ステータス
テーブルの上にある見慣れぬ飲み物。マニキュア容器程の大きさの小瓶にそれは入っていた。中身は透明な水のような物もあれば、青色・黄色・緑色を始めとした様々な色があった。
得体の知れない物を口にするのは躊躇われる。そんなカナトの考えを察してか、ナナは嬉しそうにしていた。
「好きなの選んでいいよー♪」
「...飲んで大丈夫な物なんだろうね?」
「大丈夫だいじょうぶ!飲めば分かるから〜♪」
大丈夫か?とは思いつつも、ナナの好意を無下にはできない。比較的安全そうな透明な液体の入った小瓶を選んだ。小瓶の飲み口にはワインのコルクに似た蓋が詰まっていた。指先を使って引っ張ると、ポンッと渇いた音がした。
「さぁクイッと飲んじゃってよ♪」
そうは言っても不安があるのは否めない。取り敢えず匂いを嗅いでみる。
限りなく無臭に近かった。が、ほのかにハーブのような香りがした。
意を決し、小瓶の中身を口にする。
「...不味くない。というより美味しい寄りかもしれない」
「だから大丈夫って言ったでしょ!疑り深いなー」
ナナが頬を膨らませていた。疑われるような態度をするからいけない、とカナトは思ったが、ここで余計な事を口走るとまた面倒な事になるので話を変えた。
「味も良いし、それに体の疲れがとれた気がする」
「よく気が付きました!これは回復薬。減少したHPを回復する効果のある飲み物なの。worldでの基本アイテムの一つだからね。覚えておいて!まぁ飲み物って言っても、喉を潤す程の量しか入ってないけどね♪」
「了解。回復薬ね。覚えたよ。透明意外の飲み物は何?一つひとつに何かしらの効果があるの?」
「あー。ここにある飲み物はぜーんぶ回復薬だよ!売っている店によって味が違うんだよね。狩りの時の必需品で飲む機会も多いから、お気に入りの回復薬を探し出すって楽しみもあるの!私のお気に入りはこれ♪」
ナナは赤色の回復薬の蓋を取り、一口で飲み干した。
「やっぱりこれが最高〜♪ベリベリー味♪」
スイーツを食べている時の女性のような笑顔をナナが見せた。が、すぐに何かを思い出したようにハッとした表情をして話始めた。
「ごめん!ステータスについてだったね。このまま回復薬談義に花が咲く所だったー♪」
「回復薬が美味しいのは分かった。おれもステータスの話をして欲しいと思ってた」
「そうだよね!よし、聞き洩らさないでよ?」
コホンと咳払いをし、ナナがゆっくりと話だした。
「worldでプレイヤーのステータスとなる項目は6項目あるの。HP・STR・VIT・DEX・AGI・LUKがその6項目ね。そのうちのHPはプレイヤーのLvに依存してるから置いといて、レベルアップ時に得る事が出来るステータスポイントをHP以外の5項目のステータスに振る事で、プレイヤーそれぞれの色を出していくの。5項目を一言で言うと
STR=腕力
VIT=強靭力
DEX=正確性
AGI=敏捷性
LUK=運
こんな感じなの。ここまで大丈夫?」
MMOでは見慣れた表現だった。カナトはクビを縦に振り、理解出来ている事を示した。
「おっけー♪じゃあこの5項目を分かりやすく説明するね。まずはSTR。カナト、木剣を振ってみて」
言われた通りにベルトのホルダーから木剣を抜き、数回振った。木剣は軽く、自由自在に振ることが出来た。
「現STR値が1のカナトは木剣を自在に操れるよね?STRの値を上げるという事は、より重い武器を今の速度で振れるという事なの。そうすると-」
「攻撃力の上昇に繫がる、と」
「その通り!まぁSTRを上げなくても重い武器を装備は出来るんだけど、持ち上げるのが精一杯で、自在に振る事は出来ないの。カナトは理解が早いから、どんどん行くよー♪次はVITね!VITが1のカナトが普通に移動したり走ったりする動きを無理なく出来るのがその布製の防具達なの。でもVITを上げると、例えば中世の騎士なんかが身に付けていたような重装備をしていても、今と同じように動けるの」
VITは防御力に直結する。こちらもMMOプレイヤーにとっては当たり前の事だった。カナトの反応を見て、ナナは次の項目に進んだ。
「色々予想がついているみたいだから続けていくね!DEXは武器を扱うときの正確性!いまのDEX1の状態だと、普通に木剣は振れてもせいぜい胴体や足、頭などの部位を狙うのが精一杯なんだけど、DEXを上げる事で急所を正確に狙う事が出来るようになるの。例えば、防具と防具の僅かな隙間を剣先で狙ったりね♪AGIは身のこなし!AGI1の今は現実での感覚のままでしょ?AGIを上げていくと身のこなしが軽くなってアクロバティック動きが出来るようになるの。敵の攻撃を避ける事も簡単になってくの♪」
DEXを上げる事で正確性のある剣技を習得するのも、相手の攻撃を華麗に避けるのも魅力的であった。
「ただ、DEXとAGIはちょっとバランスをとらなきゃいけないの。DEXをあげて正確な剣を身に付けても、動きが遅いと当たらないし、AGIを上げて俊敏性を得ても、その俊敏性を活かす正確性と視認力が無いと宝の持ち腐れになるの。だからこの2つのバランスは難しいの。だから、考えながら振ってね!」
「分かった。自分のなりたい姿を目標として設定して、ステ振りしてけばいいんだね」
「そうそうその通り!あれもこれもと振ってると中途半端になるからそこは注意が必要かな♪あ、最後にLUK!これはまぁ運だね!運が良くなる!レアなモンスターを発見する確率が上がったり、何かをする時の成功確率が上がったり、戦闘中にモンスターが突然転んで背中が丸見えになって楽に討伐出来たり...などの良いこ事が起きる確率が上がるの。まぁ運っていうあまり目に見えての違いが無いステータスだから、あんまり振る人はいないかな!」
カナトもMMOプレイ時に自キャラクターのLUKを上げた事は無い。worldでも上げるつもりは無いステータスであった。
「どう?ステータスについては理解出来たかな?」
「うん。worldの為に友達と練習がてらMMOをしていた事があるから、ここまでの話は理解出来たよ」
「あ、じゃあもしかしてworld内で友達が待ってるとか?じゃあ急いで説明終わらすね!♪」
「...ありがとう」
レイの顔が頭に浮かんだ。レイの事だ。朝一番にログインして、新しい世界で自分の掲げた目標に向かって突き進んでいるに違いない。
心が暖かくなり、そして冷めていった。
昨日もレイに会ったのに、遠い昔の事のようだ。この感覚を、これからは毎日感じる事になるのだろう。
「.....ナト......カナト!!聞いてる!?」
「ごめん。ぼーっとしてて聞いてなかった」
「ちょっと。もう少しなんだからちゃんと聞いててよねー。最後にスキルについてなんだけど」
スキル。ステータスに並び、プレイヤーにとっては非常に重要な項目だ。
「worldはスキルツリー性なの。スキルツリー、分かる?」
「あぁ、分かるよ」
スキルツリー。スキルを取るごとに次に取得可能なスキルが枝分かれのように広がっていく、MMOにもよくあるタイプの制度だ。
「分かるなら話が早い♪worldには戦闘用は基本として、生産系・商人系・職人系・娯楽系などの様々な魅力的なスキルがあるの!スキルポイントはLvアップ時以外にも貰える機会は結構あるから、余り気にしすぎなくても大丈夫♪興味のあるスキルはとって遊んでみても面白いかも♪」
スキルポイントを色々と使えるというのは有難かった。カナトは以前から釣りという物に興味があった。釣りスキルがあれば、是非とも取得したいと考えていたからだ。
様々な説明をしてくれたナナに、感謝の気持ちを伝えた。
「ナナ、ありがとう。とっても分かりやすかったよ」
「なら良かった♪」
ストレートな言葉で褒められて、ナナも嬉しそうだ。
ステータス、スキルについての説明を受けたという事は、多分もう終わりだろう。いよいよworldでの活動が始まると思うと、カナトの鼓動も早くなる。
高まった気持ちを抑えながら、カナトが口を開く。
「説明はこれで終わりかな?」
カナトの言葉を聞き、ナナは不敵に笑った。まだ何かあるようである。
「右と左が分かる程度には説明したから大丈夫♪困った事があったら王都にいる人に聞いたら教えてくれるかもね♪じゃあ最後に...新人さんの新人さんによる新人さんのための運試しゲーェェェェムゥううう!!♪」
最後の最後に、また何かに巻き込まれそうだった。




