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カリバ

 まるで魔法だ。素直なカナトの気持ちであった。


 どこでも宿屋の203号室に、ほんの1秒前までいた。それが今は、広大な草原で青々とした草の感触を臀部が味わっている。



(これが転送か...)



 慣れるにはもう何回か必要であった。目の前の景色が一瞬で変わる。こんな体験を一回で慣れる程、カナトの精神は図太くは無かった。


 臀部を手で払いながらカナトは立ち上がった。視界に入る状況を整理していく。


 視界左手には、都内の一等地にあるようなビルの高さ程の城壁が、遥か向こうの方まで続いていた。恐らく、あの城壁はアリストラの街全体を囲っているのだろう。


 その城壁の近くに広がるこの草原は、新人ルーキーが初めての狩りをするのに最適な場所である事は容易に理解出来た。そのカナトの思考を裏付けるように、カナトの視界にはカナトと同じ新人ルーキー用装備に身を包んだ新人ルーキー達がいた。広大な草原に、たくさんの新人ルーキーの姿が見られた。ただ、先程までの城内の広場と違い、歩くのが困難な程の混雑さは無かった。新人ルーキー同士、一定の距離を開け、各々がMOBモンスター狩りに集中していた。


 女子同士数名でキャーキャー言いながら木剣を振り回し、1匹のブタのような生き物を攻撃したり、男子のグループが上手く連携を取りながら、ブタのような生き物を次々に狩っていたり、カップルなのか、男子と女子のペアがブタのような生き物を木剣で叩いていた。



 どこもかしこもブタ・ブタ・ブタだらけ。



 恐らく、あのブタのような生き物こそが、新人ルーキーが1番始めに対峙するべきMOBモンスターなのだろう。その証拠に、新人ルーキー達が狂ったようにブタを倒しているが、どこからともなく新しいブタが沸いて出る。



(とりあえず、あのブタを狩ってみるか)



 ブタが湧いている場所へ移動する事にした。移動しながら、他の新人ルーキーの様子を見る。女子同士、狩りの休憩をしながら露店で買ったであろう可愛らしい髪飾りや指輪を見せ合う集団がいた。通り際にその集団の会話が耳に入った。



「りさちんの指輪可愛い〜♪」


「ありがとー♪ちょんちゃんのピアスもイイ色してるねー♪」


「ねぇねぇ!どこでも宿屋の近くにアクセサリー専門の露店が出店してるんだって!後で行ってみない?」


「えー!早く行かないと可愛いの買われちゃうかも!このブタ倒すのも飽きてきちゃったから、アリストラに戻ってその露店見に行こうよー!」


「うん、その方がいいね!そうしよう!」


「あーzゼンがもう無いやー!あのお金を替えるとこに寄ってもいい!?」


「そうだね!私も無いから、行きたいって思ってた!貯めてたお小遣い、zゼンにしちゃおうかな♪」


「いーねー♪worldの中、可愛い物がたっくさんあるからどれも欲しくなっちゃうもんね!」


「それそれ!服も可愛いの欲しいよねー♪」


「あ、じゃあさ!アクセサリー見たあと、皆んなで服屋さんでも探してみない?♪」


「さんせーい♪」



 現実リアルでもworldでも、女子は可愛い物が好きである。

 これはこの集団だけでなく、他の女子新人ルーキーも同じようだった。ブタを狩る女子は、皆体の何処かに可愛らしいアクセサリーを身に付けていた。


 ブレスレットのような物であったり、カチューシャのような物であったり、指輪であったり、ネックレスであったり。

 先程の会話にもあったように、おそらく今日のログイン日の為に現実リアルでお金を貯め、それぞれが可愛いと思って一目惚れした装飾品を身に付けているようであった。


 装飾品は名前通り装飾の為の物である。ステータスには一部のレアな装備を除いて、基本的には影響しない。しかし、そんな事はこの年代の女子には関係の無い事であった。何故なら、“可愛いは正義”だからである。


 では、逆に男子新人ルーキーはどうなのか?


 歩きながら3名でブタを狩る男子のグループに目をやる。すると、その中の1人が木剣ではなく、鈍い光を放つ鉄製の剣を操っていた。


「たくちゃんの剣やっぱスゲーな!めっちゃダメージ入ってるじゃん!」


「だろー?小遣いはたいた甲斐があったぜ!」


「たくちゃんが剣装備する為にSTR上げてから、すっげー効率良くなったよ!」


「だろー!?取り敢えずおれはSTR上げてくぜ!こんなブタじゃなくて、もっと強そうなMOBモンスターも一発で叩ききれるようにな!」


「やっぱたくちゃんはすげーなー!おれも金貯めてつよい装備買うわ!」


「ヤバイなおれら!めっちゃ強くなる計画性がある!このまま狩りしてたらLevelが上がっていって、world内で【最強剣士三人衆】みたいな感じで有名になっちゃうんじゃねー!?」


「うわ、それヤバイな!かっこよすぎだろ!」



 新しい剣を装備し、強さを手に入れた事で男子のグループは興奮していた。そう、男は見た目では無く、強さを求める傾向があった。


 もちろんカナトもそのつもりであった。強く、誰かを守れるように。



 その思いがカナトにある事を思い出させた。カナトが幸運にも手に入れた力。王の力(オリジナルスキル)


 メニュー画面を表示し、スキルツリーを開く。


 剣術・大剣術・大槌術・斧術....


 戦闘に関するスキルも多くあり、それと同じだけ生活や趣味嗜好に関するスキルもあった。カナトがやりたいと思っていた釣りに関するスキルの存在も確認出来た。


 スキル欄をスクロールしていく。すると、他のスキルとは明らかに毛色が違うスキルツリーがあった。スキル欄が濃い紫色をし、スキルツリーの1番始めの部分以外、黒く塗りつぶされていた。



 “髑垂こうべだれ



 カナトの王の力(オリジナルスキル)。タップし、スキル内容を確認する。



【装備する上で必要となるSTR・VITの値を軽減する】



 スキル内容を確認し、カナトは息を飲んだ。MMO経験者であるカナトには、このスキルが如何に強大で兇悪な力かが容易に理解出来たからだ。


 ステータスポイントには限りがある。その限りあるステータスポイントの振り方により、キャラクターの個性を出す。一撃の重い武器を操りたいのであればSTRを、鉄壁の守りを得たいのであればVITを、精密な剣戟を繰り出したいのであればDEXを、俊敏な動きで翻弄したいのであればAGIを、他人から羨まれる程の幸運を得たいのであればLUKを、自分が探し出したバランスのもと、振っていく物である。


 この王の力(オリジナルスキル)。STRにステータスポイントを振らなくても強力な武器を装備出来、VITに振らなくても鉄壁の防具を身につける事が出来る。


 “王の力”と言われるだけの力であった。



 喉を通った胸の辺りが熱くなるのを感じた。興奮しているカナトの脳裏に、ナナの言葉が響いた。



『王のオリジナルスキルにばっか頼るような人にはならないでね!ちゃんと腕を磨くんだぞー♪』



「...分かってるよ」


 大いなる力には良い事だけでなく、良くない事もある。カナトは理解していた。この力は人に見せびらかす物ではなく、必要な時がくるまで1人で磨き上げる物であると。


 メニュー画面を閉じ、正面を向く。そこにはあのブタのような生き物がブヒッブヒッと鼻を鳴らしてトコトコと歩いていた。


 カナトは木剣を抜き、ゆっくりとブタのような生き物に近づいていった。

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