


「...そうだね。ごめん。ちょっと浮足だってた!」



 カナトが力になってくれる事が本当に嬉しいのだろう。胸の高鳴りが、体から溢れ出ていた。カナトの言葉で冷静さを取り戻し、椅子に座り直した。渇いた喉を潤すリアナに対し、カナトは状況を整理しつつ話し始めた。



「情報収集っていっても、そこらにいるPCプレイヤーに片っ端から聞き込みをするのは得策では無いと思う」


「え?なんで?どんどん聞いていかないと、情報は入って来ないんじゃない?」


「確かにそうなんだけど、おれが思うに、他人のアバターを無断で使うってのは、限り無く黒に近いグレーな行為だよ。ましてや、そのアバターが使用されているっていうのが」


「夜のお店...」


「...うん。まっとうな店じゃないって事も十分に考えられる」



 “まっとうじゃない店”という言葉に、リアナは言葉に詰まった。現実リアルでは、こうした店を経営しているのは、まっとうじゃない人種だからである。沈黙するリアナに対し、カナトは静かに言葉を続ける。



「まっとうな店じゃないって言っても、ここはworldの中だよ。大人も新人ルーキーも関係無い。もし調べていく最中に何かあったとしても、力を得ていればそれなりの対抗策を錬れるよ。それに、まっとうな店じゃないって決まった訳じゃ無いしね。あくまで仮説としてだよ」


「...そっか。うん。カナト君の言う通りだよ。私も、そうした色々な危険性を考えて、強い人に仲間になって欲しかったんだもん。今さら怖気付いてちゃダメだよね」


「ダメなんかじゃ無いよ。おれだって正直怖くないって言ったら嘘になるよ。でも、怖いから投げ出したいとは思わない。リアナと一緒に、強くなろうって思ってるよ」


「......カナト君の言葉って真っ直ぐだね」


「ん?ごめん聞こえなかった」


「...ううん!何でもない!」


「?」



 小さく呟いた言葉はカナトには聞こえなかったが、リアナの口元は嬉しい気持ちを抑えるのに必死であった。先程までの悲壮な沈黙とは対照的に、喜びを押し殺すような沈黙をするリアナに対し、カナトは自分なりに考えた今後の方向性を話し始めた。



「それで聞き込みはしないんだけど、情報を得たいとは思ってる」


「え?聞き込みをしなきゃ何処から情報を得るの?」

 



 “ママは情報通だからね”




「大丈夫。情報通のフレンドが1人いるんだ」


 -------------------------------------------------------


 カナトは昨夜フレンドになった酒場『ブスだらけ』のママさん“宗吉郎”にメッセージを送った。が、返信は無かった。今日はまだログインしていないようだった。


「ごめんリアナ。さっき言ったフレンド、まだログインしていないみたいなんだ。多分、夜になったらログインして来るんだと思う」


「分かった。でも凄いねカナト君!そんな情報通の友達がいるなんて!現実リアルの友達?」


「ゲーム内フレンドだよ。昨日フレンドになったばっかりだけど、とっても良い人だよ」


「ログイン初日にゲーム内フレンドが出来るなんて、やっぱり凄いよ」


「いや、アリストラで色々あって、たまたまフレンドになってくれただけだよ。そういうリアナは現実リアルの友達はやってないの?」


「あー...うん。私は1人でworldやってるんだ。友達に、私の目的に付き合って貰うのも悪いしね!力になってくれる友達、カナト君はいる?」



 リアナが、自分と同じ理由でソロプレイをしている事に驚いた。ソロプレイをしている者同士、引きつけられたかのような出逢いだった。リアナの言葉に、長年時間を共有した親友の顔が浮かぶ。きっとレイなら力になってくれるだろうが、今はレイはいない。この空の下の何処かで、自分の夢の為に必死に剣を奮っているだろう。



「おれも、ソロプレイしてるんだ。現実リアルでは毎日一緒に過ごしていた親友がいたんだけど、お互いの目標の為にそれぞれで頑張るって決めたんだ。だからworldではまだ会ってないんだよ」


「...カナト君にとって、本当に大切な友達なんだね。それに友達にとっても、カナト君が本当に大切なんだなって思う」


「幼稚園から一緒だからね。時間を共にした仲間って感じだよ」


「幼馴染なんだ!いいなーそういうの憧れる」


「リアナだって、今日から仲間だよ」



 カナトが無意識に選ぶ直球すぎる言葉に、リアナの頬が赤くなる。



「...君って本当に人たらしだね」


「ん?どういう意味?」


「...別にッ!!」


「それ懐かしい。リアナ様って呼ぼうか?」


「...ッばか!」



 リアナの慌てふためく様子が面白く、カナトは笑顔を見せた。初めは知らない者同士だったが、今は昔からの友人かのようにリラックスして会話が出来ていた。

 カナトもリアナも、同じ新人ルーキーの仲間が出来た事に喜びを感じていた。


 不正に使用されているリアナのアバターを探すという目的は、ママさんがログインしてくるであろう夜までは進捗しない。夜までに出来る事をしようと考えた。



「夜にならないとリアナの件の情報は得られない。夜までに出来る事をしよう。取り敢えず、お互いの戦力を上げる為に狩りをしないか?」



 リアナはカナトの言葉を受けると、待ってましたというように話し始めた。



「うん。狩場の情報は仕入れてあるよ。この第1階層で1番の難関って言われてる狩場だけどね」


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