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スタート

「リアナの目的って...何?」



 自身の椅子に静かに座り直しカナトを見つめ、リアナが目的を話した。



「私の顔を、取り戻したいの」


「顔って...」



 カナトはリアナの鼻から上を隠す仮面を見つめた。カナトの心を読んだのか、リアナが慌てる。



「あ、仮面の下にはちゃんと顔はあるからね!?」


「仮面を取ると、そこにはただぽっかりと闇が広がっていた。って事では無いのか」


「当たり前でしょ!」


「...そうやって顔を隠しているのも、リアナの目的と関係があるって事?」


「まぁ...ね」



 リアナの煮え切らない返事が気になった。顔を隠す理由に関しては、今はまだ触れられたく無いという雰囲気を醸し出していた。リアナの気持ちを察し、“顔を取り戻す”話題に戻る。



「顔を取り戻すっていうのは、具体的には何をするの?」


「えっと...私の容姿そっくりのNPCがある場所にいるって噂をネットの掲示板で見つけたの。しばらく掲示板の流れを追ってたんだけど、その噂は真実だった。私そっくりのNPCが写った画像が何枚も貼られたの」


「リアナそっくりのNPC...」


「うん。そっくりというよりも...あれは私だった」



 PCプレイヤーと全く同じ顔をしたNPCが存在するなんて事は起こり得るのだろうか?あり得ないとは思いつつも、可能性を一つずつ潰す事にした。



「リアナは双子だった...とかは無いよね?」


「うん。一人っ子だよ!」


「見間違いとか、作られた画像とかではない?」


「毎日見ている自分の顔を見間違えないよ。勿論、作り物なんかじゃなかったよ」


「じゃあ...なんでそんな事が起こるんだろう」



 カナトは口元に手を当てながら考えを巡らす。カナトの姿を見つめリアナは小さく息を吐き、決心したように話し始めた。




「でね、そのNPCがいた“ある場所”っていうのは...その...男の人が夜に行くようなお店なの」


「...え?夜の店って...」


「...18歳以上の男の人しかいけないようなお店...」



 リアナは、最後の方は絞り出すように声を出した。恥ずかしさの余り、手まで赤くなっている。カナトは色々な事に対して衝撃を受けていた。worldの中にも、そういった場所が存在する事、リアナそっくりのNPCがそこにいる事、リアナ自身が、その様子を写した画像を見たという事。


 15歳の少女にとって、それはどれ程の苦痛だったかは想像出来る。そして、そんな状況を自分自身でどうにかしようとしているリアナの強い部分に、尊敬の念を抱いた。



「リアナは強いね」


「強くないよ。ただ一刻も早く、私の顔をしたNPCを見つけ出して、運営に削除して貰いたい。その為に全力なだけだよ」


「というか、最初から運営側に頼んで探して貰えばいいんじゃないか?」


「うん。頼んでみたけど、ダメだったの。1PCプレイヤーの頼み事をいちいち聞いてはくれないみたい」



 確かに、worldでプレイする上では色々な問題も起きるであろうし、誰かに助けて欲しい場面に幾度となく

 遭遇するであろう。PCプレイヤーの頼みを聞いていたら運営が滞ってしまうのは理解出来る。



「自分達が動かないと、問題は解決しないって事か」


「うん。だから...よろしくね!カナト君!」



 リアナの口元に笑みが戻った。“カナト”という希望を目の前にし、先の見えない不安が少しは消えていた。リアナの表情が柔らかくなった為、カナトも少しだけ安堵した。


 先程、思考途中であった事に対して、リアナに問いかけた。



「そもそも、なんでリアナと同じ顔のNPCがいるんだ?」


「...多分、SNSにあげた写真を見られたのかも」



 仮面を着けていても分かる程、リアナの顔立ちは整っている。心無い誰かが写真を元に、何らかの方法でNPCを創り上げたのかもしれない。



「なるほど。じゃあ取り敢えず、その店の情報をくれる?」


「...無いよ」


「え?」


「1からのスタートだけど、私とカナト君が力を合わせれば大丈夫だよ!」


「1から...」



 この広いworldの中から、たった一つの店を探すという事は、終わりの無い迷宮を壁伝いにひたすら歩くようなものだった。一瞬目の前が真っ暗になりそうなカナトとは対照的に、金棒を手に入れた鬼の如く、やる気と希望に満ち溢れていたリアナだった。

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