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ケン

 “椅子に足が着く”


 そう思った瞬間には、カナトの足は広場の石造りの地面を捉えていた。周囲の喧騒も耳に入ってくる。


 どこでも宿屋による転送は2回目だが、1回目の転送に比べると、少しは慣れる事が出来た。転送先に尻餅をつかなくて良くなった事も大きな成長であった。


 広場は相変わらずたくさんの人でひしめいていた。



 髑垂こうべだれのスキルによる装備に必要なSTR・VITの軽減率を知る。



 という明確な目標を持って広場へ来たので、広場近くの露店を見て回る事にした。装飾品を扱う露店、MOBモンスターのドロップ素材を扱う露店、装備品を扱う露店、色々な種類の物を扱う露店、それぞれが道行くPCプレイヤーの足を止めるのに工夫を凝らした配置をしていた。



(とりあえず効率的な狩りをする為には、防具より武器かな)



 カナトは武器を扱う露店を見て回る。剣に斧、槍や大剣...どの武器も男心をくすぐる形状をしており、自然にカナトの足を進めた。


 武器を扱う露店は数多くあるが、ある一つの露店の顔となる中央に飾られた剣が、カナトの足を止め目を奪った。


 それは剣であった。しかし、その様はそれまでの露店で見た剣とは似て非なる物であった。



 “黒い剣”




 どのような素材が使われているのであろう。剣身から握りに至るまで、灯りの無い夜を思わせる黒さであった。


 黒い剣をまじまじと見つめるカナトに訝しげな視線を送る人物がいた。黒い剣の売り手、露店の店主である。


 線の細い体付きで上物そうな皮の防具を身に付けた中年。おでこから頭頂部にかけての枯山に、ニンニクのような鼻をしていた。まるで品定めをするような目で、カナトの事を観察している。


 10秒程観察を続けていたが、急に横柄な態度をしてカナトに話掛け始めた。



新人ルーキーのにいちゃん、その剣が気に入ったみたいだけど無駄だぜ。他の客の邪魔になるからどっか行ってくれねーか?」



 新人ルーキーは客に非ずという心が、態度から滲み出ていた。



「なんで無駄なの?」


現実リアルでのお小遣いいくらを握りしめてきたのかは知らねーがな、そいつぁー新人ルーキーに扱える代物じゃねーんだよ」


「それは値段が?」


「...値段も必要STRもだよ。もーいーだろ。どっか新人ルーキー用の装備を扱ってる慈善団体のような他の露店へ行けよ。この店はzゼンもステータスも在る高レベルのお客さん向けなんだよ」



 店主はカナトの事を露店にたかる小蝿を見た時のような、迷惑そうな顔で睨みつけ、片手で仰ぐようにして「しっ、しっ!」と追い払う仕草をした。


 これには流石のカナトも頭にくるが、冷静に対応する事にした。



「試しに、扱えるかどうかだけでも確かめさせてくれない?」


「あのなー。無理。新人ルーキーにはまず、というか絶対に無理。普通に扱うどころか、持ち上げる事すら無理。」


「斧や大剣ならまだしも、剣でしょ?STRに振ってるから、どの位の重さか、この剣を装備する事を目標にする為に試すだけ試させてくれないかな?」



 店主は大きく、大きくため息を吐いた。この世間知らずで頑固な新人ルーキーを納得させる為、面倒ながらも説明を始めた。



「この剣はな、最到達階層にほど近い37階層にあるメキリオ山の山頂にいる、そりゃすっげーーー強い黒龍の体内で少しずつ少しずつ結晶化された“黒皇鉱”って鉱物を、そりゃー凄い腕を持った職人が魂削ってうちあげた名剣なんだよ。な、これだけでもとてもじゃないが新人ルーキーが持てる筈の無い武器だって事は分かるだろ?」



 カナトの目に狂いは無かった。まごう事無き名剣であった。


 それであれば、髑垂こうべだれの軽減率を測るのに、これ以上の武器は無いかもしれない。迷惑そうな店主に、カナトも食らい付く。



「持ってるzゼンは全て渡す。持つだけでいいんだ」


「ったくしつこい野郎だなー!無駄!無駄なんだよこのクソ新人ルーキーが!お前みたいなひよっこには1センチだって持ち上げる事は無理なんだよ!」



 クソ新人ルーキー。そこまで言われて冷静でいられる程、カナトの心は成熟していなかった。



「...持たせてくれるだけで報酬も払う。試させてもくれないのか?」


「うるさい!しつこい!お前がこうしておれの貴重な時間を吸い取ってる事ですでに損失なんだから、さっさとおれの視界から失せな!」


「...」


 通行人が店主の罵声を聞き、何事か?というように足を止めていた。気付けばカナトと店主を中心として、通行人が円となって2人のやり取りを見ていた。ある者は心配そうに、ある者は身の程知らずの新人ルーキーを小馬鹿にし、ある者は野次馬根性で嬉しそうにこのトラブルを見つめていた。


 そんな周りの状況も目に入らない程、カナトは冷静でなくなっていた。失礼な態度の店主へ、怒りの感情が沸々と沸き立ってくる。


 店主はカナトの神経を逆撫でするように、またしても手を仰ぎながら「しっ、しっ!」とわざとらしく大きい声で追い払おうとした。



「...」



 無言のまま、カナトが店主に近寄ろうとした。その時、2人のやり取りを見つめていた円から1人が抜け出し、カナトと店主の間に割って入った。


 カナトよりも3-4歳は上であろうか。すらっとした長身に、自然な長さで整えられた金色の髪。見るからに上級者であろう緑を基調とした、動きやすそうな革と布製の軽装装備。指輪やネックレスを始めとした金色をした装飾品を、嫌味な感じは出さず、むしろお洒落に全身に散りばめていた。端正な横顔をした青年だった。


 青年はトラブルに身を投じても動じる事なく、カナトと店主に交互に笑いかけながら、話し始めた。



「お二人さん、大分アツクなってるねー。こういう時は、“契約”すればいいんじゃない?」

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