シンタク
「今度は何が始まるんだよ」
「だーかーらー!新人さんの新人さんによる新人さんの為の運試しゲームだってば♪」
「それが一体何なのか聞いてるんだよ!」
「こらこらー♪worldでは冷静さが大事だよ♪」
ナナはいたずらっ子のような笑顔を見せた。カナトの反応を楽しんでいる。
ナナがメニュー画面を操作した。すると、カナトの目の前にスロットマシーンのような物が現れた。ただそれはスロットマシーンと呼ぶにはあまりにも大きかった。見るというより見上げると言った方が良いほどだ。一軒家程の大きさはあった。
普通のスロットマシーンと違うのは大きさだけでは無かった。煉瓦を積み上げたような外観をし、壁面にはマンホールの蓋のような鉄製の物が付いている。リール部分は木製で、それぞれ1・3・7...等の数字が描いてある。リールの数が9個もあった。
あまりの存在感にカナトは驚愕した。
「で...でかい。なんだこれは」
「ふっふっふー♪新人さん達の門出を祝う、運命の大箱です!これを使って運試しをするの♪」
「運命の大箱...?」
「そう!ボタンをタンッタンッタンッってな感じで押して、リールが上手いこといい感じに揃ったらいい事があるの!」
ナナは興奮した様子でジェスチャーを交えながら説明したが、抽象的で分かり辛い。
が、ゲームセンターでスロットマシーンを遊んだ事はある為、ナナの言わんとする事は理解出来た。
「ボタンを押して、数字が揃ったらいい事がある。って事?」
「やっぱカナトは良いね〜飲み込みが早くて♪全部揃わなくてもいいんだよー。揃った数によって、景品があるの♪」
「景品って?アイテム?」
「説明するね!まず、揃わなかった場合は...回復薬詰め合わせ!古今東西色々な味の回復薬が入ってるから、是非ご賞味あれ〜♪まぁ二桁揃う確率は10分の1だから、大体の人はこの回復薬詰め合わせを手に入れる事になるんだけどねー♪」
「回復薬詰め合わせか。確かに、狩りの時には必需品になるね」
初めのうちは手に入るzは装備を整える為に使いたい。消耗品である回復薬が手に入る事は、新人のカナトには嬉しい事だった。
「チッチッチ、甘いよカナト君♪夢を抱け!若者よ!」
「なんだよ急に。キャラがぶれぶれだよ」
「じゃあもし二桁以上揃ったら...」
「無視かよ!」
「二桁以上揃ったら、揃った数に応じて...なんと!初期ステータスに補正がかかりまーす!ランダムな項目にステータスポイントが追加されるの♪」
興奮し、暴走気味のナナの事はさて置いた。確かに運試しだった。数を多く揃える程、旅立つ前からプレイヤーの間には格差が生まれる。
MMOにとってステータスポイントは、キャラクターを育て上げるのに重要な領域を占めている。
あとAGIが1あれば...あとDEXが2あれば...というように、1ポイントや2ポイントの差が大きな差になる事をカナトは理解していた。
「なるほど。確かに運命の大箱だね」
「そそ♪じゃあ早速いっちゃいますかー♪」
ナナが楽しそうに指を鳴らした。腹の奥に響くような音をたてながら、リールがゆっくりと動き出した。
ナナは興奮し過ぎて目が血走っている。
「うーワクワクするー♪この瞬間が1番楽しいんだよねー♪なんかこう血が熱くなるっていうか!」
「...多分ナナが現実に来たら、何ヶ月か蟹漁に行く事になるね」
「なにそれー意味わかんない。そんな事はいいから、早くボタンを押してよー!」
「...ボタンってどれ?」
「はぁ?目の前にあるじゃない!」
カナトの目の前にはマンホールの蓋のような鉄製の突起物がある。しかしそれは触れずとも分かるほどに重厚な圧力を放っていた。
「...この見るからに体力を吸い取りそうな物がボタン?タンッタンッタンッとは押せそうに無いんだけど」
「あ・の・ね!この程度の困難を乗り越えられなければ、とてもじゃないけどworldではやっていけないの!言わばこれは最初の試練でもあるの!」
確かにナナの言う通りだった。何かを得る為には何かを失う。それはどの世界でも当たり前の事だった。
「分かった。押すよ」
「うん、頑張って♪さぁーそっろうっかなー♪」
両足を地面に食い込ませるようにして踏ん張りを利かせ、体重をボタンにかける。重い。
途端に汗が全身から噴き出す。それと同時に少しずつだがボタンが奥へと動いた。
拳2つ分程奥へ押し込むと、カチッという音がした。
「1つ目のリールが止まったよ♪さぁ続けていってみよー♪」
背後からナナの能天気な応援が聞こえる。
「人の気も知らないでっ...!!」
体力が底をつく前に、一気に力を込めた。2回目,3回目,4回目...
9回目を押し終えると同時にその場にへたり込んだ。
「はぁ...はぁ...はぁ......押したぞ」
背後にいるナナに話しかけるが、返事が無い。立ち上がる力も無いまま、体を捻らせてナナの方を向いた。
「おい、ナナ。押したぞ!」
カナトが止めたリールを見つめ、ナナは固まっていた。放心状態と言ってもいい。カナトの言葉が耳に入っていないようだった。
呼吸を整えてなんとか体を起こし、ナナの隣へ行った。カナトが隣にきても、ナナはまだリールを見つめている。
カナトも顔を上げ、自分が押した結果を見た。
999999999
9の数字が綺麗に並んでいた。カナトは胸の奥の、更に奥の方が熱くなる程の興奮を覚えた。
10話目を迎える事が出来ました。
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