君が紡ぐ鈴の音を聞きながら8(最終話)
まだ肌寒い、しかし夏の匂いを何処か遠くに感じながら二人は浜辺に腰をおろした。
もう立つことも難しくなり茉奈は智樹の身体に寄り添っている。
呼吸も浅くゆっくりになっていた。
「とも……言いたい事は全部この前…言っちゃた気がするな…」
「そうか…」
「とも…もう…最後だから…強がらなくて良いんだよ…」
そう言われた智樹は俯いている。
「茉奈…死なないでくれよ…もっと側に居たいよ…」
「ごめんね…ちょっと…それは無理そうかな…」
智樹の涙が止まらない。ポタポタと茉奈の頬を濡らしていく。
「とも…私を見つけてくれて、ありがとう。」
「茉奈…君は俺の世界にたくさんの色をつけてくれた。俺の心の足りない物を埋めてくれた。あの時言った生涯で一番の恋と言うのは変わらないよ。今でもこれからも俺が生きて来た中で、生きていく中で最愛の女性だよ。」
「嬉しい…」茉奈は儚く笑顔を浮かべる。
「私…運命なんて信じて無かった…でもこうしてあなたにまた出逢えて、一緒に過ごして…感じるの…あなたは私の運命の人だって…」
智樹は茉奈を強く抱き寄せる。
「とも…私が居なくなっても忘れないで…」
「ああ。約束する。ずっと忘れない…」
「でも、引きずらないで…あなたにはもう一人幸せにしないといけない人がいるでしょ…大切にしてあげて…」
「ああ…わかった。」
「あなたに出逢えて良かった…」
智樹は腕に中にいる茉奈の力が段々と弱く、命が霞んでいくのを感じてた。
どうにも出来ない自分が悔しくて仕方なかった。
「この一年…本当に幸せだったよ…あなたの腕の中にこうして戻れて…とも…あい…して…る…」
「茉奈…まだ行くな…もっとたくさん伝えたい事があったのに…もっと二人でしたい事があったのに…なんでこんな時に言葉が上手く出てこないんだ」
茉奈はゆっくりと智樹の頬に手を寄せ刹那の笑顔を浮かべたその顔は儚くそして美しく慈愛に満ちた笑顔だった。
「大丈夫だよ…ともの気持ちはちゃんとね。私に届いている。あなたの愛はちゃんと…届いているよ…身体が消えても私の心はあなたと共にいるから…とこしえの恋人でしょう?」
「ああ…俺達の絆は永遠に消えない」
「とも…キスして…」
智樹は茉奈の顔に上半身を近づけ口づけを交わした。
ほんの一瞬だけ、コンマ何秒かもしれないが二人は時間が止まったと感じた。
この瞬間にこの世界の片隅には二人だけが息をして、お互いの鼓動を感じている。
二人だけの永遠の瞬間…
だが、そのまほろばの時間は不意に消え時間が二人を元に戻す。
茉奈の体からは全ての力が抜け呼吸も鼓動もその全てが終息を迎え活動を停止した…
智樹は茉奈が消えてしまった…茉奈の身体を強く抱きしめて声にならない嗚咽を何度も何度も漏らす。
涙は果てることなく溢れてきた。
暫くして咲花が側に寄り添い茉奈を二人で抱き合い悲哀の刻を過ごす。
二人が愛した女性は逝ってしまった。
二人にたくさんの愛を残して。
鈴の音の笑い声はもう響かない…
一年半後…
とある街にとても不思議な家族がいた。
全員が血につながりのない家族。
少女は地元の大学に通い、月に2度か3度来る家族との時間を待ちわびながら高恋時代から続く恋人との時間を過ごしている。
母親代わりの女性は来年に向けた正式な結婚への準備を進めながら彼の到着を待ちわびていた。
彼は地元での仕事を済ませ終点東京行きの
新幹線ヘと乗りこんだ。
不意にあの時逢えるはずもない人の元へこうやって乗りこんだ事を思い出す。
目的地へと近づく車内で彼は思う。
君を忘れない…どんな時も。そして冬が来れば…寒くなって来たら…強く思い出すだろう。
二人が過ごした遠回りでも何よりも幸せだったあの時を…
車内アナウンスが目的地の駅名を告げる…
さあ咲花と麻美が待っている。
彼は大きな鞄を肩に背負い新しい家族の元へと歩きだした。
不意に鈴の音が聞こえたような気がした。
君は喜んでくれているかい…
そう思いながら自分を乗せていたものを後にした。
鈴の音を聞きながらBサイドはこれで完結です。
いろいろ読みにくかったと思いますがたくさんの閲覧ありがとうございました。




