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ハジマリ

教室の中で、生徒達が思い思いに過ごしている。はしゃいで数名で自撮りをする女子、ふざけあって卒業証書の入った筒で叩き合う男子、最後の最後に携帯電話を持ち寄り連絡先を交換するグループ、希望か憂いか、涙を流し肩を抱き合う女子。


日々の日常では無い、イリーガルな光景が広がっていた。



「そろそろ席につこうかー」



生徒達の様子を教壇から優しい表情で見つめていた男性教師が口を開いた。生徒達は各々の感情に整理をつけつつ、自分の席に戻った。席についた生徒の顔を噛み締めるようにゆっくりと見回し、男性教師が口を開いた。



「まずは、、、皆卒業おめでとう。良い卒業式だった!先生も目頭がこう...熱くなった!このクラスは、先生が初めてもった3年生だからかな...思い入れが違うんだ!先生からしたら皆は生徒であると同時に、弟や妹のようでもあるんだ!だから、なんていうか...うっうっ...」



話しながら感極まったのか、男性教師の瞳から大粒の涙が溢れてきた。何というか



「熱い先生だよなーたきちゃんって。な、カナト。」



窓側最後尾の席に座っていた男子生徒が、1つ前の席に座っている男子生徒に小声で話しかけた。カナトと呼ばれた生徒は熱い涙を流している教師に気付かれぬよう少しだけ顔を後ろに向け、小声で返事をした。



「レイのおしゃべりはいつもの事だけど、卒業式の日くらいちゃんとたきちゃんの話聞かないと」


「それもそうだな。悪い。」


「とりあえず、後で河原行こう。話はそん時に。」


「おっけ。了解。」



教師には気付かれない程の小声で、やり取りをし、カナトとレイは再び教壇に視線を戻すと、丁度男性教師が女子生徒に渡されたティッシュで盛大に鼻をかんでいる所だった。


ブゥーッッッ!!ブゥ、ブゥ、ブゥーーーンッッッ!


鼻を咬む音が静かな教室に響き渡る。


笑ってはいけない状況の中、管楽器のソロパートのようにノリに乗った鼻かみのメロディに、生徒達も笑いを堪えるのに必死であった。



「やっぱりたきちゃんって抜けてる先生だよなー。」


「抜けてるのはこの一年で分かりきってた事だけどな。」



先程、ちゃんと話を聞こうと約束したカナトだったが、これには同意せざる終えないという表情で後ろを振り返り顔を見合わせた。


緊張感を失った教室で、生徒達がヒソヒソと小声で話し始めたが、鼻をかんで心を落ち着かせた男性教師の放った一言が、教室に心地良い緊張感を取り戻した。



「取り乱した!すまない。それでは、皆が眠れない位待ちに待ったこの一言を言わせて貰う!今から、仮想現実『world』についての説明を行う!」


「...待ってました...!」



レイが噛み締めるように放った一言を背中で感じ、カナトも興奮していた。


仮想現実『word』。中学校を卒業するまでは見る事の出来ない世界。新しい世界への扉に、今少しだけ手がかかった。

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